美肌ローラ事件(控訴審)
投稿日: 2019/01/07 22:06:30
今日は、平成29年(ネ)第10086号 損害賠償請求控訴事件(原審 大阪地方裁判所平成28年(ワ)第4167号)について検討します。原審の判決については約1年前に当ブログにて検討済みです(2017年10月26日)。
1.検討内容
(1)原審の判決では抵触性に関する判断は示されず、特許は無効であるので侵害を認めないというものでした(特許法104条の3第1項)。一方で、特許無効審判(無効2016-800085)の審決は請求不成立でした。その後、侵害訴訟の原告(特許権者)は控訴しましたが、特許無効審判の請求人(原審の被告)は出訴しなかったので審決は確定しました。
(2)本件判決では、被告製品が特許に抵触するとの判断が示され、さらに特許無効審判で請求不成立が確定した無効理由における同一の証拠による同一の当事者間での第104条の3第1項に基づく無効の主張は信義則に反して認められない、とされました。
(3)私の知る限りでは特許無効審判の請求不成立審決が確定したことにより、侵害訴訟で104条の3の無効の抗弁が認められるか否か争われたケースは無かったように思います。おそらく被控訴人(原審の被告)は上告すると思いますが、最高裁ではどのように判断されるのか興味があります。もっとも被控訴人には特許無効審判の審決を不服として審決取消訴訟を提起する機会は与えられており、さらに被控訴人が出訴せずに審決を確定させてしまったことに特別の理由もなさそうなので、知財高裁の判決が支持されるような気がします。
(4)原審の判決を検討した時に、被告が請求不成立審決を不服として出訴しなかった点に違和感を覚え検討しましたが、一事不再理による104条の3の制限までは思い至りませんでした。ただキルビー判決を受けて104条の3を立法した時にこのようなケースを想定していたのか?とも思います。
(5)いずれにせよ実務上知っておいた方が良い判例だと思います(来年以降の弁理士試験の短答式筆記試験で出題されても不思議ではないように思います。)。本件において原審の被告が審決取消訴訟を提起しなかった理由は不明ですが、いかなる理由があろうとも侵害訴訟と並行する特許無効審判で請求不成立審決を受けた請求人(被告)は審決取消訴訟を提起する必要があると言えます。
あるいは初めから特許無効審判を請求するようなことはせず、地裁での侵害訴訟の状況に応じて必要であれば特許無効審判を請求するという戦略もあると思います。
(6)それにしても何故原審の被告が審決取消訴訟を提起しなかったのでしょうか?本件判決で示されたような一事不再理により信義則に反するという考えが不明な状態であっても、特許無効審判で請求不成立審決かつ地裁における侵害訴訟で無効と判断された状態ならば審決取消訴訟を提起すると思います。単なるミスでないとしたら、請求人(被告)に審決が送達された時点で侵害訴訟における裁判官の心証開示がされておらず、まさか地裁で無効と判断されると思わずに諦めてしまったのかもしれません。いずれにしても特許の無効の判断を二つの機関で独立して行う制度の注意点の一つと言えるように思います。
(7)特許等の場合、「無効」という判断は特許庁と裁判所の両方が可能です。前者の判断は対世的な効力があるので特許権等そのものが消滅し、後者の判断は当事者間での特許権等の行使を制限する、という違いはありますが、いずれも法的な拘束力を有しています。それに対して被告製品等が特許権等に抵触しているか否かの判断は裁判所のみが有します。特許庁にも「判定」という制度があり、それにより審判官が抵触か否かの見解を述べることはできますが、それ自体には法的拘束力はありません(当事者間でその見解に従う旨の契約をすることは可能ですが)。そう考えると、地裁における侵害訴訟の裁判において単に「その余について検討するまでもなく無効」で片づけるのではなく被告製品等が特許請求の範囲の技術的範囲に属するか否かの判断だけは示しておいて欲しい、と思います。
(8)原審の被告はベノア・ジャパン株式会社だけでしたが、控訴審では被控訴人補助参加人として株式会社ファイブスターが加わっています。また、無効2016-800085及び無効2017-800158の請求人はベノア・ジャパン株式会社だけですが、無効2017-800157及び無効2018-800094の請求人は株式会社ファイブスターだけです。ベノア・ジャパン株式会社が請求した特許無効審判(無効2016-800085)において請求不成立審決が確定しており、同一請求人による無効2017-800158はこの確定審決を理由に一事不再理として却下されています。一方、株式会社ファイブスターの請求した無効2017-800157及び無効2018-800094は、審決が出ていないので現時点ではネットで入手することはできないので内容はわかりませんが、請求人が異なるために無効2016-800085の確定審決を理由とする一事不再理は働かないので(平成23年改正)、無効2016-800085と同じ理由で特許無効審判を請求していれば、特許無効審判では無理かもしれませんが知財高裁では特許が無効と判断される可能性があります。
