美容ローラ

投稿日: 2018/12/16 23:31:57

今日は、平成30年(ワ)第3018号 特許権侵害差止等請求事件について検討します。原告である株式会社MTGは、判決文によると、美容器具、化粧品等の製造、販売等を目的とする株式会社だそうです。一方、被告である株式会社CBJ Internationalはインターネット等のネットワークを利用したコンテンツ等の企画、開発、管理運用、販売等を目的とする株式会社だそうです。

 

1.手続の時系列の整理

(1)特許第5922914号

(2)ファミリ

① 本件特許が親出願となり、これをベースに3件の分割出願があります(2018.12.16現在)。

② 第一世代の特願2014-197056(特許第5847904号)は特許無効審判を4件請求されています。これらはすべて株式会社ファイブスターが請求人です。本件発明とは特許請求の範囲の内容がだいぶ異なります。

③ このブログでも扱いましたが、本件原告が株式会社ファイブスターを被告として侵害訴訟を提起したことがありました。その時は本件とは異なる特許でしたが、一審、二審とも非侵害という判断でした。

2.本件発明

A1 ハンドル(12)の先端部に交差軸線(L1、L2)上に位置する一対の支持軸(20)を設けるとともに、

2 各支持軸(20)の先端側に回転体(27)を回転可能に支持し、

3 それらの回転体(27)により身体に対して美容的作用を付与するようにした

4 美容器において、

B 前記各支持軸(20)の基端側をホルダ(22)の両端部(22a)で押さえるとともに、

C そのホルダ(22)の中間部(22b)をハンドル(12)に固定したことを特徴とする

D 美容器。


3.争点

(1)被告製品の構成要件Bの「前記各支持軸の基端側をホルダの両端部で押さえる」及び構成要件Cの「ホルダ」の充足性(なお、被告はこれら以外の構成要件の充足性について争っていない。)

(2)無効理由の有無

ア 特開2011-120893号公報(乙11。平成23年6月23日公開。以下「乙11文献」という。)に基づく新規性欠如(特許法29条1項)

イ CN201586180U(乙12。2010年(平成22年)9月22日公告の中国実用新案公告公報。以下「乙12文献」という。)に基づく新規性又は進歩性欠如(特許法29条1項、2項)

ウ 実施可能要件又は明確性要件違反(特許法36条4項1号、6項2号)

4.争点に関する当事者の主張

(1)争点(1)(被告製品の構成要件Bの「前記各支持軸の基端側をホルダの両端部で押さえる」及び構成要件Cの「ホルダ」の充足性)について

(原告の主張)

ア 被告製品は製品本体内部にネジで取り付けるソーラーパネル取付台を有し、同部材の回転体側先端部の裏側には回転体の支持軸及び支持軸の本体側先端部分のフランジに係合する形状の半円形状の凹部である係合部及び段差が形成されている。そして、ソーラーパネル取付台を支持軸の上にかぶせて被告製品にネジで固定することによって、ソーラーパネル取付台に支持軸のフランジが引っかかり、ソーラーパネル取付台の係合部や段差が支持軸を上から押さえて固定している。これらからすると、被告製品のソーラーパネル取付台は構成要件B及びCの「ホルダ」に該当し、被告製品は構成要件Bの「前記各支持軸の基端側をホルダの両端部で押さえる」及び構成要件Cの「ホルダ」を充足する。

イ 被告は、被告製品の支持軸は接着剤によって被告製品本体内部に接着固定しており、ソーラーパネル取付台は支持軸を固定していないと主張するが、そうであればソーラーパネル取付台に係合部や段差を形成する理由がなく、被告の主張は理由がない。被告は、上記係合部等はリード線のハンダ付け部分をカバーするためのものであるとも主張するが、係合部はハンダ付け部分を押さえるような形状とはなっていないし、ハンダ付け部を押さえる必要性もない。仮に被告製品の支持軸が接着剤によって固定されているとしても、ソーラーパネル取付台も支持軸を固定する機能を有していることに変わりはないから、被告製品は構成要件Bの「前記各支持軸の基端側をホルダの両端部で押さえる」及び構成要件Cの「ホルダ」を充足する。

