圧縮機事件(その3)

投稿日: 2017/05/04 5:56:09

今日も平成26年(ワ)第34678号 特許権侵害行為差止等請求事件の続きです。今日は被告製品の内容及び争点までです。

3.被告製品

被告製品にはイ号物件とロ号物件がありますが、判決文に別紙として添付されたイ号物件目録及びロ号物件目録にはそれぞれの圧縮機の型名「RS-15」及び「RS-13」の記載しかありませんでした。被告会社のHP等でも確認できなかったので判決文55頁に掲載されている図を引用します。

本件発明の圧縮機と同じ原理なので動作の説明等は省略します。

4.争点

(1)被告各製品が本件発明の技術的範囲に属するか

ア 構成要件Aの「ロータリバルブ」の充足性

イ 構成要件Cの「ロータリバルブを付勢する圧縮反力伝達手段」及び構成要件Fの「スラスト軸受手段の少なくとも一方は前記圧縮反力伝達手段の一部をなし」の充足性

ウ 構成要件Eの「前記軸孔の内周面に前記ロータリバルブの外周面が直接支持される」及び「唯一のラジアル軸受手段」の充足性

(2)本件発明に係る特許は特許無効審判により無効にされるべきものか

ア 〔無効理由1〕乙19発明による新規性欠如

イ 〔無効理由2〕乙19発明及び乙4発明による進歩性欠如

ウ 〔無効理由3〕乙21発明並びに周知技術及び慣用技術による進歩性欠如

(3)本件訂正による対抗主張の成否

ア 本件訂正が訂正要件を充たしているか

イ 本件訂正により争点(2)の無効理由を解消することができるか

ウ 新たな無効理由の存否

本事件は原告の請求が認められました。したがって、抵触性に関しては原告の主張の大部分が後述する裁判所の判断と重複するので、ここでは被告の主張のみ記します。

なお、上記争点における本件発明の構成要件は訂正前の請求項1の構成要件です。「2.特許の内容(訂正後)」に記載した訂正後の請求項1との違いは、構成要件E、Fに下線で示した構成が追加されている点です。

(1)被告各製品が本件発明の技術的範囲に属するか

ア 構成要件Aの「ロータリバルブ」の充足性

省略

イ 構成要件Cの「ロータリバルブを付勢する圧縮反力伝達手段」及び構成要件Fの「スラスト軸受手段の少なくとも一方は前記圧縮反力伝達手段の一部をなし」の充足性

〔被告の主張〕

以下のとおり,被告各製品は,構成要件Cの「ロータリバルブを付勢する圧縮反力伝達手段」及び構成要件Fの「スラスト軸受手段の少なくとも一方は前記圧縮反力伝達手段の一部をなし」を充足しない。

(1) 「ロータリバルブを付勢する圧縮反力伝達手段」の意義

ア 接触及び非接触(接離)の動作を繰り返させる構成

本件発明の「ロータリバルブを付勢する圧縮反力伝達手段」とは,「軸孔内で回転軸を傾け,回転軸のロータリバルブが吸入通路の入口に接触及び非接触(接離)の動作を繰り返させる構成」を意味するものであり,具体的には,①回転軸がロータリバルブにおいてのみ支持され,他の部分においては支持されない(回転軸の外周面と軸孔の内周面の間隔が大きい)構造であること,②上記①の支持される部分であるロータリバルブにおいても,ロータリバルブが軸孔の内周面に接離可能なように,ロータリバルブの外径が,軸孔の内径よりも十分小さいこと,③スラスト軸受が,スラスト荷重を受けて撓む構造であること,との三つの構成を備えなければならない。

イ 「回転軸が僅かに変位する程度」の除外

本件発明の「圧縮反力伝達手段」とは,「ピストンに対する圧縮反力を前記ロータリバルブに伝達」(構成要件C)し,「前記吸入通路の入口に向けて前記ロータリバルブを付勢する」(同)ことを妨げる構造を有しない構成を意味するのであり,これらを妨げる構造を有した結果,回転軸が僅かに変位する程度では,本件発明の「前記吸入通路の入口に向けて前記ロータリバルブを付勢する」という構成を充足しない。

ウ 本件特許の出願経過等による解釈

省略

エ 「押接」による「閉鎖」等

省略

オ 乙41報告書及び乙42証明書

乙41報告書のとおり,「スラスト荷重吸収機能が付与されていない」とされるスラスト軸受のみを用いた圧縮機(比較用圧縮機)であっても,原告提出の甲7報告書と全く同様の実験結果が得られている。また,乙42証明書のとおり,被告各製品と「スラスト荷重吸収機能が付与されていない」とされるスラスト軸受のみを用いた圧縮機とで,運転効率を比較したところ,両者でほぼ同等の結果が得られている。

このように,「スラスト荷重吸収機能が付与されていない」スラスト軸受であっても,圧縮反力により弾性変形し,圧縮反力がロータリバルブに伝達されるとすれば,「スラスト荷重吸収機能が付与されている」スラスト軸受を有することをもって,本件発明の「圧縮反力伝達手段」を具備すると解することは許されない。