(9)最初なぜ控訴審で株式会社ファイブスターがわざわざ被控訴人側に補助参加したのかわかりませんでした。しかし、ベノア・ジャパン株式会社が再び請求すると一事不再理になってしまう証拠を用いて特許無効審判を請求する上で、請求人適格(利害関係人)の要件を満たす必要があるために補助参加したということも考えられます。(追記:2019.01.09)
2.手続の時系列の整理(特許第5230864号)
① 無効2016-800085は地裁判決前に請求不成立(特許は無効ではない)の審決がありました。請求人(本件の被告)は知財高裁に出訴せず、そのまま確定しました。
② 無効2017-800157及び無効2018-800094は特許無効審判の審理中です。
③ 無効2017-800158は無効2016-800085における請求不成立の審決が確定登録されているために一事不再理が適用され審決却下されました。
3.本件発明の内容(特許第5230864号)(原審の判決から引用)
【請求項1】(本件発明1)
1A 柄(10)と、
1B 前記柄(10)の一端に導体によって形成された一対のローラ(20)と、
1C 生成された電力が前記ローラ(20)に通電される太陽電池(30)と、を備え、
1D 前記ローラ(20)の回転軸が、前記柄(10)の長軸方向の中心線とそれぞれ鋭角に設けられ、
1E 前記一対のローラ(20)の回転軸のなす角が鈍角に設けられた、
1F 美肌ローラ。
【請求項2】(本件発明2)
2A 導体によって形成された一対のローラ(40)と、
2B 前記一対のローラ(40)を支持する把持部(41)と、
2C 生成された電力が前記ローラ(40)に通電される太陽電池(42)と、を備え、
2D 前記ローラ(40)の回転軸が、前記把持部(41)の中心線とそれぞれ鋭角に設けられ、
2E 前記一対のローラ(40)の回転軸のなす角が鈍角に設けられた、
2F 美肌ローラ。
【請求項3】(本件発明3)
3A 前記ローラ(20、40)が金属によって形成されていることを特徴とする、
3B 請求項1又は2に記載の美肌ローラ。
4.被告製品(原審の判決から引用)
(1)被告製品1
1a ユーザが手で把持するハンドルを有している
1b 前記ハンドルは先端が二股に分かれており、当該二股に分かれた部分それぞれに、周面に凹凸が形成された略円筒型の樹脂製部材の表面に金属メッキが施された一対のローラが、長軸方向を回転軸として回転可能に設けられている
1c 太陽電池を有しており、太陽電池によって生成された電力は、各ローラの各支持軸を介して各ローラに通電されるとともに、ハンドルに通電される
1d 前記ローラの回転軸は、平面視において、ハンドルの長軸の中心線に対し鋭角に配置されている
1e 前記一対のローラの回転軸の為す角は鈍角である
1f 美容ローラ
(2)被告製品2
2a ユーザが手で把持するハンドルを有している
2b 前記ハンドルは先端が二股に分かれており、当該二股に分かれた部分それぞれに、蓋付き略円筒型の樹脂製部材の表面に金属メッキが施された一対のローラが、長軸方向を回転軸として回転可能に設けられている
2c 太陽電池を有しており、太陽電池によって生成された電力は、各ローラの各支持軸を介して各ローラに通電されるとともに、ハンドルに通電される
2d 前記ローラの回転軸は、平面視において、ハンドルの長軸の中心線に対し鋭角に配置されている
2e 前記一対のローラの回転軸の為す角は鈍角である
2f 美容ローラ
5.争点及び争点に関する当事者の主張
(1)争点
ア 技術的範囲の属否(争点1)
(ア)被告各製品が「導体によって形成された…ローラ」(構成要件1B及び2A)を充足するか(争点1-1)
(イ)被告各製品が「生成された電力が…ローラに通電される」(構成要件1C及び2C)を充足するか(争点1-2)
(ウ)被告各製品が「ローラが金属によって形成されている」(構成要件3A)を充足するか(争点1-3)
(エ)被告各製品が「美肌ローラ」(構成要件1F、2F及び3B)を充足するか(争点1-4)
イ 無効理由(乙24発明を主引例とする進歩性欠如)の存否及び本件において特許無効を主張することの可否(争点2)
ウ 本件特許権侵害による損害額(争点3)
エ 被告各製品の販売についての被控訴人の責任の有無及び被告各製品の販売時期(争点4)
(2)争点に関する当事者の主張
ア 争点1(技術的範囲の属否)について
(ア)原判決の引用
争点1-1ないし1-3については、原判決5頁9行目から同7頁25行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。
(イ)当審における付加主張
被告各製品が「美肌ローラ」(構成要件1F、2F及び3B)を充足するか(争点1-4)
(控訴人の主張)
被告各製品は、「美肌ローラ」(構成要件1F、2F及び3B)を充足する。
(被控訴人の主張)
構成要件1F、2F及び3Bの「美肌ローラ」は、毛穴の中の汚れを押し出す作用により美肌効果を発揮する器具であると解されるが、被告各製品のローラの大きさからすれば、毛穴の中の汚れを押し出す機能を有しないから、被告各製品は「美肌ローラ」を充足しない。
イ 争点2(無効理由(乙24発明を主引例とする進歩性欠如)の存否及び本件において特許無効を主張することの可否)について
(ア)原判決の引用
