農産物の選別装置及び青果物の内部品質検査システム事件(その2)

投稿日: 2017/04/05 1:20:19

前回の続きで被告製品の説明(被告物件目録)からです。この判例は今回で終わりです。

3.被告物件目録(イ号物件~へ号物件(注4))

(注4)被告物件目録とは、原告が被告製品を具体的に特定した書面です。

被告物件目録のうちイ号物件に関しては被告が実際に製造販売した事実が立証されていないようなので検討から省きます。したがって、具体的に製造販売されたロ号物件~へ号物件のみ検討します。また、原告が作成した下記被告物件目録の記載のうち黄色の蛍光でマーキングした点は被告が争っています。

(1)ロ号物件目録(金沢市農業協同組合砂丘地集出荷場に設置されたスイカ選別装置及び内部品質検査システム)

(スイカ選別装置)

ロ1a 搬送ラインと結合されていないトレーと、供給エリアから箱詰エリアに渡ってスイカを載せたトレーを搬送する搬送ラインとを備え、

ロ1b 搬送ラインには、トレー上のスイカの品質を検査するために搬送ラインの途中に設定された計測エリア、並びに計測エリア上で計測された等級階級情報及びプールコンベアに存在するトレーに関する情報に基づいて個々のトレー上のスイカを排出するプールコンベアを適宜選択し、個々のトレー上のスイカを同一階級かつ同一等級ごとに仕分けするためのプールコンベアが多数分岐接続されている搬送ライン下流側の仕分エリアが設定され、

ロ1c 各トレーにはICチップが内蔵され、その上に載せられているスイカの等級階級情報をICチップの識別情報を介して間接的に読出し可能に記録し、

ロ1d 仕分エリアの上流に設けた第2のICリーダにより個々のトレーのスイカの等級階級情報を読出して該当する仕分区分のプールコンベアに該トレーを排出するスイカ選別装置であって、

ロ1e 仕分エリアからプールコンベアに排出されずにオーバーフローしたトレーを搬送ラインの上流側に戻すリターンコンベアを設けると共に、このリターンコンベアにより戻したトレーを搬送ラインに送り込む位置を、検査エリアの終端と第2のICリーダの間とした

ロ1f スイカ選別装置。

(内部品質検査システム)

ロ2a ローラーコンベア等の搬送ラインにより水平に搬送面上を移送され、中央には、円形の貫通穴を有し、その上部にスイカを載せて移送するトレーと、

ロ2b コンベア上のトレーに載ったスイカに対し、持上部材を上下動機構によりトレーの貫通穴に嵌合するように上方に移動させ、持上部材の上部円形外周部をスイカに押し当てた状態で、持上部材の内部に多数設置されたLEDにより下方の周囲から光を照射し、照射されたスイカから出る透過光を受光するようにトレーの貫通した穴を通して該スイカの一部表面に対向する受光手段と、

ロ2c 光ファイバー先端部に透過光以外の外乱光が受光するのを阻止するようにスイカと光ファイバー先端部の対向位置の間に配置される筒状の受光遮光部材と、

ロ2d 多数のLEDからの照射光を光ファイバー先端部及び受光遮光手段の間を除くスイカの周囲から該スイカを照射する投光手段とを備えたことを特徴とする

ロ2e スイカの内部品質検査装置。

(2)ハ号物件目録(きょうわ農業協同組合共和町メロン集出荷選果施設に設置されたメロン選別装置)

ハ1a 搬送ラインと結合されていないトレーと、供給エリアから箱詰エリアに渡ってメロンを載せたトレーを搬送する搬送ラインとを備え、

ハ1b 搬送ラインには、トレー上のスイカの品質を検査するために搬送ラインの途中に設定された計測エリア、並びに計測エリア上で計測された等級階級情報及びプールコンベアに存在するトレーに関する情報に基づいて個々のトレー上のメロンを排出するプールコンベアを適宜選択し、個々のトレー上のメロンを同一階級かつ同一等級ごとに仕分けするためのプールコンベアが多数分岐接続されている搬送ライン下流側の仕分エリアが設定され、

ハ1c 各トレーにはICチップが内蔵され、その上に載せられているメロンの等級階級情報をICチップの識別情報を介して間接的に読出し可能に記録し、

ハ1d 仕分エリアの上流に設けた第2のICリーダにより個々のトレーのメロンの等級階級情報を読出して該当する仕分区分のプールコンベアに該トレーを排出するメロン選別装置であって、

