全自動麻雀卓事件(分割出願の権利行使)

投稿日: 2018/02/13 0:35:19

今日は、平成29年(ワ)第5074号 特許権に基づく差止等請求事件について検討します。原告である大洋化学株式会社は、判決文によると、合成樹脂成形品及び自動麻雀卓の製造販売等を業とする株式会社だそうです。一方、被告である有限会社寿も自動麻雀卓の販売等を業とするそうです。

 

1.手続の時系列の整理

① 本件特許は麻雀新聞の記事(2016年6月10日)によると、株式会社グッドネスk&k(旧:株式会社ディエィアィ、旧:電元オートメーション株式会社)から譲渡されたようです。なお、本件は分割出願ですが、親出願に係る特許は譲渡されていないようです。

② J-PlatPatの「特許・実用新案テキスト検索」で「大洋化学株式会社」の保有特許を検索するために、「検索項目」の「出願人/権利者」を選び「大洋化学株式会社」と入力したところ本件特許がヒットしませんでした。「権利者」は特許の登録時の情報しか入っておらず、登録後の移転情報は更新されないのでしょうか。

③ 原告は本件訴訟提起後に判定請求しています。この被請求人は本件被告と同一です。何故判定請求したのかわかりません。

2.本件発明

A 各場へ牌(10)を供給するためのつの開口(7A、7B、7C、7D)が設けられている天板(4)を有する本体(2)と、

B 磁性体(11)を埋設した牌(10)を攪拌するため前記本体(2)内に設けられた攪拌装置(100)と、

C 前記各場の開口(7A、7B、7C、7D)に対応してそれぞれ前記攪拌装置(100)から牌(10)を取り上げる汲上機構(200)と、

D 該汲上機構(200)によって取り上げられた牌(10)を一方向に整列して送り出すための整列機構(500)と

該整列機構(500)から牌(10)を受け取り所定の整列牌を形成して待機させるための形成・待機機構(800)と、

該形成・待機機構(800)で形成され待機している前記整列牌を対応する開口(7A、7B、7C、7D)から天板(4)上に上昇させる機構とを備えた自動麻雀卓であって、

G 前記攪拌装置(100)は回転するターンテーブル(101)と外壁(102)とが設けられ、攪拌された牌(10)は前記ターンテーブル(101)の回転により外壁(102)に向かって移動させ、

H 前記牌(10)を取り上げる汲上機構(200)は円筒回転体(401)が設けられ、

該円筒回転体(401)の周面部位には前記円筒回転体(401)の一側端から牌(10)の横幅ほどの幅をもつ吸着面(401B)を配設し、

前記吸着面(401B)の中心には磁石(401C)を埋没し、前記吸着面(401B)に磁気力により牌(10)を吸着して下方から上方に吸い上げるように円筒回転体(401)を回転させ、

前記整列機構(500)は、前記円筒回転体(401)に吸い上げられた牌(10)の方向を揃えるため前記吸着面(401B)の外側の軌道に沿って配設した案内部材(501)と、

該案内部材(501)の延長上であって前記円筒回転体(401)の頂上付近には前記円筒回転体(401)の吸着面(401B)から牌(10)を剥離して前記形成・待機機構(800)に導くための誘導路(504)を設け、

前記円筒回転体(401)によって下方位置にて取り上げられた牌(10)は、前記案内部材(501)にそって牌(10)の向きを揃えながら上方に移動するとともに前記誘導路(504)の一端に捕捉されて前記円筒回転体(401)から離脱するようにした

N ことを特徴とする自動麻雀卓。


3.争点

(1)各被告製品が本件発明の技術的範囲に属するか否か

ア 各被告製品が構成要件Iを充足するか否か(争点1)

イ 各被告製品が構成要件Kを充足するか否か(争点2)

ウ 各被告製品が構成要件Lを充足するか否か(争点3)

エ 各被告製品が構成要件Mを充足するか否か(争点4)

オ 構成要件Mについての均等侵害の成否(争点5)

(2)原告の損害額(争点6)

4.争点に関する当事者の主張

(1)争点1(各被告製品が構成要件Iを充足するか否か)について

[原告の主張]

構成要件Iは、吸着面の幅長につき具体的な数値限定をしていない。本件明細書によれば、本件発明は「攪拌装置から牌を取り上げ、形成・供給機構に供給する機構を簡単にし、機構自体を小型にし、自動麻雀卓をコンパクトで経済的にする」(段落【0007】)ためのものであり、構成要件Iにおける吸着面の幅長はこの本件発明の目的に適合するよう解釈されるべきである。