原判決8頁1行目末尾に改行の上、次のとおり付加し、同14頁23行目「本件発明2」を「本件発明1」と改めるほかは、原判決7頁26行目から同15頁6行目までに記載のとおりであるから、これを引用する(以下、被控訴人の主張する無効理由を「無効理由1」という。)。
「この点に関する争点は、『本件各発明は、当業者が本件特許の出願日前に頒布された特開2005-66304号公報(以下「乙24公報」という。)に記載された発明(以下「乙24発明」という。)に、特開2002-65867号公報(以下「乙25公報」という。)、昭60-2207号公報(以下「乙26公報」という。)及び昭61-73649号公報(以下「乙27公報」という。)に各記載された技術、特開平4-231957号公報(以下「乙28公報」という。)に記載された発明(以下「乙28発明」という。)の構成、特開2004-321814号公報(以下「乙29公報」という。)に記載された発明(以下「乙29発明」という。)の構成、大韓民国登録意匠30-0399693号公報(以下「乙30の1公報」という。)に記載された意匠(以下「乙30意匠」という。)の構成又は中華民国M258730号公報(以下「乙31の1公報」という。)に記載された考案(以下「乙31考案」という。)の構成のいずれかを適用することによって容易に発明をすることができたか。』である。」
(イ)当審における付加主張
a 被控訴人は、本訴において無効理由1を主張することができるか
(控訴人の主張)
無効理由1は本件無効審判請求において無効不成立となった無効理由と同一であるところ、本件審決が確定したため、被控訴人は、同無効理由を主張して無効審判請求をすることはできなくなった(特許法167条)。したがって、本件は、「当該特許が特許無効審判により…無効にされるべきものと認められるとき」(特許法104条の3第1項)に当たらず、被控訴人は本件訴訟において無効理由1を主張することはできないし、控訴人の本件特許権の権利行使に対して権利の濫用の抗弁を主張することも許されない。
(被控訴人の主張)
(a)本件審決の確定により被控訴人が改めて無効理由1に基づく無効審判請求をすることはできないとしても、被控訴人以外の第三者は無効理由1による無効審判請求をすることが可能である。
そして、このような場合も「当該特許が特許無効審判により…無効にされるべきものと認められるとき」(特許法104条の3第1項)に当たると解すべきであるから、被控訴人が無効理由1を主張することは許される。
なお、乙24発明と本件発明2の相違点は、原判決が認定するとおり、相違点2A、相違点1B、相違点2Cに加え、「本件発明2は一対のローラが平面上の把持部材(把持部)によって両側から支持されているのに対し、乙24発明では、一対のローラが棒状の把持部材(把持部)の一端に形成されている点」(相違点4)であるが、乙28公報及び乙29公報の記載によれば、手で握って用いる器具の把持部を棒状に形成するか、平面状に形成するかは適宜選択し得る事項である。
(b)無効理由1に基づく権利の濫用
特許法104条の3第1項の適用がないとしても、本件特許は無効理由1により無効にされるべきものであるから、本件特許権の行使は、無効な特許を実施する者に不当な不利益を与えるもので衡平の理念に反する。いわゆるキルビー判決は、特許権を対世的に無効にする手続から当事者を解放した上で衡平の理念を実現するというものであり、その理念は本件にも妥当するから、控訴人が被控訴人に対し、本件特許権を行使することは権利の濫用として許されない。
b 新たな無効理由の主張
(被控訴人の主張)
(a)本件各発明は、乙24発明に、特開平2-131779号公報(乙44。以下「乙44公報」という。)若しくは特開平3-92175号公報(以下「乙45公報」という。)に記載の発明又は乙25公報若しくは乙26公報記載の技術、乙28発明、乙29発明、乙30意匠又は乙31考案のいずれかを適用することにより容易に想到することができたものであるから進歩性を欠く(以下「無効理由2」という。)。本件特許は、特許無効審判により無効とされるべきものであるから、特許法104条の3第1項により、控訴人は本件特許権につき権利を行使することができない。
(b)乙24発明と本件発明の一致点及び相違点は無効理由1における一致点及び相違点と同じである。
(c)乙44公報及び乙45公報には、生体に対して微弱電流を流す際に、電池として太陽電池を用いることが記載されている。乙44公報は、イオンを生体に浸透させるために太陽電池を用いても良いことが開示されており、イオンを生体に浸透させるという点において乙24公報と課題を共通にしている。また、乙45公報は、イオンを生体に供給するという点において、乙24公報と課題を共通にしている。
(控訴人の主張)
被控訴人の主張は、争う。
ウ 争点3(本件特許権侵害による損害額)について
(控訴人の主張)
(ア)被告各製品の販売利益
平成24年5月から平成25年3月まで(以下「本件期間」という。)の被告製品1及び被告製品2の販売数量は4565個及び962個、売上高は1408万0836円及び323万6311円である。