ウ 原告が平成28年2月に入手した被告製品の支持軸には接着剤は塗布されておらず、接着剤が塗布されていない被告製品が販売されていたこと、被告製品は接着剤の塗布がなくても支持軸とソーラーパネル取付台との組付けによって被告製品本体に固定されること、被告製品の支持軸を接着剤のみで固定した場合と接着剤及びソーラーパネル取付台で固定した場合では後者の方が支持軸の抜去力が大きいことを示す実験結果報告書(甲11)等からも、被告製品のソーラーパネル取付台は、支持軸を固定する機能を有しており、構成要件B及び構成要件Cを充足する。

(被告の主張)

ア 本件発明の構成要件Bの「前記各支持軸の基端側をホルダの両端部で押さえる」及び構成要件Cの「ホルダ」とは、ホルダの両端部で支持軸の基端側を固定する構成を有するものをいう。これに対し、被告製品の支持軸は接着剤によって被告製品本体内部に接着固定されており、被告製品は、支持軸を固定するための「ホルダ」を有さず、また、「回転体を支持するための一対の支持軸をハンドルに対して簡単に固定することができるという効果」(本件明細書の段落【0008】)等の効果を奏しておらず、構成要件B及び構成要件Cを充足しない。

イ 原告は、被告製品のソーラーパネル取付台が「ホルダ」に該当すると主張するが、同部材は、支持軸を固定する機能を有しておらず、支持軸が接着剤で被告製品本体内部に接着固定された後にその上に設置されるものにすぎない。実際に、ソーラーパネル取付台をかぶせただけでは支持軸は固定されず、支持軸を接着剤で被告製品本体内部に接着固定しなければ、支持軸は簡単に抜け、ソーラーパネル取付台が支持軸を固定する機能を有していない。

原告は、ソーラーパネル取付台には半円形状の凹部である係合部及び段差が設けられており、これが支持軸に組み付けられると主張するが、同部分はリード線のハンダ付け部分をカバーするためのものである。

ウ 原告は、平成28年2月に入手した被告製品には接着剤は塗布されていなかったと主張するが、製造段階におけるミスにより、接着剤の量が不足していた被告製品が市場に少数出回っていたにすぎず、原告もその後入手した被告製品にはすべて接着剤が塗布されていたことを認めている。

エ 原告は、被告製品の支持軸を接着剤のみで固定した場合と接着剤及びソーラーパネル取付台で固定した場合では後者の方が支持軸の抜去力が大きいと主張し、実験報告書(甲11)を提出する。しかし、被告製品は製品によって接着剤の塗布量などに個体差があり、製品によって接着剤の寄与の度合は異なるから、特定の製品を実験対象としても、被告製品全部の構成を立証したことにはならない。また、上記報告書の実験においては、接着剤を塗布せず、ソーラーパネル取付台のみで固定した場合の抜去力を実験していないこと、同実験ではローラにワイヤーを引っかけるためのネジを装着してワイヤーで引っ張る方法とベアリングや支持軸をチャックして引っ張る方法が使用されているが、これらの実験方法は全く条件が異なり、測定結果を一律に比較することはできないこと、実験に使用された被告製品の購入時期やカバーの有無が異なること、ローラやベアリングが外れた際の抜去力に著しいばらつきがあること、上記報告書は原告従業員が作成した報告書であることなどの問題があり、信用性に乏しい。

(2)争点(2)(無効理由の有無)について

ア 乙11文献に基づく新規性欠如

(被告の主張)

(ア)乙11文献には、①ハンドルの先端部に交差軸上に位置する一対の支持軸が設けられていること(乙11文献の【図6】~【図8】。構成要件A1に相当)、②腕部の先端側にマッサージを行うためのローラが回転可能に支持されていること(乙11文献の段落【0001】【0013】。構成要件A2~3に相当)、③ローラ取付部材の左右両端部にそれぞれ腕部を含むローラ連結部の一端を回転軸により軸支固定すること及び当該回転軸をローラ取付部材の穴に挿通してEリングによって抜け止めすること(乙11文献の段落【0008】~【0010】。構成要件Bに相当)、④ローラ取付部材の中間部をローラ連結部を介してハンドルに固定すること(乙11文献の段落【0008】【図1】【図2】。構成要件Cに相当)、⑤以上の構成を有する美容器(構成要件Dに相当)が開示されている(以下、乙11文献に記載された発明を「乙11発明」という。)。