各被告製品の吸着面の幅はおよそ32mmと各被告製品に用いられる牌の短辺(23mm)より9mmほど長めであるにすぎず、機構自体の大型化を招くような差とは評価し難いし、そもそも本件明細書には円筒回転体につき「スペース的には従来の水平方向に回転する汲上方式とは異なり円筒回転体の幅は牌の縦幅と略等しい寸法で」(段落【0009】)よいとの記載があり、円筒回転体の幅が牌の縦幅(各被告製品においてはそれぞれ33mmと32mm)と略等しい場合にも構成要件Iを充足することが強く示唆されている。したがって、各被告製品の吸着面は「牌の横幅ほどの幅をもつ」といえるから、各被告製品は構成要件Iを充足する。

[被告の主張]

各被告製品の吸着面の幅は約32.6mmであり、牌の横幅(約24.0mm)よりはるかに大きく、牌の縦幅(32.9mm)にほぼ等しいから、「円筒回転体の一側端から牌の横幅ほどの幅」であるとは到底いえず、各被告製品は構成要件Iを充足しない

また、構成要件Iが吸着面の幅を牌の横幅ほどとしたことの技術的意義は、円筒回転体の吸着面上で、縦方向以外の状態で円筒回転体に取り上げられた牌を案内部材に接触させることによって牌の方向を揃えることにある。しかし、各被告製品においては、吸着面の幅と縦幅との差は0.3mmと吸着面の幅のほうがわずかに短いだけであるので、牌を案内部材に接触させても、牌を確実に縦向きに揃えることはできず、牌の方向を揃えるための付加的な機構(例えば搬送コンベア)が必要となるから、本件発明の課題(機構の簡略化、機構の小型化及び自動麻雀卓をコンパクトで経済的にすること)を解決できない。

(2)争点2(各被告製品が構成要件Kを充足するか否か)について

[原告の主張]

「沿う」の語には「長く続いているものに、離れないように付き従う」、「何かに並行した形で続いている」という意味があり、空間的な近接性は求められるものの物理的な接着性までは求められない。また、「並行した形」とは隣り合って連なるように位置することである。各被告製品の案内部材は、円筒回転体の外側の軌道との間で、空間的な近接性を有して、隣り合って連なるように配設されているから、各被告製品は構成要件Kを充足する。

被告は、構成要件Kの案内部材について、少なくともその一か所の内壁面が吸着面の外側の軌道と平行で、かつ、吸着面の幅と吸着面の一側端から案内部材内壁面の間の幅が等しくなるような位置に配設される必要があると主張するが、案内部材の内壁と誘導路の内壁の幅長をどのように設計するかは、吸着面の幅長にかかる技術的事項ではないし、案内部材の内壁の幅長と吸着面の幅長が異なる各被告製品においても牌の向きを揃える機能は問題なく稼働しているから、被告の主張は失当である。

[被告の主張]

構成要件Iは、吸着面の幅が牌の横幅ほどであるとしているから、牌に円筒回転体の一側端と案内部材の間を通過させ、かつ、牌の向きを揃えられるようにするためには、案内部材の少なくとも一箇所の内壁面が、吸着面の外側の軌道と平行かつ吸着面の幅と吸着面の一側端から案内部材内壁面の間の幅が等しくなるような位置に配設される必要がある。このように、構成要件Kは、案内部材を「吸着面の外側の軌道に沿って」配設することを必須の要件としているもので、このことは本件明細書の記載からも明らかである。しかし、各被告製品の案内部材は、吸着面の外側の軌道より内側に配設されており、吸着面のいかなる軌道にも「沿って」配設されていないから、「吸着面の外側の軌道に沿って」配設されたものとはいえない。したがって、各被告製品は構成要件Kを充足しない。

これに対し、原告は、「沿う」の語義について、空間的な近接性は求められているものの物理的な接着性までは求められていないと主張するが、「沿う」なる語は一般語であってその語だけで意義を確定できないから、本件明細書を参酌したうえで解釈すべきである。そして、上記のとおり、本件明細書を参酌すれば、各被告製品の案内部材が「吸着面の外側の軌道に沿って」配設されているということはできない。