これによれば、本件期間における被告製品1及び被告製品2の平均販売単価は3084円及び3364円であり、また、被告各製品の原価は平成24年4月27日時点で9.95米ドル(807.84円)であるから、被告製品1及び被告製品2の1個当たりの粗利益は2276.16円及び2556.16円である。
本件期間の販売数量から推定される被告製品1及び被告製品2の年間平均販売数量は4980個及び1049個であるから、被告製品1及び被告製品2の年間の粗利益は、1133万5276円及び268万1411円となる。
したがって、平成25年3月29日から平成28年7月3日までの被告製品1及び被告製品2の販売利益は、39か月分の利益に相当する3683万9647円及び871万4585円を下らないことになり、その合計額は4555万4232円である。
よって、平成25年3月29日から平成28年7月3日までの本件特許権侵害による控訴人の損害は4555万4232円であると推定される。
(イ)被控訴人と補助参加人の間には共同不法行為が成立するから、被控訴人と補助参加人は連帯して4555万4232円を支払う義務を負う。
(ウ)また、仮に、被控訴人が廃業し、共同不法行為が成立しないとしても、被控訴人の法人格が否認され、背後者である補助参加人を同一視すべきであり、被控訴人と補助参加人は連帯して4555万4232円を支払う義務を負う。
(被控訴人の主張)
(ア)補助参加人は平成25年3月26日を最後に被告各製品の販売を行っていないから、過去の販売数量に基づいて損害額を算定するのは相当ではない。
(イ)本件期間の被告各製品の販売数量は認めるが、控訴人が主張する本件期間の被告各製品の売上げは消費税相当額を含むものであるが、消費税相当額を除いた1341万0320円及び308万2200円をもって売上げとすべきである。
(ウ)共同不法行為においては、各行為者が損害発生と因果関係がある不法行為と評価される行為を行った場合に各行為者の下で推定される損害の合算金額についての賠償義務を各行為者が連帯して負うものであるが、被控訴人は控訴人の損害発生に因果関係のある特許権侵害行為を行っていないから、被控訴人が補助参加人の下で推定される損害を補助参加人と連帯して賠償すべき義務はない。
エ 争点4(被告各製品の販売についての被控訴人の責任の有無及び被告各製品の販売時期)について
(控訴人の主張)
(ア)被告各製品の販売についての被控訴人の責任
a 共同不法行為
被控訴人は、補助参加人が被告各製品を販売していたと主張するところ、①被控訴人と補助参加人は本店所在地が同一であり、両社の役員は被控訴人代表者の親族で占められていること、②被告各製品の取扱説明書の輸入販売元欄には被控訴人の名称が記載されていること、③被告各製品の販売名には被控訴人の名称の一部である「ベノア」が付されていること、④被告各製品はインターネットモール上で「ベノア・ジャパン正規品」、「メーカー名:ベノア・ジャパン株式会社」と表示して販売されていたこと、⑤被控訴人のフェイスブックページやツイッターアカウントにおいて、被告各製品が紹介されていること、⑥被告各製品の販売先である株式会社八木兵に対する売上げは補助参加人の売上げとして計上されているものの、株式会社八木兵からの売買代金を被控訴人が受領していることからすれば、被控訴人と補助参加人は人的・物的資材及び経済的資材を共用しているといえる。被控訴人と補助参加人の被告各製品の販売に関する行為は、客観的に密接な関連共同性が認められ、被控訴人にも共同不法行為責任が認められる。
b 単独の不法行為(法人格の否認)
仮に、被控訴人が主張するとおり、被控訴人に事業主としての実態がなかったとすると、その法人格は形骸化していたのであるから、被控訴人の法人格は否認されるべきである。そして、被控訴人と補助参加人の関係に照らせば、被控訴人と背後者である補助参加人の行為は同視すべきものであり、被控訴人と補助参加人は連帯して本件特許権侵害についての損害賠償責任を負う。
また、被控訴人が被告各製品の販売を行っていたことについては、原審において自白が成立しており、自白の撤回は許されない。仮に自白が成立していないとしても、禁反言の法理により、被控訴人は、被告各製品を販売していたのが補助参加人であると主張することは許されない。
(イ)被告各製品の販売時期
a 本件特許の設定登録日以降も、被控訴人のネットショップ、フェイスブックページ及びツイッターアカウント、補助参加人の公式ウェブサイトにおいて、通電していることを表示した被告各製品が販売されている。また、平成26年12月25日、補助参加人の直営店において被告製品2が販売され、平成28年7月3日、補助参加人の直営店に被告製品2が通電していることを示すポップが置かれていた。
以上のとおり、補助参加人らは、本件特許の設定登録日以降も平成28年7月3日まで被告各製品を販売していたのであり、その行為は本件特許権侵害に当たる。
b 上記のとおり、通電しているとの外形を作出しつつ販売していた以上、被控訴人において、通電を切断する設計変更をしたとの主張をすることは信義則に反し許されない。
(被控訴人の主張)
(ア)被告各製品の販売についての被控訴人の責任
