レーザソー事件

投稿日: 2020/01/20 0:47:52

今日は、平成30年(ワ)第34728号 特許権に基づく損害賠償請求事件について検討します。原告は株式会社東京精密、被告は浜松ホトニクス株式会社です。

 

1.検討結果

(1)本件発明は、レーザ光でウェーハ内部に改質領域を形成した上で、この改質領域から延びる微小亀裂をウェーハ表面に露出させない状態でウェーハ裏面及び改質領域を研削除去する手段に関する発明です。

(2)被告(浜松ホトニクス)は、レーザ光源、光学系ユニット、自動焦点ユニット及びこれらの制御装置から成るレーザエンジンを製造し訴外株式会社ディスコに販売しています。この訴外会社がレーザエンジンを搭載したSDレーザソー、研削装置その他SDBGプロセスに必要な装置からなるシステムを製造販売しています。このシステムではレーザエンジンの制御装置による制御の下で、レーザ出射装置からウェーハに向けて所定の条件でレーザ光を出射することにより、ウェーハ内部に改質領域が形成されます。

(3)このように被告各製品は本件発明の対象となるシステムの一部品のため、間接侵害の案件となりました。争点は①SDBGプロセス実行システムが直接侵害に該当するか否か、②被告各製品が本件発明に係る「物」の「生産に用いる物(中略)であってその発明による課題の解決に不可欠なもの」に当たるか否か、でしたが、判決では②のみ取り上げています。そして、本件発明は、「内部にレーザ光で改質領域を形成したウェーハを分割するための」とあるように「形成した」との文言からすれば、既にその内部にレーザ光で改質領域が形成されたウェーハを加工対象物として、その割断のための分割の起点を形成する装置であることが明らかである。SDレーザソーに搭載される被告各製品は、あくまでその内部にレーザ光で改質領域を形成したウェーハを製作するためのものであり、本件発明に係る分割起点形成装置に対しては、その加工対象物を提供するという位置付けを有するものにとどまるというべきであるから、このような被告各製品をもって、同分割起点形成装置の生産に用いる物ということはできないというほかない、と述べています。さらに、判決では本件発明において、課題解決手段による作用効果を直接もたらすものは、「研削手段」以外には存しないというべきであり、研削手段ではない被告各製品は「その発明による課題の解決に不可欠なもの」に当たるとはいえない、と述べています。

(4)確かに原告(東京精密)の言う通り、本件発明に係る分割起点形成装置が効果を奏するためにはレーザによるウェーハ内部の改質領域の形成なくしては成立しません。しかし、判決の言う通り本件発明自体はレーザにより内部に改質領域が形成されたウェーハから改質領域を研削除去する研削の仕方に関する発明であるので、レーザに関する機構の製造・販売が間接侵害を形成するというのは無理があるように思います。

(5)本件のような間接侵害案件の場合、何故直接侵害で訴えられる相手ではなく、間接侵害しか主張できない相手を被告としたのか気になります。そこで間接侵害を提起した理由について推測してみたいと思います。

本判決文や原告・被告のホームページから得られた情報は以下のとおりです。

① 被告は訴外会社に被告各製品を納めている。

② 原告及び訴外会社はともに半導体製造装置メーカでレーザを利用したダイシングマシンを現在製造販売している。

③ 被告はレーザを用いてウェーハの内部加工を行い高品質に分割するダイシング方法に関して、訴外会社と業務提携を行っている。

④ 原告も2017年9月18日までは被告と業務提携していた。

以上からすると、原告が現在販売しているレーザダイシングマシンについて、業務提携を解消した被告からレーザの機構に関して特許権を侵害しているとの警告があった、と推測されます。そう仮定して、原告が間接侵害で被告を訴えた理由を想像してみます。