ハ1e 仕分エリアからプールコンベアに排出されずにオーバーフローしたトレーを搬送ラインの上流側に戻すリターンコンベアを設けると共に、このリターンコンベアにより戻したトレーを搬送ラインに送り込む位置を、検査エリアの終端と第2のICリーダの間とした

ハ1f メロン選別装置。

(3)ニ号物件目録(熊本市農業協同組合北部選果場に設置されたスイカ選別装置及び内部品質検査システム)

(スイカ選別装置)

ニ1a 搬送ラインと結合されていないトレーと、供給エリアから箱詰エリアに渡ってスイカを載せたトレーを搬送する搬送ラインとを備え、

ニ1b 搬送ラインには、トレー上のスイカの品質を検査するために搬送ラインの途中に設定された計測エリア、並びに計測エリア上で計測された等級階級情報及びプールコンベアに存在するトレーに関する情報に基づいて個々のトレー上のスイカを排出するプールコンベアを適宜選択し、個々のトレー上のスイカを同一階級かつ同一等級ごとに仕分けするためのプールコンベアが多数分岐接続されている搬送ライン下流側の仕分エリアが設定され、

ニ1c 各トレーにはICチップが内蔵され、その上に載せられているスイカの等級階級情報をICチップの識別情報を介して間接的に読出し可能に記録し、

ニ1d 仕分エリアの上流に設けた第2のICリーダにより個々のトレーのスイカの等級階級情報を読出して該当する仕分区分のプールコンベアに該トレーを排出するスイカ選別装置であって、

ニ1e 仕分エリアからプールコンベアに排出されずにオーバーフローしたトレーを搬送ラインの上流側に戻すリターンコンベアを設けると共に、このリターンコンベアにより戻したトレーを搬送ラインに送り込む位置を、検査エリアの終端と第2のICリーダの間とした

ニ1f スイカ選別装置。

(内部品質検査システム)

ニ2a チェーンコンベアにより水平に搬送面上を移送され、中央には、円形の貫通穴を有し、その上部にスイカを載せて移送するトレーと、

ニ2b チェーンコンベア上のトレーに載ったスイカに対し、複数のハロゲンランプにより周囲から光を照射し、照射されたスイカから出る透過光を受光するようにトレーの貫通穴を通してスイカの一部表面に対向する受光装置と、

ニ2c 受光装置に透過光以外の外乱光が入光するのを阻止するようにスイカと受光装置の対向位置の間に配置される遮光手段と、

ニ2d 複数のハロゲンランプからの照射光を受光手段及び遮光手段の間を除くスイカの周囲から該スイカを照射する投光手段とを備えたことを特徴とする

ニ2e スイカの内部品質検査装置。

ニ2f スイカの周囲からスイカを照射する複数のハロゲンランプは、チェーンコンベアの両側方に配置されている。

(4)ホ号物件目録(きょうわ農業協同組合共和町スイカ集出荷選果施設に設置されたスイカ選別装置及び内部品質検査システム)

(スイカ選別装置)

ホ1a 搬送ラインと結合されていないトレーと、供給エリアから箱詰エリアに渡ってスイカを載せたトレーを搬送する搬送ラインとを備え、

ホ1b 搬送ラインには、トレー上のスイカの品質を検査するために搬送ラインの途中に設定された計測エリア、並びに計測エリア上で計測された等級階級情報及びプールコンベアに存在するトレーに関する情報に基づいて個々のトレー上のスイカを排出するプールコンベアを適宜選択し、個々のトレー上のスイカを同一階級かつ同一等級ごとに仕分けするためのプールコンベアが多数分岐接続されている搬送ライン下流側の仕分エリアが設定され、

ホ1c 各トレーにはICチップが内蔵され、その上に載せられているスイカの等級階級情報をICチップの識別情報を介して間接的に読出し可能に記録し、

ホ1d 仕分エリアの上流に設けた第4のICリーダにより個々のトレーのスイカの等級階級情報を読出して該当する仕分区分のプールコンベアに該トレーを排出するスイカ選別装置であって、

ホ1e 仕分エリアからプールコンベアに排出されずにオーバーフローしたトレーを搬送ラインの上流側に戻すリターンコンベアを設けると共に、このリターンコンベアにより戻したトレーを搬送ラインに送り込む位置を、検査エリアの終端と第4のICリーダの間とした