a 補助参加人は、中国の生産者に被告各製品の生産中止を指示したり、平成24年7月2日に被告各製品の輸入手続を行った業者に対しその手数料を支払ったりしていた。このことからも明らかなように、被告各製品の輸入販売を行っていたのは補助参加人である。したがって、被控訴人が損害賠償責任を負うことはない。
b 被控訴人は平成22年3月19日に設立されたが、同年9月30日までの事業年度の後は税務申告を行っておらず、平成23年9月30日ないし平成24年1月4日までには廃業している。このように、被控訴人は形骸化した存在であったため、法的に補助参加人と共同して何らかの行為を行う実体を備えておらず、補助参加人との間で共同不法行為が成立するといえるような事実行為を行っていない。
c 控訴人は原審手続の早い段階で補助参加人が被告製品を販売している可能性を認識していたが、被控訴人を被告とすることの適否について確認を行うことなく手続を進めていったのであるから、補助参加人が被告各製品の輸入販売をしていたことを主張することが禁反言の法理により許されないということにはならない。
(イ)被告各製品の販売時期
a 補助参加人は、平成24年8月11日に被告各製品を輸入しようとしたが、税関で輸入不許可にされたことから、被告各製品を積み戻した。補助参加人は、中国の生産者に対し、同年10月26日に被告各製品の生産中止を、同年12月に被告各製品のソーラーパネルと本体の接続線を遮断することを含む設計変更を指示した上、平成25年3月21日に、上記設計変更後の製品(以下、被告製品1の通電を遮断したものを「被告製品3」、被告製品2の通電を遮断したものを「被告製品4」という。また、通電している製品について「マイクロカレント通電品」ということもある。)を輸入し(乙9)、同月26日より後は、被告各製品ではなく、被告製品3及び被告製品4を販売していた。
補助参加人が、被告各製品を最後に輸入したのは平成24年4月27日であり、卸売りは平成25年3月26日(100個)が最後である。
b 被控訴人のネットショップ、フェイスブックページ及びツイッターアカウントは被控訴人の名前が冒用されたものであり、被控訴人とは関わりがない。
補助参加人は、卸売先から返品された被告各製品を直営店で小売りすることがあったが販売個数は非常に限られていたため、記録も残っておらず、平成25年3月29日以降に販売したことが確認されているのは、同年12月25日に控訴人が購入した被告製品2のみである。これは、補助参加人が小売業者から返品を受けて直営店に展示していた商品を控訴人が見つけ出して購入したものにすぎない。
6.裁判所の判断
1 争点4(被告各製品の販売についての被控訴人の責任の有無及び被告各製品の販売時期)について
-省略-
2 争点1(技術的範囲の属否)について
(1)被告各製品が「導体によって形成された…ローラ」(構成要件1B)を充足するか
ア 構成要件1Bの「導体によって形成された」の意義
(ア)「導体」とは「熱または電気の伝導率が比較的大きな物質の総称。金属の類。良導体。」(広辞苑第七版)を意味し、「形成」は「形を作り上げる」(乙18~20)ことを意味する。
そして、構成要件1Bの「導体によって形成された」「一対のローラ」の記載や、請求項1の記載全体から見ても、「導体によって形成された」について、導体のみによって形成されることを意味することを示す記載はない。
(イ)もっとも、特許請求の範囲の記載のみからは、「導体によって形成された」の具体的意義は明らかではないから、本件明細書の記載を検討する。本件発明1の実施形態の記載(【0010】~【0021】)には、熱又は電気に関する作用効果の記載として、「太陽電池30により生成した電流をローラ20に通電するように構成することもできる。」(【0014】)、「太陽電池30により生成した電流をローラ20に通電することにより、ローラ20が帯電し、毛穴の汚れを引き出し、さらに美肌効果をもたらす。これは入浴中に実行するとさらに効果的である。」(【0018】)との記載があり、これらの記載によれば、本件発明1においてローラを導体によって形成する技術的意義は、太陽電池により生成した電流をローラに通電することにより、ローラを帯電させ、毛穴の汚れを引き出し、美肌効果をもたらすことであると認められる。そうすると、本件発明1におけるローラは、その全てが導体により形成される必要はなく、ローラの使用時に皮膚と接する表面に太陽電池からの電力が供給されるようにローラの一部分が導体で形成されていれば足りると解される。
(ウ)以上によれば、「導体によって形成された」とは、ローラが導体のみによって形成されることは要せず、ローラの使用時に皮膚と接するローラの表面に電力が供給されるようにローラの一部分が導体で形成されていれば足りると解される。
イ 構成要件1Bの充足性
被告各製品のローラは、略円筒型の樹脂製部材の表面に金属メッキが施されたものであり(構成1b、2b)、太陽電池によって生成された電力が、各ローラの支持軸を介して各ローラに通電されている(構成1c、2c)。そして、金属メッキは「導体」に当たるから、ローラの使用時に皮膚と接する表面に電力が供給されるようにローラの一部分が導体で形成されているといえる。
また、被告各製品は、ハンドルの先端が二股に分かれた部分それぞれに一対のローラを有しているから(構成1b、2b)、構成要件1Bの「柄の一端に…形成された一対のローラ」の構成を有する。