通常企業間で特許侵害の警告を受けた場合に取りうる対応の一つとしてポピュラーなのは、逆に相手製品が侵害している自社の特許権(カウンタ特許)を提示して、全部または一部を相殺しようとする手法です。これは、例えば本件に登場する企業でいえば原告と訴外会社のように半導体製造装置で競合する関係であれば、半導体製造装置の特許で直接侵害の主張ができます。しかし、一方が半導体製造装置のメーカ、他方がその装置に組み込まれるレーザ装置のメーカの場合、後者のレーザ装置特許は前者のレーザ装置を組み込んだ半導体製造装置に直接侵害の主張が可能ですが、前者の半導体製造装置特許は、半導体製造装置を製造も販売もしていない後者に対しては直接侵害の主張ができません。その場合に半導体製造装置のメーカがレーザ装置のメーカに対して特許権侵害を主張するには間接侵害を用いるしかありません。このような理由で本件訴訟が起こった可能性がありえます。

(6)もちろん、半導体製造装置のメーカがレーザ装置に係る特許権を有していればレーザ装置のメーカに対して直接侵害を主張することも可能です。しかし、技術分野が大きく異なるためレーザの専門家もそれほどおらず、専業メーカのような開発はしていないでしょうからレーザに関するキー技術の発明を生み出し特許権を有することは難しいと思います。最近は一社で製品に係る部品を全て開発するのではなく、外部で開発された部品を購入する傾向が強まってきていると言われますが、将来的に購入先を変更する可能性も考えて知的財産取得戦略を考える必要があります。逆に、部品を納入する側は少なくともその部品や周辺について知的財産取得戦略を考える必要があります。

(7)今回は興味深いケースだったので普段は極力書かないようにしている推測をだいぶ書きました。推測部分には誤っている部分があると思いますが、完成品メーカと部品メーカの間における知的財産の問題がこのような形になる可能性はあるのであえて書いてみました。

2.手続の時系列の整理(特許第6197970号)

① 本件特許は特願2011-131490(特許第5803049)の第4世代の分割出願です。なお、特願2011-131490の分割出願は第1世代が特願2015-168990(特許第5900811号)、第2世代が特願2016-039946(特許第6157668号)及び特願2016-039945(特許第6128666号)、第3世代が特願2016-121905及び特願2016-121904(特許第6103739号)です。

3.本件発明(請求項3)

A 内部にレーザ光で改質領域を形成したウェーハを分割するための分割起点形成装置において、

B 前記ウェーハの前記改質領域を研削除去するための研削手段であって、

前記改質領域から延びる微小亀裂を前記ウェーハの表面に露出させない状態で前記ウェーハの裏面を研削除去する研削手段を有する、

D 分割起点形成装置。


4.被告の行為等

ア 被告は、被告各製品(ただし、別紙被告各製品目録1(2)の製品(型番700DS)については、下記イのSDレーザソーに搭載されていると認めるに足りる証拠はない。)を製造し、訴外株式会社ディスコ(以下「訴外会社」という。)に販売している(甲3、4)。被告各製品は、レーザ加工を行うためのレーザエンジンであるところ、レーザエンジンとは、レーザ光源、光学系ユニット、自動焦点ユニット及びこれらの制御装置から成り、制御装置による制御の下で、レーザ出射装置からウェーハに向けて所定の条件でレーザ光を出射することにより、ウェーハ内部に改質領域が形成される。

イ 訴外会社は、被告各製品(ただし、前記アのとおり、別紙被告各製品目録1(2)の製品を除く。)を搭載したSDレーザソー(型番はDFL7361、DFL7362)、研削装置(型番はDGP8761)その他SDBGプロセス実行に必要な全ての装置(ただし、エキスパンド装置を除く。)からなるシステム(SDBGプロセス実行システムB)を製造販売等している(甲4、乙15)。

5.争点

間接侵害(特許法101条2号)の成否

(1)SDBGプロセス実行システムBの直接侵害該当性(争点1)

(2)被告各製品が、本件発明に係る「物」の「生産に用いる物(中略)であってその発明による課題の解決に不可欠なもの」に当たるか(争点2)

(3)被告が、本件発明が特許発明であること及び被告各製品が本件発明の実施に用いられることを知っているか(争点3)

6.当事者の主張

(1)争点1(SDBGプロセス実行システムBの直接侵害該当性)

【原告の主張】

SDBGプロセス実行システムBは、本件発明の構成要件AないしDを全て充足するから、同システムBの製造販売等は直接侵害に該当する。構成要件C(「前記改質領域から延びる微小亀裂を前記ウェーハの表面に露出させない状態で前記ウェーハの裏面を研削除去する研削手段を有する、」との文言)を充足する理由は、次のとおりである。