ホ1f スイカ選別装置。

(内部品質検査システム)

ホ2a チェーンコンベアにより搬送面上を水平に移送され、中央部に貫通穴を有し、その上部にスイカを載せて移送するトレーと、

ホ2b このチェーンコンベア上のトレーに載ったスイカに対し、複数のハロゲンランプによりスイカの側方から光を照射し、照射されたスイカから出る透過光を受光するように上記トレーの貫通した穴を通して該スイカの一部表面に対向する受光手段と、

ホ2c ハロゲンランプからの光が直接受光装置に入ることを防止する構造と、

ホ2d 複数のハロゲンランプからの照射光をスイカの周囲から該スイカを照射する投光手段を備えたことを特徴とする

ホ2e スイカの内部品質検査装置。

ホ2f スイカの周囲からスイカを照射する複数のハロゲンランプは、チェーンコンベアの両側方に配置されている。

(5)ヘ号物件目録(なのはな農業協同組合第1梨選果場に設置された梨の内部品質検査装置)

(スイカ選別装置)

ヘ2a チェーンコンベアにより搬送面上を水平に移送され、中央部に貫通穴を有し、その上部に梨を載せて移送するトレーと、

ヘ2b このチェーンコンベア上のトレーに載った梨に対し、複数のハロゲンランプにより梨の側方から光を照射し、照射された梨から出る透過光を受光するように上記トレーの貫通した穴を通して該梨の一部表面に対向する受光手段と、

ヘ2c ハロゲンランプからの光が直接受光装置に入ることを防止する構造と、

ヘ2d 複数のハロゲンランプからの照射光を梨の周囲から該梨を照射する投光手段を備えたことを特徴とする

ヘ2e 梨の内部品質検査装置。

ヘ2f 梨の周囲から梨を照射する複数のハロゲンランプは、チェーンコンベアの両側方に配置されている。

 

4.被告の主張

被告による特許無効主張は特許無効審判で用いた文献に基づくものであって、侵害訴訟でも無効と認められなかったので検討対象から外します。

(1)本件特許1

① 構成要件1B「所定の仕分区分別の仕分ライン」及び1D「該当する仕分区分の仕分ライン」の充足性(ロ号~ホ号物件)

構成要件1Bにおける「所定の」とは、農産物の階級及び等級の仕分区分があらかじめ定まったものをいうと解すべきである。また、構成要件1Dの「該当する」は、同1Bの「所定の」と同義と考えられる。

ところが、ロ号~ホ号物件は、階級及び等級の仕分に関する情報に基づいてコンベアから排出されるべき仕分ラインは不定であり、読み出し装置においても、等級階級情報のほかに時々刻々変化するプールコンベアについての情報も読み出さなければ農産物を排出すべきプールコンベアが決められない構造になっているから、構成要件1B及び1Dを充足しない。

② 構成要件1E「前記計測軌道領域の終端と前記仕分け情報読出し手段の間」の充足性(ロ号~ニ号物件)

本件明細書1においては、仕分排出軌道領域で排出されずにオーバーフローし、リターンコンベアで上流側に戻されたフリートレイを選別コンベアに送り込む位置を、計測軌道領域の終端と仕分け情報読出し手段の間としたことが本件発明1の重要な特徴であるとし、その作用効果は、農産物の荷口の混同が防止されることにあると記載されている。

ロ号~ニ号物件は、リターンコンベアの終端が計測軌道領域の終端と前記仕分け情報読出し手段の間に存在するが、上記の作用効果を奏するためのものでないから、構成要件1Eを充足しない。

(2)本件特許2

① 構成要件2B「トレーに載った青果物に対し・・・光を照射し」及び「トレーの貫通した穴を通して・・・対向する受光手段」の充足性(ロ号物件)

ロ号物件では、内部品質検査を行うために投光手段から光を照射する際、農産物が持上部材によってトレーの上方に持ち上げられており、トレーに載っていないから、構成要件2Bの「トレーに載った青果物」を充足しない。また、透過光を受光する光ファイバーの先端部が遮光部材内に設置されていることから、持上部材によってスイカが上方に持ち上げられる際、上記先端部もトレーにある貫通穴を通過して上方に持ち上げられるので、受光手段が「トレーの貫通した穴を通して該青果物の一部表面に対向」しないから、この点でも構成要件2Bを充足しない。