乙11発明におけるローラは本件発明の「回転体」に該当する。腕部を含むローラ連結部は、ローラを支持するものであり、本件発明の「支持軸」に該当する。また、ローラ取付部材は、支持軸の基端部に形成された回転軸15のEリング29によって抜け止めされ、その両端部においてローラ連結部(支持軸)を固定するものであるから、本件発明の「ホルダ」(支持軸の基端の抜け止め頭部と係合することにより支持軸が抜け止め固定される。)に該当し、乙11発明は本件発明の構成要件を全て備えているから、本件発明は新規性を欠く。

(イ)これに対し、原告は、構成要件Bの「押さえる」は「物に力を加えて、動かないように固定する。」という意味であるのに対し、乙11発明の構成③においては、回転軸をローラ取付部材の穴に挿通してEリングによって抜け止めする構成であり、回転軸に力を加えて動かないように固定するものではないから、乙11発明には構成要件Bの「押さえる」との構成が開示されていないと主張する。

しかしながら、本件明細書の【図4】においては、ホルダの断面部が支持軸の上下に描かれており、ホルダを単に支持軸の上からかぶせるのでなく、ホルダに支持軸が挿入されることが示されている。また、本件明細書の段落【0013】には支持軸の抜け止め頭部とホルダとが係合して固定されることが示されている。

したがって、本件発明の構成要件Bの「押さえる」との構成は、少なくとも、支持軸の基端に設けられた抜け止め頭部や押さえ部、その他支持筒等の部材との勘合・係合によって固定される構成を包含し、そのような構成の上位概念であり、乙11文献で開示された固定方法と相違しない。

(原告の主張)

(ア)本件発明と乙11発明は、本件発明が支持軸の基端側をホルダの両端部で「押さえる」(構成要件B)のに対し、乙11文献にはそのような構成が開示されておらず、乙11発明が上記構成を有しない点で相違し、本件発明は乙11発明に対して新規性を有する。

(イ)被告は、本件発明の構成要件Bの「押さえる」は、少なくとも、支持軸の基端に設けられた抜け止め頭部や押さえ部、その他支持軸筒等の部材との勘合・係合によって固定される構成を包含し、そのような構成の上位概念であると主張する。

しかしながら、「押さえる」とは、一般的に「物に力を加えて、動かないように固定する。」との意味である。また、本件明細書には、本件発明の実施形態として、ホルダの両端部に支持軸の基端側を押さえるためのほぼ半円筒状の押さえ部が形成され、この押さえ部が支持軸の基端をハンドルに押しつけて固定する実施形態の記載があること(段落【0013】【0019】)からすれば、構成要件Bの「押さえる」とは「物に力を加えて、動かないように固定する。」という意味である。

これに対し、乙11文献における、本件発明の「ホルダ」に相当するローラ取付部材は、回転軸をローラ取付部材の穴に挿通してEリングによって抜け止めする構成であり、回転軸に力を加えて動かないように固定するものではないから、乙11文献には構成要件Bの「押さえる」の構成は開示されていない。

イ 乙12文献に基づく新規性又は進歩性欠如

(被告の主張)

乙12文献(請求項1、2及び4並びに段落【0015】、【図2】、【図3】)には、ハンドルの先端部に交差軸線上に位置する一対の支持軸を設けるととともに、各支持軸の先端側に回転体を回転可能に支持し、それらの回転体により身体に対して美容的作用を付与するようにした美容器(構成要件Aに相当)という構成が開示されている(以下、乙12文献に記載された発明を「乙12発明」という。)。他方、乙12文献には支持軸の取付方法(構成要件B、C)が明示されておらず、乙12発明が構成要件B及び構成要件Cの構成を有していない点で本件発明と乙12発明は相違する。

しかしながら、本件発明の構成要件Bの「押さえる」の意味は、前記アの被告の主張のとおりである。そして、一対の棒状部材を固定する方法として、一対の棒状部材をホルダの両端部で押さえるとともに、そのホルダの中間部を支持部材に固定するという構成とすることは、本件特許の出願日前に公開されていた多くの技術文献(実用新案登録第3166202号公報(乙2。以下「乙2文献」という。)、乙11文献、特表2010-532442号公報(乙13。以下「乙13文献」という。)、特開平10-288208号公報(乙14。以下「乙14文献」という。)、実開平5-45370(乙15。以下「乙15文献」という。)、実用新案出願公開昭63-173584号公報(乙16。以下「乙16文献」という。)、特開平9-108286号公報(乙17。以下「乙17文献」という。))に記載されている技術常識ないし公知技術であり、これを美容器のローラ支持軸の固定という単純な目的に適用することには何ら技術的困難性はない。