すなわち、被告作成の動画(甲6)からすれば、微小亀裂はウェーハの表面に露出しておらず、また、被告推奨の加工条件(甲12の②)によれば、被告は、研削によっても微小亀裂がウェーハ表面に到達しない方法(甲12の②)を推奨している。この点、被告が指摘する差替予定の新動画(乙3)は信用性がなく、また、訴外会社の品質保証条件については、ステルスダイシング加工の段階で微小亀裂のウェーハ表面への到達が「可能」であることをいうものにすぎない。

【被告の主張】

SDBGプロセス実行システムBは、少なくとも構成要件Cを充足しないから、同システムBの製造販売等は直接侵害に該当しない。このことは、微小亀裂のウェーハ表面への到達が明確に示されている、差替予定の新動画(乙3)、訴外会社の品質保証条件(ステルスダイシング加工の段階で微小亀裂のウェーハの表面への到達が可能であること)から明らかである。原告が指摘する甲6の動画をみても、エキスパンド工程に先立ち微小亀裂がウェーハの表面に到達(露出)していることが表示されており、また、甲12も、SDBGプロセス実行システムBにおいて考えられる各方法とその特徴及び長所、短所を解説したものにすぎず、構成要件C充足の根拠となるものではない。

(2)争点2(被告各製品が、本件発明に係る「物」の「生産に用いる物(中略)であってその発明による課題の解決に不可欠なもの」に当たるか)

【原告の主張】

ア SDレーザソー(被告各製品搭載)及び研削装置は、本件発明の「分割起点形成装置」を構成するものであるといえるから、被告各製品は、本件発明に係る「物」の「生産に用いる物」に当たるといえる。このことは、本件明細書の記載(段落【0165】ないし【0168】、【0170】ないし【0184】等)にあるように、改質領域の形成からウェーハの分割までの一連のプロセスを実行する装置が全てそろって初めて技術的に意味があることから裏付けられる。

イ 本件発明が、ウェーハの切断の際に、チップが割れたりチップ断面から発塵したりするという不具合によって、安定した品質のチップが得られないという問題点を解決するために、新たに開示した従来技術に見られない特徴的技術手段は、構成要件C(「前記改質領域から延びる微小亀裂を前記ウェーハの表面に露出されない状態で前記ウェーハの裏面を研削除去する」)の点にある。

しかして、そのためには、研削手段による研削の仕方だけでなく、レーザ光による改質領域及びこれから伸びる微小亀裂の作り込みが重要であることが明らかであるから、ウェーハの裏面を研削除去しても微小亀裂をウェーハの表面に露出させないことが可能となるような改質領域を形成するレーザ光は、本件発明の特徴的技術手段を特徴付ける特有の構成に該当するといえる。

そうすると、このレーザ光を照射する被告各製品は、当該構成を直接もたらす特徴的な部材に当たるといえ、SDBGプロセス実行システムBは、被告各製品を用いることにより、本件発明の課題を解決するものであるから、被告各製品は、「その発明による課題の解決に不可欠なもの」に当たるといえる。

【被告の主張】

ア 被告各製品は、本件発明に係る「分割起点形成装置」(研削装置)の「生産に用いる物」に当たらない。すなわち、本件特許請求の範囲の記載には、「分割起点形成装置」は、「内部にレーザ光で改質領域を形成したウェーハを分割するための分割起点形成装置」であるというように、「形成した」と明記されており、その内部にSDレーザソーによりレーザ光で改質領域を形成したウェーハを加工対象物とすることは明らかであって、この加工対象物に対し、改めてSDレーザソーによる加工をすることはない。

イ 被告各製品は、「その発明による課題の解決に不可欠なもの」に当たらない。すなわち、本件発明の特徴的技術手段は、「研削手段」の点にあって、改質領域形成手段(レーザエンジン)の点にはない。本件明細書においても、研削工程における微小亀裂の進展は、専ら研削工程におけるウェーハの熱膨張の調整により制御されるとされ、改質領域形成工程と研削工程における微小亀裂の進展との間に有意な関連性はない。

(3)争点3(被告が、本件発明が特許発明であること及び被告各製品が本件発明の実施に用いられることを知っているか)