(3)争点3(各被告製品が構成要件Lを充足するか否か)について

-省略-

(4)争点4(各被告製品が構成要件Mを充足するか否か)について

-省略-

(5)争点5(各被告製品が構成要件Mを充足するか否か)について

-省略-

(6)争点6(原告の損害額)について

-省略-

5.裁判所の判断

1 争点1及び2について

事案に鑑み、まず、各被告製品が構成要件I及びKを充足するか否か(争点1、2)について判断する。

(1)本件明細書には、以下の各記載がある。

ア 【背景技術】

また、前掲の特許文献2に開示された自動麻雀卓の洗牌技術は、磁石を埋没した水平回転体を各場毎に設けて、攪拌装置内の牌を取り出すため大きなコンベヤは不要であるが、2段積み牌が水平回転体の吸着面より下に設けなければならないこと、及び、水平回転体が昇降台の下方にはみだすので昇降台を水平回転体以下には下げられず、このため、特許文献5に開示されているように、2段積み牌を天板上に押し出すとき、待機台上の2段積み牌を昇降台の降下位置まで持ち上げて昇降台に移載しなければならず、2段積み牌を天板上に押し出す機構が複雑で大型化してしまう。

更に、前掲の特許文献4に開示された技術は、同報第3図、及び、第5図に示されるように、磁石を埋没した水平回転体とその横に設けた小型搬送コンベヤによって牌を取り出しているが、水平回転体と搬送コンベヤ等の攪拌装置の周辺が複雑で場所をとり、やはり複雑で大型化してしまう。

【特許文献1】特開昭54-40741号公報

【特許文献2】特開昭61-244384号公報

【特許文献3】特開昭62-49879号公報

【特許文献4】特開昭62-68479号公報

【特許文献5】特開昭61-244385号公報

(段落【0006】)

イ 【発明が解決しようとする課題】

本発明は、これらの問題点に鑑みてなされたもので、自動麻雀卓において、攪拌装置から牌を取り上げ、形成・供給機構に供給する機構を簡単にし、機構自体を小型にし、自動麻雀卓をコンパクトで経済的にすることを課題とするものである。(段落【0007】)

ウ 【課題を解決するための手段】

上記課題を解決するための請求項1の発明は、各場へ牌を供給するための4つの開口が設けられている天板を有する本体と、磁性体を埋設した牌を攪拌するため前記本体内に設けられた攪拌装置と、前記各場の開口に対応してそれぞれ前記攪拌装置から牌を取り上げる汲上機構と、該汲上機構によって取り上げられた牌を一方向に整列して送り出すための整列機構と、該整列機構から牌を受け取り所定の整列牌を形成して待機させるための形成・待機機構と、該形成・待機機構で形成され待機している前記整列牌を対応する開口から天板上に上昇させる機構とを備えた自動麻雀卓であって、

前記攪拌装置は回転するターンテーブルと外壁とが設けられ、攪拌された牌は前記ターンテーブルの回転により外壁に向かって移動させ、前記牌を取り上げる汲上機構は円筒回転体が設けられ、該円筒回転体の周面部位には前記円筒回転体の一側端から牌の横幅ほどの幅をもつ吸着面を配設し、前記吸着面の中心には磁石を埋没し、前記吸着面に磁気力により牌を吸着して下方から上方に吸い上げるように円筒回転体を回転させ、前記整列機構は、前記円筒回転体に吸い上げられた牌の方向を揃えるため前記吸着面の外側の軌道に沿って配設した案内部材と、該案内部材の延長上であって前記円筒回転体の頂上付近には前記円筒回転体の吸着面から牌を剥離して前記形成・待機機構に導くための誘導路を設け、前記円筒回転体によって下方位置にて取り上げられた牌は、前記案内部材にそって牌の向きを揃えながら上方に移動するとともに前記誘導路の一端に捕捉されて前記円筒回転体から離脱するようにしたことを特徴とする。(段落【0008】。ただし抜粋。)

エ 【発明の効果】

請求項1の発明によれば、牌を取り上げる汲上機構を、円筒回転体と吸着面を設けて、吸着面の牌を磁気力により吸着して下方から上方に吸い上げるように円筒回転体を縦方向に回転させたので、スペース的には従来の水平方向に回転する汲上方式とは異なり円筒回転体の幅は牌の縦幅と略等しい寸法でよく、かつ、水平方向の移動は円筒回転体の幅があれば良いから、これらにより、攪拌装置から牌を取り上げる汲上機構を小型にすることができ、結果として、自動麻雀卓の全体が小型、軽量、コンパクトとなり経済的に有利となる。(段落【0009】。ただし抜粋)