(2) 被告各製品の充足性

ア 被告各製品のシャフト50は傾かないこと

被告各製品において,ピストン60に「圧縮反力F」が作用し,シャフト50を傾かせる方向に力が働くことは事実である。しかし,被告各製品は以下の①ないし④の構成を有しているため,上記圧縮反力が吸収され,シャフト50は傾かない。

① 斜板51の取り付け部及びスラスト軸受70,80を除く全域が,シャフト用孔21,31により軸受けされている。

② 当該軸受がシリンダブロック20,30の外側に突出するようにさらに長く設けられている。

③ シャフト50とシャフト用孔21,31がいずれも極めて高精度に仕上げられ,両者のクリアランスが極限までに小さくされている。

④ スラスト軸受70,80が,部品の寸法誤差による組付け誤差を吸収し,さらに,回転時にシャフト50が軸方向に変位することを防止するために,組立て完了時に,斜板の環状凸部51c,d及びシリンダブロック20,30の端面26,36がいずれもスラスト軸受70,80に接触し,かつ,環状凸部51c,51hと端面26,36とでスラスト軸受70,80を挟み込む力が加わった(予圧された)状態となっている。このような予圧を加えることで,回転時のシャフト50の軸方向の変位を抑え,かかる変位に起因する騒音,振動,破損等を防止している。

イ 原告の主張に対する反論

この点に関して原告は,被告各製品ではシャフト50が変位していることが確認されており,「圧縮反力伝達手段」を充足すると主張する。しかし,以下のとおり,上記主張は失当である。

(ア)原告は,甲7報告書を提出し,被告各製品では吐出行程にあるシリンダボアのフロント側通路に向けて近づくようにシャフトの外周面が変位していることが確認されていると主張する。

しかし,甲7報告書の測定結果は,軸孔中で最も力の加わる部分である端部(シリンダブロックの外側に突出して設けられた部分)が粉体によって磨耗し,これにより回転軸が傾くに至ったものにすぎない。

(イ)そもそも,被告各製品のスラスト軸受は予圧されているため,圧縮反力が加えられてもこれを吸収するのであって,さらに撓むことは容易ではない(上記④の構成参照)。

本件特許の親出願における乙30意見書にも,「〔乙9公報につき〕この弾性変形機能が付与された41,42を含むスラスト軸受40は,本願発明1でいう『圧縮反力伝達手段』に相当しません。」及び「〔乙13公報につき〕所定量の弾性変形機能が付与されたスラスト軸受109は,本願発明1でいう『圧縮反力伝達手段』に相当しません。」との記載があるのであって,スラスト軸受を予圧によりあらかじめ撓ませ,圧縮反力による更なる撓みを抑制する構成が本件発明の「圧縮反力伝達手段」ではないことは,原告自身の出願経過における主張からも明らかである。

(ウ)また,被告各製品において回転軸を回転可能に支持するために設けられているクリアランスは,JIS規格上,「転合」とされる組合せにおいて必要最小限のものでしかなく,かかるクリアランスは「シャフトの傾きを許容する隙間」ではない。

(エ)省略

(オ)加えて,被告各製品は,クリアランスを管理することで冷媒の漏れを防止しているものである。このことは,2015年(平成27年)11月20日付け実験結果報告書(2)(乙44。以下「乙44報告書」という。)記載のとおり,被告各製品における回転軸と軸孔のクリアランス30μmを50μm,70μm,90μm,110μmに変えたところ,クリアランスが30μm(被告各製品)及び50μmでは効率はほとんど変わらないものの,それより大きいクリアランスでは効率が明らかに落ちていることからも明らかである。

ウ 構成要件Eの「前記軸孔の内周面に前記ロータリバルブの外周面が直接支持される」及び「唯一のラジアル軸受手段」の充足性

省略

(2)本件発明に係る特許は特許無効審判により無効にされるべきものか

ア 〔無効理由1〕乙19発明(特開平08-334085号公報)による新規性欠如

省略

イ 〔無効理由2〕乙19発明及び乙4発明(特開平05-126039号公報)による進歩性欠如

省略

ウ 〔無効理由3〕乙21発明(特開平07-063165号公報)並びに周知技術及び慣用技術による進歩性欠如

省略

訂正前の本件発明は乙19発明及び乙4発明による進歩性欠如により無効とされるべき、と裁判官に判断されました。しかし、被告が新規性欠如を主張したため被告の主張からは本件発明と乙19発明との一致点・相違点が明確に読み取れませんでした。そのため、無効主張は被告・原告双方の主張をいずれも記載せず、裁判所の判断で触れます。

(3)本件訂正による対抗主張の成否

ア 本件訂正が訂正要件を充たしているか

省略

イ 本件訂正により争点(2)の無効理由を解消することができるか

省略

ウ 新たな無効理由の存否

省略

前述の通り、被告・原告双方の無効主張を省略したので、訂正に関しても裁判所の判断で触れます。