したがって、本件発明は乙12発明と実質的に同一であるか、又は、当業者が乙12発明に上記文献に記載されている技術常識ないし公知技術を適用して本件発明に想到することは極めて容易であるから、本件発明は、新規性又は進歩性を欠く。

(原告の主張)

本件発明における「押さえる」は、前記アの原告の主張のとおり、「物に力を加えて、動かないように固定する。」という意味であるところ、被告が指摘する美容器に関する技術文献(乙2、11、17)において、当該構成は開示されていない。

また、被告は、本件発明の美容器とは全く異なる分野の技術文献(乙13~16)を挙げて、一対の棒状部材を固定する方法として一対の棒状部材をホルダの両端部で押さえるとともにそのホルダの中間部を支持部材に固定するという構成は技術常識ないし公知技術であると主張する。しかしながら、これらの文献はいずれも本件発明の美容器とは技術分野が全く異なるし、また、「ハンドルの先端部に交差軸線上に位置する一対の支持軸」(構成要件A1)の構成を有するものでもない。上記各文献に開示されているのは平行に配置した配管等に関する技術にすぎず、これらを組み合わせても、本件発明の構成に至らず、また、これらを組み合せる動機付けもない。

ウ 実施可能要件又は明確性要件違反

(被告の主張)

本件明細書では、本件発明の「ホルダ」に相当する構成である「ホルダ22」の説明等は段落【0013】、【0019】等に記載されており、そこでは、【図4】、【図5】及び【図9】を用いた説明がされている。

しかしながら、「ホルダ22」の単体の背面図が描かれた【図9】においては、支持軸20の抜け止め頭部20aが、支持軸の「逆ハの字」形状の広がった方に存しているのに対し、【図4】においては、20aは、回転体27とは逆側の「逆ハの字」が狭くなる方(支持筒18の反対側)に存しており、【図4】と【図9】は明らかに矛盾している。【図9】における抜け止め頭部20aの位置関係は【図5】とも明らかに整合しない。また、【図4】の断面図においては、ホルダ22は厚みをもった円筒状ないし半円筒状であり、支持軸20がこれを貫通し、支持軸20の抜け止め頭部20aによって抜け止めがなされている。これに対し、【図5】及び【図9】に記載されたホルダ22は、押さえ部22aの形状が不明であり、かつ、厚みを持った円筒状ないし半円筒状の部分を有しているとは解し難く、【図4】との整合性がないと共に、この構造でどのように抜け止め頭部20aによる抜け止めを行うのかを理解することができない。

そうすると、本件明細書からは、ホルダ22及びその押さえ部22aの形状を理解することができず、当業者がこれを実施することは困難であり、また、請求項に記載された構造が不明確であるから、実施可能要件又は明確性要件に違反する。

(原告の主張)

被告は、【図9】と【図4】の支持軸20の抜止め頭部の構造について矛盾があると主張するが、本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0013】等の記載と【図4】、【図5】から、逆ハの字状の支持軸20の基端に抜け止め頭部20aがあることは明らかである。【図9】において支持軸20が抜け止め頭部20aの内側に図示されていることは誤記であることが明らかであり、不明確な点などない。

また、被告は、【図4】においてはホルダ22は厚みを持った円筒状ないし半円筒状で支持軸20がこれを貫通し、抜け止め頭部20aによって抜け止めされるところ、これが【図5】【図9】との整合性がないなどと主張するが、この点についての構成等も、本件明細書の段落【0013】に記載されており、不明確な点はない。

被告は、発明の詳細な説明の記載は一切参照せずに、図面だけに基づいて上記主張をしているが、図面は、発明の詳細な説明による発明の理解のために参考として供されるものであり、発明の詳細な説明と併せて理解すれば、本件発明の構成要件B及びCの「ホルダ」に不明確な点はない。