よって、被告各製品は構成要件1Bを充足する。
ウ これに対し、被控訴人は、「導体によって形成された…ローラ」は、形を作り上げている部材が導体であるローラと解すべきであり、表面に金属メッキを施すことで導電性を獲得したローラはこれに含まれないと主張するが、本件明細書の記載からそのように理解することはできず、採用できない。
(2)被告各製品が「生成された電力が…ローラに通電される」(構成要件1C)を充足するか
ア 構成要件1Cの「生成された電力が…ローラに通電される」の意義
(ア)「通電」とは、「電流を通すこと。」(広辞苑第七版)との意味であるから、「生成された電力が…ローラに通電される」は、太陽電池で生成された電力がローラに伝わることであると解される。
(イ)上記(1)ア(イ)において指摘した本件明細書の【0014】、【0018】の記載によれば、本件発明1において太陽電池が生成した電力をローラに通電させる技術的意義は、ローラを帯電させ、毛穴の汚れを引き出し、美肌効果をもたらすことであると認められる。そうすると、本件発明1におけるローラと太陽電池とは、両者間に電流が通るように電気的に接続されていれは足りると解すべきである。
(ウ)以上によれば、構成要件1Cの「生成された電力が…ローラに通電される」は、ローラと太陽電池とが電気的に接続されていれば足りると評価される。
イ 構成要件1Cの充足性
被告各製品は、太陽電池によって生成された電力が、各ローラの支持軸を介して各ローラに通電される(構成1c、2c)から、被告各製品の太陽電池とローラとは電気的に接続されているといえ、被告各製品は、「生成された電力が…ローラに通電される」構成を有するといえる。
また、被告各製品は、太陽電池を有し、太陽電池によって生成された電力がローラに通電されているから(構成1c、2c)、構成要件1Cの「生成された電力が…通電される太陽電池」の構成を有する。
よって、被告各製品は、構成要件1Cを充足する。
ウ これに対し、被控訴人は、特許請求の範囲の記載からも、本件明細書の記載からも、柄等ローラ以外の部分にも通電することに言及する記載はないから、「生成された電力が…ローラに通電される」とは、太陽電池によって生成された電力が柄等ローラ以外の部分に通電することまで包含されていないと主張する。
しかし、上記アのとおり、構成要件1Cの技術的意義は、ローラを帯電させ、毛穴の汚れを引き出し、美肌効果をもたらすことであって、電力がローラ以外の部分に通電しているか否かは無関係である。よって、構成要件1Cは、太陽電池で生成された電力がローラ以外に通電していることを除外するものではなく、被控訴人の主張は採用できない。
(3)被告各製品が「美肌ローラ」(構成要件1F)を充足するか(争点1-4)
ア 被告各製品は「美容ローラ」(構成1f、2f)であり、その取扱説明書にも、「お肌の活性を図る」などと記載されているから(甲3、4)、「美肌」、すなわち、「肌を美しくする」ローラであると認められ、構成要件1F「美肌ローラ」を充足するといえる。
イ これに対し、被控訴人は、本件発明1の「美肌ローラ」は、ローラにより毛穴を開く、汚れが毛穴開口部に移動する、毛穴を収縮する、汚れが押し出されるという一連の作用により美肌効果を発揮する器具であると解すべきであり、被告各製品のローラの大きさ(被告製品1は直径約3センチメートル、長さ約5センチメートル、被告製品2は直径約4センチメートル、長さ約5センチメートル)からすれば、被告各製品のローラは毛穴の中の汚れを押し出す機能を有しないから、被告各製品は「美肌ローラ」に当たらないと主張する。
出願経過や無効審判請求における主張の経過を参酌して「美肌ローラ」の意義につき被控訴人の主張するような限定解釈をすべきであるとは認め難いが、この点を措くとしても、本件明細書の【0015】、【0016】の記載によれば、ローラにより汚れが押し出されるという効果は、本件発明1において、ローラの回転軸が柄の長軸方向の中心線とそれぞれ鋭角に設けられているという構造と、製品のローラを肌に当てて柄の長軸方向に往復させるという使用方法によりもたされるものと認められる。そして、被告各製品の取扱説明書(甲3、4)の記載に照らせば、被告各製品は、使用時にローラを往復させること、往復させる際に被告各製品を中心線のグリップ側に引くと左右のローラが肌を中心線側に寄せる様に回転する作用があること、この作用はグリップの長手方向の中心線に対してローラの回転軸が鋭角に設けられていることによることが認められる。したがって、被告各製品もローラにより毛穴を開く、汚れが毛穴開口部に移動する、毛穴を収縮する、汚れが押し出されるという一連の作用により美肌効果を発揮するといえる。
(4)以上のとおり、被告各製品は構成要件1B、1C及び1Fを充足し、その余の構成要件の充足については争いがないから、被告各製品は本件発明1の技術的範囲に属する。
3 争点2(無効理由(乙24発明を主引例とする進歩性欠如)の存否)について
(1)認定事実
ア 本件無効審判請求のうち、本件に関連する部分は次のとおりである。