(2)本件発明に係る特許請求の範囲の記載に加え、上記(1)の本件明細書の各記載、特に【課題を解決するための手段】として「該円筒回転体の周面部位には前記円筒回転体の一側端から牌の横幅ほどの幅をもつ吸着面を配設し、」、「前記円筒回転体に吸い上げられた牌の方向を揃えるため前記吸着面の外側の軌道に沿って配設した案内部材」「を設け、前記円筒回転体によって下方位置にて取り上げられた牌は、前記案内部材にそって牌の向きを揃えながら上方に移動する」(段落【0008】)との記載を勘案すると、本件発明の構成要件I及びKは、それぞれ円筒回転体の周面部位に配設された「円筒回転体の一側端から牌の横幅ほどの幅をもつ吸着面」上で、吸着面からはみ出た牌の部分に「前記吸着面の外側の軌道に沿って配設した案内部材」を当接させることによって、牌の向きを揃えるという技術的意義を有するものと認められる(なお、本件明細書の「図10及び図11を参照して、吸着面401Bに様々な角度にて吸着した牌10が、整列機構500により縦長方向に整列する動作について説明する。案内部材501の入り口付近で吸着面401Bからはみ出た側面が、案内部材先端502に接触して抵抗を受けるが、牌10に埋設されている磁石11の中心が、円筒回転体401に埋設されている磁石401Cの中心に吸引されて回転しながら向きを変え、当該側面が案内部材501の内壁面501Aと並行状態になって整列機構500の内部に進入する。」との実施例の記載(段落【0033】)も上記認定を裏付けるものといえる。)。

そうすると、本件発明の構成要件Iの「円筒回転体の一側端から牌の横幅ほどの幅をもつ吸着面」は、吸着面の幅が、牌の横幅(短辺)と同一か、牌の吸着面からはみ出た部分に案内部材を接触させることによって牌の方向を揃えることができる程度に狭くなっていることを意味し、少なくとも牌の縦幅に近似した幅を有する吸着面はこれに含まれないと解するのが相当である。また、構成要件Kの「前記吸着面の外側の軌道に沿って配設した案内部材」は、吸着面の幅が上記のようなものであることを前提として、吸着面からはみ出した牌の部分に当接して牌の向きを揃えることができる位置に案内部材を配設することを意味し、少なくとも吸着面の外側の軌道に近似する線よりも内側に配設された案内部材はこれに含まれないと解するのが相当である

(3)そこで、まず、構成要件Iの充足性について検討するに、各被告製品の吸着面の幅(円筒回転体の一側端からの幅)が32.6mmであるのに対し、牌の横幅は24.0mm、牌の縦幅は32.9mmであって(乙4及び当事者間に争いがない事実)、各被告製品の吸着面の幅はむしろ牌の縦幅に近似するものと認められるから、構成要件Iの「円筒回転体の一側端から牌の横幅ほどの幅をもつ吸着面」を充足しない

これに対し、原告は、①吸着面の幅は牌の横幅より9mmほど長めであるにすぎない、②本件明細書の段落【0009】の記載からすると、円筒回転体の幅が牌の縦幅と略等しい場合にも構成要件Iを充足することが強く示唆されているなどと主張する。

しかしながら、まず、上記①について、各被告製品は、吸着面の幅が牌の横幅より9mmも長い一方で牌の縦幅よりわずかに0.3mm短いにすぎないのであるから、円筒回転体の周面部位に配設された「円筒回転体の一側端から牌の横幅ほどの幅をもつ吸着面」上で、吸着面からはみ出た牌の部分に「前記吸着面の外側の軌道に沿って配設した案内部材」を当接させることによって、牌の向きを揃えるという本件発明の技術的意義(上記(2))を発揮することができない。また、上記②について、被告が指摘する本件明細書の段落【0009】の記載は、「円筒回転体の幅は牌の縦幅と略等しい寸法でよく」としているにすぎず、吸着面の幅が牌の縦幅とほぼ等しい場合に構成要件Iを充足することの根拠となるものとは認め難い(なお、本件明細書の段落【0021】及び図7には、円筒回転体の幅が牌の縦幅と略等しい長さ(lL)であるのに対し、吸着面の幅が牌の横幅分の長さ(lS)である実施例が開示されている。)。したがって、原告の主張はいずれも採用の限りでない。