また、被告は、上記のとおり、図面に齟齬があり、ホルダ22及びその押さえ部22aの形状を理解することができず、当業者がこれを実施できないとも主張するが、本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0013】には、ホルダの構成、作用、組付方法が明確に記載されており、当業者において、同段落の記載に基づき、各図を参酌して本件発明を実施することに特段の困難はない。

5.裁判所の判断

1 本件発明の技術的意義

-省略-

2 争点(1)(被告製品の構成要件Bの「前記各支持軸の基端側をホルダの両端部で押さえる」及び構成要件Cの「ホルダ」の充足性)について

(1)本件発明は、前記1のとおり、「ホルダ」に該当する部材によって回転体を支持する支持軸を固定するものであるところ、原告は、被告製品のソーラーパネル取付台が支持軸を固定していると主張するのに対し、被告はこれを否定する。

(2)証拠(甲10、14)及び弁論の全趣旨によれば、被告製品は、回転体の支持軸の本体側先端部分にフランジが形成されていること、被告製品の本体内部のソーラーパネル取付台の支持軸側先端部分には一対の段差及び半円形状の凹部が形成され、それらは回転体の支持軸及び支持軸に形成されたフランジの形状に係合すること、取付台の先端部で回転体の支持軸を覆ってソーラーパネル取付台を被告製品本体にネジで固定するとソーラーパネル取付台に支持軸のフランジが引っかかり、支持軸の先端部分がソーラーパネル取付台の段差及び半円形状の凹部に組み付けられること、その組付け後は回転体を支持する支持軸に接着剤の塗布などはなかった被告製品においても支持軸が本体から直ちには外れることがなかったことが認められる。これらによれば、被告製品のソーラーパネル取付台の先端部分の段差及び半円形状の凹部は、回転体の支持軸を固定するための構成であり、同部分が回転体の支持軸を覆い、支持軸を押し付けることによって支持軸を固定し、支持軸が抜けないようにしていると認められる。

そうすると、被告製品のソーラーパネル取付台は構成要件B及び構成要件Cの「ホルダ」に該当し、被告製品は構成要件Bの「前記各支持軸の基端側をホルダの両端部で押さえる」及び構成要件Cの「ホルダ」を充足するといえる。

(3)これに対し、被告は、ソーラーパネル取付台の半円形状の凹部はリード線のハンダ付け部分をカバーするためのものであり、ソーラーパネル取付台をかぶせただけでは支持軸は固定されず、支持軸を接着剤で被告製品本体内部に接着固定しなければ、支持軸は簡単に抜けることからもソーラーパネル取付台は支持軸を固定する機能を有していないなどと主張する

しかしながら、ソーラーパネル取付台の段差及び半円形状の凹部の形状は、回転体の支持軸に係合する形状に形成されていて、リード線のハンダ付け部分をカバーするために形成されていると認めるに足りる証拠はない。また、回転体の支持軸を固定するために接着剤が塗布されている被告製品があるとしても、その塗布がされたことをもってソーラーパネル取付台が回転体の支持軸を固定する機能を有していることが直ちに否定されるものではなく、前記のとおりのソーラーパネル取付台の先端部の構造、接着剤の塗布がなかった場合の回転体の支持軸の被告製品本体からの着脱の状況等からすれば、ソーラーパネル取付台は回転体の支持軸を固定する機能を有しているということができ、被告の主張は採用することができない。

3 争点(2)-ア(乙11文献に基づく新規性欠如)