② 構成要件2B「複数の光源」及び2D「複数の発光光源」の充足性(ロ号、ホ号及びヘ号物件)

構成要件2Bの「複数の光源」及び2Dの「複数の発光光源」は、複数の発光光源を用いて照明光学系を構成することで単一の発光光源による照明と同一の電力でより多い光量を得ることができるものをいうと解すべきである。ところが、ロ号、ホ号及びへ号物件は、こうした複数の光源を有していないから、構成要件2B及び2Dを充足しない。

③ 構成要件2C及び2D「遮光手段」の充足性(ホ号及びヘ号物件)

ホ号物件は、農産物と受光手段の対向位置の間に配置される「遮光手段」を有しないから、構成要件2C及び2Dを充足しない。原告は、トレーの上面に形成された凹部が遮光手段に該当すると主張するが、本件発明2-1において「遮光手段」は「トレー」と別に設けられる必要があり、このことはトレーそのものが遮光手段をなり得る請求項を平成10年2月18日の補正(乙27)により追加したが、平成13年4月24日の補正により削除したという本件特許権2の出願経過に照らしても明らかである。

へ号物件につき、構成要件2Cにいう「遮光手段」は「透過光以外の外乱光」に対して遮光効果を奏するものである必要があると解されるところ、へ号物件は透過光以外の光がそもそも受光部に入らない構成であり、かつ、保護リングが遮光作用を奏していないから、構成要件2Cを充足しない。原告は、保護リングの下部全体が構造上遮光作用を奏すると主張するが、仮に遮光作用を有するとしてもその作用は透過光に対するものであるから、失当である。

 

5.裁判所の判断

(1)本件特許1

① 構成要件1B「所定の仕分区分別の仕分ライン」及び1D「該当する仕分区分の仕分ライン」の充足性(ロ号~ホ号物件)

ロ号~ホ号物件において農産物をどのプールコンベア(本件発明1の「仕分ライン」に相当する。)に排出するかが等級階級情報(同「仕分け情報」に相当する。)だけでなくプールコンベアに存在するトレーに関する情報に基づいて定まること、各プールコンベア上のトレーの集積状態に応じて排出先となるプールコンベアが適宜変動し得ることは争いがない。

構成要件1Bとして「仕分け情報に基づいて・・・排出するように」が「所定の・・・仕分ライン」を修飾していることに照らすと、「仕分ライン」は農産物が載置された個々の受皿の排出先であり、農産物の仕分区分別に設けられるもので、仕分け情報に基づいて上記受皿が排出できるものであることを意味するものと解される。また、受皿の排出先を決めるに当たっては、計測軌道上で計測された仕分け情報に基づくとされるが、それ以外の情報、例えば、排出時にプールコンベアに存在する受皿に関する情報を考慮することは排除されていない。

そして「所定の」とは、仕分け情報に基づいて上記受皿の排出先が決まるように仕分ラインが定まっていることを意味するものと解される。

また、構成要件1Dの「該当する」は「一定の条件等に当てはまること」といった意味を有する用語である。そして、「読出し手段により・・・農産物仕分け情報を読出して」に引き続いて「該当する・・・仕分ライン」と記載されていることに照らすと、「該当する」とは、ある受皿の農産物仕分け情報を読み出した結果、その受皿がいずれか一つの仕分区分に当てはまることを意味するものと解される。

以上によれば、「所定の」及び「該当する」については、個々の受皿の仕分け情報を読み出した後に排出先が決定される時点でその受皿が排出されるべき仕分ラインが定まっていればよく、あらかじめ固定的に設定されていなくてもよいと解するのが相当である。

ロ号~ホ号物件はいずれも農産物の排出先のプールコンベアが仕分け情報に基づいて排出先を決定する時点までに定まるものと解されるから、構成要件1Bの「所定の」を充足する。また、仕分エリアの上流に設けた第2のICリーダ(ロ号~ニ号物件)又は第4のICリーダ(ホ号物件)により個々の受皿のスイカ等の等級階級情報を読み出してこれに対応する仕分区分のプールコンベアにその受皿を排出する構成であるから、構成要件1D「該当する」を充足すると判断するのが相当である。

② 構成要件1E「前記計測軌道領域の終端と前記仕分け情報読出し手段の間」の充足性(ロ号〜ホ号物件)