(ア)被控訴人は、本件発明1~3は、乙24公報に記載された発明、乙25~27公報に記載された周知技術及び乙28~31の1公報に記載された発明、意匠ないし考案の構成のいずれかに基づいて、当業者が容易に発明することができたものであると主張したが、本件審決は、次のとおり、本件発明1~3は、乙24公報に記載された発明、乙25~27公報に記載された周知技術及び乙28~31の1公報に記載された発明、意匠ないし考案の構成のいずれかに基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるとはいえないから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものとはいえないと判断した(本件審決における甲1~8は、本件における乙24~31と対応する。)。
(イ)乙24公報には次の乙24-1発明及び乙24-2発明が開示され、これらの引用発明と本件発明1及び2との一致点、相違点は次のとおりである。
a 乙24-1発明
(a)乙24-1発明の認定
「把持部300と、
把持部300の一端に導体によって形成された一対のローラ100、100と、
生成された電力がローラ100、100に通電される乾電池400と、を備え、
ローラ100、100の回転軸である横軸部210が、把持部300の中心線とそれぞれ直角に設けられ、
一対のローラ100、100の回転軸である横軸部210のなす角が180度である、
マッサージ器。」
(b)乙24-1発明と本件発明1の一致点及び相違点は次のとおりである。
(一致点)
「柄と、
前記柄の一端に導体によって形成された一対のローラと、
生成された電力が前記ローラに通電される電池と、を備えた
肌に適用するローラ。」
(相違点1A)
ローラに通電される電力に関して、本件発明1では、「太陽電池」によって生成するのに対し、乙24-1発明では、「乾電池400」によって生成する点。
(相違点1B)
一対のローラと柄の関係に関して、本件発明1では、「ローラの回転軸が、柄の長軸方向の中心線とそれぞれ鋭角に設けられ、一対のローラの回転軸のなす角が鈍角に設けられ」ているのに対し、乙24-1発明では、「ローラ100、100の回転軸である横軸部210が、把持部300の中心線とそれぞれ直角に設けられ、一対のローラ100、100の回転軸である横軸部210のなす角が180度である」点。
(相違点1C)
肌に適用するローラが、本件発明1は「美肌ローラ」であるのに対し、乙24-1発明は「マッサージ器」である点。
b 乙24-2発明
(a)乙24-2発明の認定
「導体によって形成された一対のローラ100、100と、
一対のローラ100、100を支持する把持部300と、
生成された電力がローラ100、100に通電される乾電池400と、を備え、
ローラ100、100の回転軸である横軸部210が、把持部300の中心線とそれぞれ直角に設けられ、
一対のローラ100、100の回転軸である横軸部210のなす角が180度である、
マッサージ器。」
(b)乙24-2発明と本件発明2の一致点及び相違点は次のとおりである。
(一致点)
「導体によって形成された一対のローラと、
前記一対のローラを支持する把持部と、
生成された電力が前記ローラに通電される電池と、を備えた
肌に適用するローラ。」
(相違点2A)
ローラに通電される電力に関して、本件発明2では、「太陽電池」によって生成するのに対し、乙24-2発明では、「乾電池400」によって生成する点。
(相違点2B)
一対のローラと把持部の関係に関して、本件発明2では、「ローラの回転軸が、把持部の中心線とそれぞれ鋭角に設けられ、一対のローラの回転軸のなす角が鈍角に設けられ」ているのに対し、乙24-2発明では、「ローラ100、100の回転軸である横軸部210が、把持部300の中心線とそれぞれ直角に設けられ、一対のローラ100、100の回転軸である横軸部210のなす角が180度である」点。
(相違点2C)
肌に適用するローラが、本件発明2は「美肌ローラ」であるのに対し、乙24-2発明は「マッサージ器」である点。
(ウ)乙25~27公報の記載
a 乙25公報には、以下の事項が記載されている。
「【0018】本発明では生体に印加する電気エネルギー源として、特に交流を必要としないために、一般的な一次、二次、太陽電池などが使用できるものである。・・・
【0030】電池4としては、好ましくはボタン状のものを用いる。この形状の電池4は小型化、薄型化を図るのに適している。電池4としては、一次電池、二次電池または太陽電池等を用いることができる。・・・
【0038】本発明では生体に印加する電気エネルギー源として、一次電池、二次電池、太陽電池の電池4を使用するから、構造がシンブルで、形態が極めてコンパクトになり、常時身につけても特に負担とならず、邪魔にならない健康器具が得られる。
【0063】本発明の具体的な用法としては、その他の物品と組み合わせて使用することを制限するものではない。その一例を記載すると、・・・マッサージ器・・・」
b 乙26公報には、以下の事項が記載されている。
「・・・歯ブラシの柄の部分に乾電池や太陽電池等を内蔵し、その各々の極から電気を導電性の導体で引き出して・・・」(以下「甲3事項」という。)
c 乙27公報には、以下の事項が記載されている。