(1)争点を検討するに当たり、まず、本件発明の「前記各支持軸の基端側をホルダの両端部で押さえる」(構成要件B)の意義について検討する。

ア 「押さえる」とは、物に力を加えて、動かないように固定するという意味を一般的に有する(乙3の1ないし3)。

そして、本件明細書には、前記1アないしオの記載のほか、「発明を実施するための形態」として、「図4及び図5に示すように、前記ベース体13の両支持筒18には、金属製の一対の支持軸20がシールリング21を介して、交差軸線L1、L2上に位置するとともに外側に突出した状態で嵌合支持されている。このシールリング21は、支持軸20の周りからハンドル12の内部へ向かう水の侵入を防止している。各支持軸20の基端には、大径状の抜け止め頭部20aが形成されている。図4及び図9に示すように、両支持軸20の基端部間においてベース体13上には、ホルダ22が配置されている。このホルダ22の両端部には、各支持軸20の基端側を押さえるためのほぼ半円筒状の押さえ部22aが形成されている。ホルダ22の中間部には、円筒状のネジ止め部22bが形成されている。そして、ホルダ22の両端の押さえ部22aにより両支持軸20の基端が押さえられた状態で、ホルダ22の中間のネジ止め部22bがネジ23によりベース体13に固定されることによって、各支持軸20がベース体13の支持筒18に対する嵌合支持状態に抜け止め固定されている。すなわち、支持軸20の組み付け時には、ハンドル12のベース体13に形成された一対の支持筒18に外側(図4の左側)から支持軸20をそれぞれ嵌挿して、交差軸線L1、L2上に位置するように配置する。次に、図5及び図9に示すように、両支持軸20の基端間におけるベース体13上にホルダ22を配置し、そのホルダ22の両端の押さえ部22aにより両支持軸20の基端側を押さえる。これにより、図4及び図9に示すように、各支持軸20の基端の抜け止め頭部20aが押さえ部22aの端縁に係合される。この状態で、ホルダ22の中間のネジ止め部22bをネジ23によりベース体13に固定すると、一対の支持軸20がベース体13に対して同時に抜け止め固定される。」(段落【0013】)、「従って、この実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。(1)この美容器においては、ハンドル12の先端部に交差軸線L1、L2上に位置する一対の支持軸20が設けられている。各支持軸20の先端側には回転体27が回転可能に支持され、それらの回転体27により身体に対して美容的作用が付与されるようになっている。前記ハンドル12における両支持軸20の基端部間の位置には、ホルダ22がその中間部において固定されている。そして、このホルダ22の両端の押さえ部22aにより、各支持軸20の基端側がハンドル12に対して押し付け保持されるようになっている。このため、1つのホルダ22からなる簡単な固定構成により、一対の支持軸20をハンドル12に対して容易に固定することができて、製造コストの低減を図ることができる。」(段落【0019】)との記載がある。

上記のとおり、本件明細書の段落【0013】、【0019】には、ホルダの両端部に各支持軸の基端側を押さえるためのほぼ半円筒状の押さえ部が形成され、この押さえ部が支持軸の基端に接し、それをハンドルに押し付けることによって支持軸を保持し、支持軸が抜けることがないように固定するという実施形態が記載されており、これは、前記のとおりの「押さえる」の一般的な意味とも整合する。

そうすると、本件発明の「前記各支持軸の基端側をホルダの両端部で押さえる」とは、支持軸の基端部をホルダの両端部に接するようにし、ホルダの両端部から支持軸の基端部に対して押し付けること、すなわち力を加えることによって、支持軸を抜けることがないように固定することを意味するものと解するのが相当である

イ これに対し、被告は、本件明細書の【図4】や段落【0013】の記載から、「押さえる」とは、支持軸の基端に設けられた抜け止め頭部や押さえ部、その他支持筒等の部材との勘合・係合によって固定される構成を包含するものであると主張する

しかし、本件明細書の段落【0013】の記載は前記アのとおりであり、ホルダが支持軸に力を加えずに、部材の勘合・係合のみによって固定する態様が記載されているとはいえず、本件明細書のその他の記載中にも被告の主張するような固定態様に関する記載はない。また、本件明細書の【図4】からもそのような固定態様を看取することはできない。被告の主張は、「押さえる」の一般的な意味と一致するものでは必ずしもなく、かつ、本件明細書にその主張を裏付ける記載はないといえるのであり、採用することができない。

(2)乙11発明と本件発明の対比

ア 本件特許の出願日前に公開されていた乙11文献には、①ハンドルの先端部に交差軸上に位置する一対の支持軸が設けられていること(乙11文献の【図6】~【図8】)、②腕部の先端側にマッサージを行うためのローラが回転可能に支持されていること(乙11文献の段落【0001】【0013】)、③ローラ取付部材の左右両端部にそれぞれ腕部を含むローラ連結部の一端を回転軸により軸支固定すること及び当該回転軸をローラ取付部材の穴に挿通してEリングによって抜け止めすること(乙11文献の段落【0008】~【0010】)、④ローラ取付部材の中間部をローラ連結部を介してハンドルに固定すること(乙11文献の段落【0008】【図1】【図2】)、⑤以上の構成を有する美容器である乙11発明が開示されていることは当事者間で争いはない。