【原告の主張】

被告は、遅くとも本件訴状の送達により、本件発明が特許発明であること及び被告各製品が本件発明の実施に用いられることを知ったものである。

【被告の主張】

原告の上記主張は、争う。

7.裁判所の判断

1 本件事案に鑑み、まず、争点2(被告各製品が、本件発明に係る「物」の「生産に用いる物(中略)であってその発明による課題の解決に不可欠なもの」に当たるか)について判断する。

(1)本件特許請求の範囲は、前記第2の1のとおりであり、その構成要件Cは、「前記改質領域から延びる微小亀裂を前記ウェーハの表面に露出させない状態で前記ウェーハの裏面を研削除去する研削手段を有する、」分割起点形成装置という文言の記載であるところ、本件特許の特許出願の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)には、発明の詳細な説明として、次の記載がある(甲2)。

-省略-

(2)以上を前提に、以下判断する。

ア 本件特許請求の範囲の記載をみると、本件発明に係る「物」である「分割起点形成装置」(構成要件A、D)は、「内部にレーザ光で改質領域を形成したウェーハを分割するための」装置であるものであって、上記の「形成した」という記載文言からすれば、既にその内部にレーザ光で改質領域が形成されたウェーハを加工対象物として、その割断のための分割の起点を形成する装置であることが明らかである

このことは、本件明細書の各記載からも裏付けられる。すなわち、本件発明の課題は、チップ断面の改質領域の部分からの発塵やチップの破断等を防ぎ、抗折強度の高い、安定した品質のチップを効率よく得るようにすることにあるところ(段落【0010】、【0022】)、本件発明は、研削後においても、微小空孔が大きくなり亀裂が進展するものの、完全に基板は分割されていない点に技術的特徴があり(段落【0051】)、また、本件発明の実施の形態によれば、研削によりレーザ光により形成された改質領域内のクラックを進展させることができるため、チップCの断面にレーザ光により形成された改質領域が残らないようにすることができる(段落【0209】)というのである。これらによれば、本件発明は、その内部に既にレーザ光で改質領域が形成されたウェーハを対象として所定の加工等を行うに当たり、クラックの進展の程度を制御しようとする技術思想のものであることが認められる

そうすると、SDレーザソーに搭載される被告各製品は、あくまでその内部にレーザ光で改質領域を形成したウェーハを製作するためのものであり、本件発明に係る分割起点形成装置に対しては、その加工対象物を提供するという位置付けを有するものにとどまるというべきであるから、このような被告各製品をもって、同分割起点形成装置の生産に用いる物ということはできないというほかない

したがって、被告各製品は、本件発明に係る「物」の「生産に用いる物」に当たるということはできない。

イ また、上記のとおり、構成要件A、Dは、既にその内部にレーザ光で改質領域が形成されたウェーハを加工対象物として、その割断のための分割の起点を形成する装置であることを示すものであり、本件発明に係る上記技術思想を実現する構成を特定するものではないことからすれば、本件特許請求の範囲の記載において、同技術思想について具体的に特定している構成は、構成要件B(「前記ウェーハの前記改質領域を研削除去するための研削手段であって、」)、構成要件C(「前記改質領域から延びる微小亀裂を前記ウェーハの表面に露出させない状態で前記ウェーハの裏面を研削除去する研削手段を有する、」)にいう「研削手段」であるものというべきである

そうすると、本件発明は、SDBGプロセス実行システムBを実現する複数の装置の中で、上記「研削手段」により、課題を解決する発明であると解されるものであって、本件発明において、課題解決手段による作用効果を直接もたらすものは、上記「研削手段」以外には存しないというべきであるから、「その発明による課題の解決に不可欠なもの」に当たるものは、構成要件B、Cの「研削手段」であるというべきである。

しかして、SDレーザソーに搭載される被告各製品は、飽くまでウェーハ内部に改質領域を作るための装置であって、上記構成要件B、Cの「研削手段」を実現する装置ではない。そうすると、被告各製品は、「その発明による課題の解決に不可欠なもの」に当たるとはいえないというべきである。

ウ 以上のア、イによれば、被告各製品は、本件発明に係る「物」の「生産に用いる物(中略)であってその発明による課題の解決に不可欠なもの」に当たるとはいえないというべきである。