(4)次に、構成要件Kの充足性について検討するに、乙2の写真3及び4並びに弁論の全趣旨によれば、各被告製品の案内部材は吸着面の外側の軌道から約5.6mmも内側に配設されていると認められるから、前記(2)に説示したところによれば、各被告製品は、構成要件Kの「前記吸着面の外側の軌道に沿って配設した案内部材」も充足しない。

6.検討

(1)本件発明は、要は、回転する円筒の外周面の一部に磁石が埋め込まれた吸着面が設けられ、この吸着面に磁性体が埋め込まれた麻雀牌が吸い寄せられて上方に運ばれ、麻雀牌はこの回転する円筒から誘導路に移動する過程で、この円筒に沿って設置された案内部材に接触して整列されるというものです。

(2)判決は特許請求の範囲における「前記円筒回転体の一側端から牌の横幅ほどの幅をもつ吸着面」という記載に着目し、これは、吸着面の幅が、牌の横幅(短辺)と同一か、牌の吸着面からはみ出た部分に案内部材を接触させることによって牌の方向を揃えることができる程度に狭くなっていることを意味し、少なくとも牌の縦幅に近似した幅を有する吸着面はこれに含まれないと解するのが相当である、と認定しています。そして各被告製品の吸着面の幅が32.6mmであるのに対し、牌の横幅は24.0mm、縦幅は32.9mmであって、各被告製品の吸着面の幅はむしろ牌の縦幅に近似するものと認められるから、構成要件Iの「円筒回転体の一側端から牌の横幅ほどの幅をもつ吸着面」を充足しない、と判断しています。

(3)本件判決文に被告製品の構成についての説明が全く添付されていないので正確なところはわかりませんが、判決文を読むと、各被告製品は吸着面に入り込むように設けられた案内部材に牌が接触することで整列される構造であるように思われます。そのため、吸着面からはみ出した牌が案内部材に接触して整列される構造である本件発明とは異なると判断されたものと思われます。

(4)整列されていない傾いた状態の牌を整列させているのは案内部材であるので吸着面のサイズは発明の本質ではなく、各被告製品も原理的には本件発明と同様なのではないかと思います。特に本件特許の図10、11を見ると案内部材501は吸着面上に被っているので吸着面の幅と牌の横幅との関係などはほとんど意味をなさないようなので、判決における案内部材の解釈は案内部先端502についてのもののように思われます。

(5)もっとも、本件特許は審査過程で記載不備を理由とする拒絶理由を受けて、それに対応して出願人自らが牌の横幅と吸着面との関係を限定しました。拒絶理由通知の内容を読む限りはそこまで限定する必要もなかったようにも思われますが、それにより拒絶理由が解消したのは事実です。そうなると、本判決のように判断されてもやむを得ないようにも思われました。

(6)実は本判決で私が一番気になったのは別の部分でした。判決文ではいつものように本件特許明細書が引用されていますが、前述のとおり本件発明は分割出願なので【背景技術】等との間で食い違いがあります。親出願の発明は、従来の全自動麻雀卓では牌山と配牌のために二つの昇降機構が必要だったものを一つの昇降機構で足りるようにしたものです。これに対して分割出願である本件出願は汲上機構と整列機構の構造にフォーカスした発明です。そのため【背景技術】との食い違いが生じるのでこれを判決でどのように扱うのか興味がありました。しかし、本件判決で【背景技術】及び【発明が解決しようとする課題】も引用していますが、特に【課題を解決するための手段】の記載を参考にしています。そうすると、これは【特許請求の範囲】のコピペなので実質的にクレームのみで解釈したことになります。

(7)分割出願の常として親出願における課題との間で食い違いが生じます。本件の場合は、そういった矛盾点に触れずに実質的に特許請求の範囲の解釈をダイレクトに行うことで分割出願であっても不利益にならないように考慮されているのか、それとも、課題等との食い違いが見える分割出願の発明では発明との間で整合性が取れない課題は考慮されないのか気になります。

(8)私は後者のように感じました。発明は明細書に記載された内容をベースに解釈されるものであるので、親出願ベースの内容との間で食い違いがあるような分割出願の発明は、発明の本質が明細書の記載から導かれないので特許請求の範囲の技術的範囲が狭く解釈されるように思います。

(赤字は2018.02.16追加)