そこで、本件発明と乙11発明を対比すると、本件発明は、支持軸の基端部をホルダの両端部で力を加えて支持軸を抜けないように固定する構成であるのに対し(構成要件B)、乙11発明の支持軸の固定方法はそのような構成を有していない点で相違する。

イ 被告は、本件発明の構成要件Bの「押さえる」とは支持軸の基端に設けられた抜け止め頭部や押さえ部、その他支持筒等の部材との勘合・係合によって固定される構成を包含するものであることを前提として、本件発明の構成要件Bと乙11発明の構成③とが同一であると主張する。

しかし、構成要件Bの「押さえる」に関する被告の主張を採用することができないことはとおりであり、乙11発明の構成③が本件発明の構成要件Bと同じであるということはできない。

(3)したがって、乙11文献には構成要件Bの構成が開示されているとはいえず、乙11発明と本件発明は同一ではないから、本件発明が新規性を欠くということはできない。

4 争点(2)-イ(乙12文献に基づく新規性又は進歩性欠如)について

(1)乙12発明と本件発明の対比

本件特許の出願日前に公開されていた乙12文献には、ハンドルの先端部に交差軸線上に位置する一対の支持軸を設けるととともに、各支持軸の先端側に回転体を回転可能に支持し、それらの回転体により身体に対して美容的作用を付与するようにした美容器である乙12発明が開示されていること(請求項1、2及び4並びに段落【0015】、【図2】、【図3】)、乙12文献には、支持軸の取付方法についての記載がなく、乙12発明は本件発明の構成要件B及びCの構成を有しないことは当事者間に争いがない。

被告は、本件発明の構成要件B「押さえる」とは支持軸の基端に設けられた抜け止め頭部や押さえ部、その他支持筒等の部材との勘合・係合によって固定される構成を包含するものであり、一対の棒状部材を固定する方法として、一対の棒状部材をホルダの両端部で押さえるとともに、そのホルダの中間部を支持部材に固定する構成とすることは、本件特許の出願日前に公開されていた技術文献(乙2、11、13~17)に記載されている技術常識ないし公知技術であり、本件発明は乙12発明と実質的に同一であると主張する。

しかしながら、本件発明の構成要件B「押さえる」の意味について被告の主張を採用することができないことはのとおりである。また、ホルダの中間部を支持部材に固定する構成(構成要件C)も、実質的な相違点でないということはできず、乙12発明と本件発明は同一ではないから、本件発明が新規性を欠くということはできない。

(2)また、上記各相違点について、被告は、当業者が乙12発明に技術文献(乙2、11、13~17)に記載されている技術常識ないし公知技術を適用して本件発明に想到することは極めて容易であると主張する。

しかしながら、被告が指摘する文献のうち、乙2文献、乙11文献及び乙17文献には、本件発明の構成要件Bの構成が開示されていない。すなわち、乙2文献には、ローラの接続部品同士が嵌合した状態でその間に球状ヘッドがはさまる構成が開示され(段落【0014】、【図2】、【図3】)、乙11文献には、11発明の構成③のローラ取付部材が回転軸をローラ連結部の穴に挿通してEリングによって抜け止めする構成が開示され(前記3 ア)、乙17文献には、ヘッドのフックに対して一対のローラを個別に回転自在に保持する構成が開示されている(段落【0022】、【図10】)ところ、前記検討した本件発明の構成要件Bの構成に照らして、上記各文献で開示された構成は、いずれも、本件発明の構成要件Bの構成とは異なるといえるものである。

また、乙13文献は点火電極に関する文献であり、乙14文献はケーブルに関する文献であり、乙15文献はパイプに関する文献であり、乙16文献は電線管等に関する文献であり、いずれも本件発明の美容器とは全く異なる技術分野に関する文献である。そして、いずれの文献に記載された発明も本件発明の「ハンドルの先端部に交差軸線上に位置する一対の支持軸」(構成要件A1)の構成を有するものではない。

そうすると、乙13文献ないし乙16文献から、それらに記載された分野とは異なる本件発明の美容器の分野において、棒状部材を固定する方法として一対の棒状部材をホルダの両端部で押さえ、そのホルダの中間部を支持部材に固定する構成が直ちに技術常識ないし公知技術であると認めることはできないし、また、ハンドルの先端部に交差軸線上に位置する一対の支持軸を有する乙12発明に対し、それらの文献に記載された技術を組み合わせる動機付けがあるともいえない。