被告は、①ロ号~ホ号物件は農産物の荷口の混同防止という構成要件1Eの作用効果を奏していない、と主張するが、上記①の点は本件明細書1において構成要件1Eの作用効果を限定する趣旨の記載が見当たらないことに照らし失当である。

(2)本件特許2

① 構成要件2B「トレーに載った青果物に対し・・・光を照射し」及び「トレーの貫通した穴を通して・・・対向する受光手段」の充足性(ロ号物件)

本件発明2-1の構成及び目的に照らせば、青果物は光を照射する箇所に移送されるまで及び照射後はトレーに載せて搬送コンベア上を移送する必要があるが、照射の時点ではトレーに直接載っている必要はないということができる。また、本件明細書2には、上記遮光手段の実施例として穴開き弾性シートが挙げられ、上記トレーの上部全体にこれをかぶせてその上に青果物を載せることが示されている。そうすると、構成要件2Bの「トレーに載った青果物」は、構成要件2Aの「その上部に青果物を載せて移送するトレー」との記載を受けて、トレーと青果物の移送中の位置関係を規定したものであって、光を照射する箇所までに至るトレーの上に存在していれば足り、照射の時点において青果物の下部がトレーと接触した状態にあることは要しないものと解するのが相当である。

「穴を通して該青果物の一部表面に対向する」態様は、受光手段の全体が上記の穴の下側にある場合だけでなく、その先端が上記の穴を突き抜けて対向する場合を含むものと解される。

ロ号物件の構成は、上記ア及びイで判示したところに照らせば、構成要件2Bの「トレーに載った青果物に対し・・・光を照射し」及び「トレーの貫通した穴を通して・・・対向する受光手段」を充足するものと認められる。

② 構成要件2B「複数の光源」及び2D「複数の発光光源」の充足性(ロ号、ホ号及びヘ号物件)

ロ号物件は多数設置されたLEDを、ホ号及びへ号物件は複数のハロゲンランプをそれぞれ有し、それぞれがスイカ又は梨の周囲から光を照射するものであるから、構成要件2B「複数の光源」及び2D「複数の発光光源」を充足すると認められる。

③ 構成要件2C及び2D「遮光手段」の充足性(ホ号及びヘ号物件)

ア ホ号物件

本件発明2-1は、特許請求の範囲に記載されたとおり、「トレーと」、「受光手段と」、「遮光手段と」、「投光手段とを備えたことを特徴とする・・・光透過検出装置」であり、「トレー」は「搬送コンベアにより・・・移送する」もの、「遮光手段」は「この受光手段に・・・配置される」ものとされている。そうすると、「遮光手段」は、遮光という機能を果たすものであれば全てこれに当たるとみるのは相当でなく、トレーと別個の部材で構成されることを要すると解するべきである。

以上を前提にホ号物件が構成要件2C又は2D「遮光手段」を充足するかどうかについて検討すると、トレーとは別に遮光手段となる部材が設けられていないことは明らかであるから、上記構成要件を充足するとは認められない。

イ ヘ号物件

ヘ号物件においては別紙へ号物件構成図のとおりトレー上に保護リングが着脱可能に設けられており(「トレー断面図」及び「トレー写真」参照)、これに梨を載せるとその下部と保護リングが接触する(「進行方向から見た側面拡大図」参照)と認められる。そして、梨の側方に照射された光は梨の表面及びトレー内部においてあらゆる方向に反射及び散乱すると考えられることに照らすと、保護リングによってこうした反射光及び散乱光が梨の下部ひいては受光部に到達することが妨げられると解される。また、遮光手段が青果物の傷付き防止作用を兼ねることは本件明細書2に開示されている(段落【0020】)。したがって、ヘ号物件は上記構成要件を充足すると認められる。

 

6.検討

(1)本件特許1

① 構成要件1B及び1Dの充足性(ロ号~ホ号物件)

被告は計測軌道領域で計測された仕分情報だけで仕分ラインを決定するのが本件発明である、主張しているように思います。

しかし、裁判官はロ号~ホ号物件について、どの仕分ラインに振り分けるかを決定するには、先に入手した階級及び等級の仕分に関する情報に加え、後から入手した時々刻々変化するプールコンベアについての情報も利用しているに過ぎないと捉えたようです。