「2.特許請求の範囲
把握柄部の外周面に正電極を周設し、該把握柄部に連接する刷毛柄部の刷毛植設部に負電極を配設して、正電極と負電極の接続導線を把握柄部及び刷毛柄部に埋設した電子歯刷子において、刷毛柄部(2)の基部周面囲繞状に、1又は2以上の太陽電池(7)を受光面を外向させて配設すると共に、把握柄部(1)に化学電池(8)を内装して、該太陽電池(7)による起電力の減少時に補助電源たる化学電池(8)に切り換えるスイッチング回路(9)を、把握柄部(1)周設の正電極(4)と刷毛植設部(2a)配設の負電極(5)とを結線する接続導線(6)中に介在せしめたことを特徴とする、電子歯刷子。」
(エ)相違点1B及び相違点2Bは、乙24-1発明又は乙24-2発明及び乙28~31の1公報に記載の発明、考案ないし意匠に基づいて、当業者において容易に想到し得たとはいえない。また、乙25~27公報は太陽電池をマッサージ器や歯ブラシに適用する技術に関するものであるから、これらの文献により相違点1B及び相違点2Bを容易に想到し得たともいえない。そうすると、その余の点を判断するまでもなく、本件発明1及び本件発明2は当業者において容易に発明できたものではない。
本件発明3は本件発明1又は本件発明2をその構成の一部とするから、同様に当業者が容易に発明できたものではない。
イ 乙44公報及び乙45公報はイオン導入装置及び健康器に関する発明に関する文献であり、生体に対して微弱電流を流す際に、電池として太陽電池を用いることに関する記載がある。
(2)無効理由1について
ア 無効理由1は、本件無効審判請求と同じく、乙24公報に記載の主引例と乙25~31の1公報に記載の副引例ないし周知技術に基づいて進歩性欠如の主張をしたものであるから、無効理由1は本件無効審判請求と「同一の事実及び同一の証拠」に基づくものといえる。そして、本件審決は確定したから、被控訴人は無効理由1に基づいて本件特許の特許無効審判を請求することができない(特許法167条)。
特許法167条が同一当事者間における同一の事実及び同一の証拠に基づく再度の無効審判請求を許さないものとした趣旨は、同一の当事者間では紛争の一回的解決を実現させる点にあるものと解されるところ、その趣旨は、無効審判請求手続の内部においてのみ適用されるものではない。そうすると、侵害訴訟の被告が無効審判請求を行い、審決取消訴訟を提起せずに無効不成立の審決を確定させた場合には、同一当事者間の侵害訴訟において同一の事実及び同一の証拠に基づく無効理由を同法104条の3第1項による特許無効の抗弁として主張することは、特段の事情がない限り、訴訟上の信義則に反するものであり、民事訴訟法2条の趣旨に照らし許されないものと解すべきである。
そして、本件において上記特段の事情があることはうかがわれないから、被控訴人が本件訴訟において特許無効の抗弁として無効理由1を主張することは許されない。
イ 被控訴人は、特許法104条の3第1項の適用がないとしても、本件特許は無効理由1により無効にされるべきものであるから、本件特許権の行使は衡平の理念に反するし、いわゆるキルビー判決は、特許権を対世的に無効にする手続から当事者を解放した上で衡平の理念を実現するというものであるから、控訴人が被控訴人に対し、本件特許権を行使することは権利の濫用として許されないと主張する。
しかし、被控訴人は、本件訴訟と同一の当事者間において特許権を対世的に無効にすべく無効理由1に基づく無効審判請求を行い、それに対する判断としての本件審決が当事者間で確定し、上記アのとおり、無効理由1に基づいて特許法104条の3第1項による特許無効の抗弁を主張することが許されないのであるから、本件において、控訴人が被控訴人に対して本件特許権を行使することが衡平の理念に反するとはいえず、権利の濫用であると解する余地はない。
(3)無効理由2について
無効理由2は、無効理由1と主引例が共通であり、本件審決にいう相違点1A及び相違点2Aについて、「生体に印加する直流電源に太陽電池を用いること」が周知技術である、あるいは、副引例として適用できることを補充するために、新たな証拠(乙44公報及び乙45公報)を追加したものといえる。
本件審決は、相違点1B及び相違点2Bに係る構成の容易想到性を否定し、相違点1A及び相違点2Aについては判断していないのであるから、被控訴人が相違点1A及び相違点2Aに関する新たな証拠を追加したとしても、相違点1B及び相違点2Bに関する判断に影響するものではない。そうすると、無効理由2は、新たな証拠(乙44公報及び乙45公報)が追加されたものであるものの、相違点1B及び相違点2Bの容易想到性に関する被控訴人の主張を排斥した本件審決の判断に対し、その判断を蒸し返す趣旨のものにほかならず、実質的に「同一の事実及び同一の証拠」に基づく無効主張であるというべきである。したがって、本件審決が確定した以上、被控訴人は無効理由2に基づく特許無効審判を請求することができない。
そうすると、無効理由2についても上記(2)アにおいて説示したところが妥当するから、被控訴人が本件訴訟において無効理由2に基づき特許無効の抗弁を主張することは許されないものというべきである。
4 争点3(本件特許権侵害による損害額)について
-省略-