したがって、本件発明は乙12発明及び先行文献(乙2、11、13~17)に記載されている技術常識ないし公知技術に基づき容易に想到することができたということはできない。

5 争点(2)-ウ(実施可能要件又は明確性要件違反)について

被告は、本件明細書の【図9】や【図5】が【図4】と矛盾し、その構造が不明確であり、当業者は、本件明細書からは、ホルダ及び押さえ部の形状を理解することができず、当業者がこれを実施することは困難であり、また、請求項に記載された構造が不明確であるから、実施可能要件又は明確性要件に違反すると主張する。

しかしながら、本件明細書において実施形態として示されている形態(段落【0010】以下)について、段落【0013】の「各支持軸20の基端には、大径状の抜け止め頭部20aが形成されている。」などの記載に、それに沿って解釈することができる【図4】、【図5】の図示に照らせば、逆ハの字状の支持軸20の基端に抜け止め頭部20aがあることは明らかであるといえる。これに対し、上記段落【0013】の説明やそれに沿って解釈することができる上記各図面とは異なり、発明の詳細な説明に根拠となる記載がない、抜け止め頭部20aの内側に支持軸20があるという【図9】の記載は、当業者にはそれが誤記であることが理解できるといえる。また、本件明細書の段落【0013】の上記記載に続く「図4及び図9に示すように、両支持軸20の基端部間においてベース体13上には、ホルダ22が配置されている。このホルダ22の両端部には、各支持軸20の基端側を押さえるためのほぼ半円筒状の押さえ部22aが形成されている。・・・そして、ホルダ22の両端の押さえ部22aにより両支持軸20の基端が押さえられた状態で、ホルダ22の中間のネジ止め部22bがネジ23によりベース体13に固定されることによって、各支持軸20がベース体13の支持筒18に対する嵌合支持状態に抜け止め固定されている。」などの記載を踏まえれば、【図4】には、発明の詳細な説明に記載されている、ホルダ22の両端部に設けられ、各支持軸20の基端部を押さえるためのほぼ半円筒状の押さえ部が図示されていると理解することができ、当業者は、本件明細書の記載(段落【0013】、【図4】、【図5】)と併せて、ホルダの構成を理解することができる。本件について、当業者が実施することができないとはいえず、また、特許請求の範囲の記載は明確であるといえ、実施可能要件又は明確性要件に違反するということはできない。

6.検討

(1)本件発明は、ハンドルの先端部に設けられた一対の支持軸の先端側に回転体が設けられた美容器に関するもので、これら支持軸の基端側がホルダに押さえられ、このホルダの中間部がハンドルに固定されるという美容器の構造に関するものです。

(2)侵害論の争点は非抵触主張と無効主張についてでした。判決文に添付されていた被告製品目録には被告製品の内部構造を示す図等がありませんでしたが、被告の主張について裁判官は本件発明の構成に別の構成を付け加えたにすぎない、と判断したように思われました。そう捉えられると非抵触主張は難しいと思います。

(3)無効主張は乙11文献に基づく無効主張と乙12文献に基づく無効主張でした。乙11文献については本件発明の「押さえる」をどのように解釈するのかが問題となりました。原告は本件発明の「押さえる」は「動かないように固定すること」を意味するのであって、軸自体が回転可能である乙12発明とは相違すると主張しました。一方、被告は「押さえる」を抜け止め頭部等との関係で固定される構成を含むと主張しました。裁判官は原告の主張に沿ったような認定をし、無効主張を退けました。乙12文献は中国の実用新案なので文章はわかりませんが、図を見る限り確かに取り付け方法が不明です。これで無効主張は難しいと思います。

(4)この乙12文献である中国の実用新案(CN201586180U(申請日(出願日):2010年1月26日))の図面は、原告が初期に発売した製品(2009年2月発売)と驚くほど似ていました。

(5)判決文には、被告は2016年4月まで被告製品を製造、販売等していた、とありました。一見すると訴えの利益がないように思われますが、裁判所は被告が再生産・再販等する可能性があるため差止等と廃棄命令を下したようです。