そうなると、結局は特許発明の構成要件が「A+B+C」であるのに対して被告製品の構成はこれに単にDが付加された「A+B+C+D」に過ぎないことになり構成要件を充足していると判断されてもやむを得ないと思います。

② 構成要件1E「前記計測軌道領域の終端と前記仕分け情報読出し手段の間」の充足性(ロ号〜ホ号物件)

被告は、構成要件1Eの作用効果を農産物の荷口の混同防止と述べていますが、明細書等に記載もない作用効果を被告が考え出してもなかなか採用されないと思います。

(2)本件特許2

① 構成要件2B「トレーに載った青果物に対し・・・光を照射し」及び「トレーの貫通した穴を通して・・・対向する受光手段」の充足性(ロ号物件)

裁判官は、本件発明2-1の構成及び目的に照らせば、青果物に照射する時点ではトレーに直接載っている必要はなく、さらに実施例でトレーと青果物の間に弾性シートが設けられていることを挙げています。その上で、構成要件2Bの「トレーに載った青果物」はトレーと青果物の移送中の位置関係を規定したものであって、光を照射する箇所までに至るトレーの上に存在していれば足り、照射の時点において青果物の下部がトレーと接触した状態にあることは要しないものと解するのが相当であるとしています。

しかし、構成要件2Bを読む限り照射時点で青果物がトレーに載っていると捉える方が自然だと思います。技術的には裁判官が述べるように青果物が照射時点でトレーに直接載っていなくても品質検査が可能だとは思いますが、請求項の記載から逸脱することには疑問を持ちます。

また、確かに実施例では青果物とトレーの間に弾性シートが敷かれている例もありますが、弾性シート動いたりしないので実質的にトレーと一体であるので「青果物がトレーに載った状態」と考えられます。したがって、実施例には青果物がトレーに載った状態で光を照射するケースしか例示されていないと解されます。

結局、請求項2は照射時点で青果物がトレーに載った状態と規定するものであって、照射時点でスイカが持上部材によりトレーから持上げられた状態は構成要件2Bを充足しないと考えます。

ただし、「トレーに載った青果物」と「持上部材によりトレーから持上げられたスイカ」が均等の範囲内であるか否か別の問題です。本件では均等の主張がなされていないようですが、この部分は均等の範囲か否かという話のように思います。

もし、控訴されている場合には知財高裁でどのように判断するのか注目したいところです。

② 構成要件2B「複数の光源」及び2D「複数の発光光源」の充足性(ロ号、ホ号及びヘ号物件)

被告の主張はかなり苦しい解釈だと思います。

③ 構成要件2C及び2D「遮光手段」の充足性(ホ号及びヘ号物件)

ア ホ号物件

裁判官は「遮光手段」が「トレー」と別部材と解釈していますが、特許請求の範囲の記載だけでそのような解釈に導くのは難しいように思います。「遮光手段」が遮光という機能を果たすものであれば全てこれに当たると無効理由が存在するとか、出願人により意識的に限定されたとか、そういった根拠が必要だと思います。

イ ヘ号物件

裁判官はトレー上に保護リングが設けられており、保護リングによって反射光及び散乱光が梨の下部ひいては受光部に到達することが妨げられると解される、と述べています。判決には具体的な保護リングの構成が添付されていませんが、明らかにそのような構造なのでしょうか?裁判官は遮光手段とトレーが別部材でなければならないと判断しているにも関わらず原告が作成したロ号物件目録(ホ2c)とへ号物件目録(ヘ2c)の記載が同じです。そうであれば、原告がトレーの貫通穴の縁により遮光される光量とさらに保護リングで遮光される光量を計測して保護リングが遮光手段であることを立証する必要があるように思います。

 

5.所感

本件は、抵触性や無効性については特段目新しい論点や判断はありませんでした。しかし、本件の場合は別の点に驚きがありました。

一般に工場に納入される検査設備や生産設備に関する特許で権利行使した事例は珍しいと思います。普通はA社が生産設備に関する特許を持っており、B社がユーザに納入した生産設備がA社の特許権を侵害している可能性があるとわかっても、B社のユーザの工場内の設備を調べさせてもらうことはできません。仮にA社の特許を侵害しているとなった場合、ユーザの工場の設備を停止させて特許権を回避するような改造をする必要に迫られる可能性もあるからです。そういう意味で本件の場合は原告がよく調査できたものだと驚きました。

納入先である農協が公共的団体なので調べ易い、とかあるのでしょうか?