(3)原告の主張について

ア 原告は、本件明細書の記載(段落【0165】ないし【0168】、【0170】ないし【0184】等)にあるように、改質領域の形成からウェーハの分割までの一連のプロセスを実行する装置が全てそろって初めて技術的に意味があるものであることからすれば、SDレーザソー(被告各製品搭載)及び研削装置は、本件発明の「分割起点形成装置」を構成するものであるといえ、被告各製品は、本件発明に係る「物」の「生産に用いる物」に当たるといえる旨主張する。

しかし、原告が指摘する本件明細書の記載(段落【0165】ないし【0168】、【0170】ないし【0184】等)が、研削除去工程だけでなく被告各製品が関わるレーザ改質工程についても触れたものとなっているとしても、本件特許請求の範囲の記載は、飽くまで「内部にレーザ光で改質領域を形成したウェーハを分割するための」(構成要件A)、「分割起点形成装置」(構成要件D)というものであり、その記載文言上、既にその内部にレーザ光で改質領域が形成されたウェーハを加工対象物として、その割断のための分割の起点を形成する装置であることが、一義的に明確なものとなっているものと認められる。そうである以上、本件明細書の上記記載がレーザ改質工程についても触れたものとなっていることを指摘することによって、本件特許請求の範囲の記載文言から導いた前記認定を左右することはできないというべきである。

また、仮に、原告が指摘するように、改質領域の形成からウェーハの分割までの一連のプロセスを実行する装置が全てそろって初めて技術的に意味があるとしても、それぞれの工程を担う各装置自体は、不可分一体となっているものではなく、改質領域を形成したウェーハを製作するための装置、かかるウェーハに対して研削という加工をするための装置というように、それぞれの各装置として具体的に把握できるものであって、上記の技術的な意味を指摘することから当然に、本件特許請求の範囲の記載文言から導いた上記認定が左右される根拠となるものとはいえない。

以上に照らせば、SDレーザソー(被告各製品搭載)及び研削装置が、本件発明の「分割起点形成装置」を構成するものであるとする根拠はないというほかなく、原告の上記主張は、採用することができない。

イ 原告は、本件発明の特徴的技術手段が、構成要件C(「前記改質領域から延びる微小亀裂を前記ウェーハの表面に露出されない状態で前記ウェーハの裏面を研削除去する」)の点にあることは前提としつつも、そのためには、研削手段による研削の仕方だけでなく、レーザ光による改質領域及びこれから伸びる微小亀裂の作り込みが重要であることが明らかであり、ウェーハの裏面を研削除去しても微小亀裂をウェーハの表面に露出させないことが可能となるような改質領域を形成するレーザ光は、本件発明の特徴的技術手段を特徴付ける特有の構成に該当するから、このレーザ光を照射する被告各製品は、当該構成を直接もたらす特徴的な部材に当たるといえる旨主張する。

しかし、原告が指摘する、レーザ光による改質領域及びこれから伸びる微小亀裂の作り込みの重要性について検討しても、そもそも、本件発明の技術思想との関連で、研削工程と有意な関連性を有する改質領域形成手段(ウェーハの裏面を研削除去しても微小亀裂をウェーハの表面に露出させないことが可能となるような改質領域を形成するレーザ光)が備えるべき具体的な構成、条件等についての説明は、本件明細書に何ら見当たらないところであって、原告の上記指摘は、明細書の記載に根拠を有しない主張といわざるを得ない。そうである以上、原告が指摘する上記改質領域形成手段が、本件発明の特徴的技術手段を特徴付ける特有の構成に該当するということはできないから、レーザ光によりウェーハ内部に改質領域を作るため、SDレーザソーに搭載される被告各製品は、本件発明に関して、「その発明による課題の解決に不可欠なもの」に当たるとはいえないものというべきである。

したがって、原告の上記主張は、採用することができない。

2 小括

以上によれば、その余の争点について判断するまでもなく、本件において、間接侵害(特許法101条2号)は成立しないものというべきである。原告は、その他縷々主張するが、そのいずれを慎重に検討しても、上記説示を左右するに足りるものはなく、いずれも採用の限りでない。