太陽電池パネル施工方法事件

投稿日: 2018/11/12 3:25:10

今日は、平成28年(ワ)第38103号 損害賠償請求事件について検討します。判決文によると、原告である株式会社近畿北都住設は、建設工事・リフォーム工事の設計・施工、住宅設備機器の販売等を業とする株式会社であり、太陽光発電設備の設計、施工、販売をしているそうです。一方、被告である有限会社斉藤ハウジングサービスは、太陽光発電システムの販売・施工等を業とする特例有限会社だそうです。

 

1.手続の時系列の整理(特許第5279937号)

 

2.本件発明

A 太陽光発電パネル(101)及び前記太陽光発電パネル(101)を載置する太陽光発電パネル載置架台(103)であって、基礎部材(103a)、足場パイプにより形成される柱部材(103b)及び足場パイプにより形成される接続部材(103c)を有する太陽光発電パネル載置架台(103)を有する太陽光発電装置を施工する太陽光発電装置の施工方法であって、

前記基礎部材(103a)を形成するために地面に形成された基礎形成用溝(D)に沿って前記柱部材(103b)を配置し

C 前記基礎形成用溝(D)の内部において、隣接する前記柱部材(103b)を前記接続部材(103c)で接続し、

D 前記基礎形成用溝(D)に所定のコンクリートを流し込んで、前記接続部材(103c)をコンクリートに内包する基礎部材(103a)を形成し、

前記基礎部材(103a)上に前記太陽光発電パネル載置架台(103)を生成し、

F 生成した前記太陽光発電パネル載置架台(103)に前記太陽光発電パネル(101)を載置すること、によって前記太陽光発電装置を施工する太陽光発電装置の施工方法。


3.被告方法

(1)被告方法1説明書

工程1 いずれも適当な間隔で直交クランプを仮止めしてなる2本の長尺単管パイプを、適当な距離を隔てて平行に寝かせ、U字クランプで地面に仮止めする。

工程2 支柱となる第1の長さの単管パイプ複数本を、一方の長尺単管パイプの汎用クランプに垂直姿勢で差し込み固定し、また、支柱となる第2の長さの単管パイプ複数本を、他方の長尺単管パイプの汎用クランプに垂直姿勢で差し込み固定するとともに、同一列の単管パイプ同士及び異なる列の単管パイプ同士を、それぞれ梁となる単管パイプでつなぐことにより、支柱となる各単管パイプを直立状態にする。

工程3 木製の型枠板を、地面に仮止めされた2本の長尺単管パイプの各両側に、それぞれ長尺単管パイプを挟んで互いに適当な距離を隔てて対向するように起立配置することにより、生コンを流し込むための2本の型枠(溝)を形成する。この型枠は、地面を掘り下げて形成されたものではなく、底面は地面に接している

工程4 型枠の一方に差し込まれた一連の第1の長さの単管パイプと型枠の他方に差し込まれた一連の第2の長さの単管パイプの間に、梁となる別の単管パイプを縦横に掛け渡して自在クランプで固定することにより、太陽電池パネル載置架台の基本構造を組み上げる。

工程5 2本の型枠にそれぞれ生コンを流し込み、型枠内の適当な高さまで生コンを満たし、所定期間にわたって養生した上で、型枠を解体することで、長尺単管パイプを内包する所定の高さのコンクリート製の地上梁が完成する。

工程6 完成した地上梁の上に太陽電池パネル載置架台を構築し、同架台の上に太陽電池パネルを載置固定することで、太陽光発電装置を施工する。

(2)被告方法2説明書

工程1 太陽光発電装置の設置予定領域を含む一帯の地盤を、ユンボ(パワーショベル)を用いて盛土し、押圧することにより、強固な地盤に改良する。

工程2 地盤を、適当な距離を隔てて、それぞれ適当な深さまで掘り下げ、2本の平行な溝を地中に形成する。

工程3 地中に形成された2本の溝の内部に、それぞれ直交クランプを仮止めしてなる長尺単管パイプを寝かせて配置する。

工程4 支柱となる第1の長さの単管パイプ複数本を、溝の一方に沿って挿入し、また、支柱となる第2の長さの単管パイプ複数本を、溝の他方に沿って挿入し、支柱となる各単管パイプを、長尺単管パイプに仮止めされた直交クランプを介して、一本ずつ垂直姿勢で仮固定する。さらに、支柱となる各単管パイプを、ユンボ(パワーショベル)で打撃して押し下げ、適当な深さまで地中に打ち込むことにより、自立させる。また、地中に差し込む深さを調整することにより、支柱となる各単管パイプの上端の位置を水平に整列させ、直交クランプを締め付けて固定する。

工程5 溝の一方に差し込まれた一連の第1の長さの単管パイプと溝の他方に差し込まれた一連の第2の長さの単管パイプとの間に、補強用の梁となる別の単管パイプを縦横に掛け渡して自在クランプで固定することにより、太陽電池パネル載置架台の基本構造を組み上げる。

工程6 2本の溝にそれぞれ生コンを流し込み、溝内の適当な高さまで生コンで満たし、所定期間にわたって養生することで、長尺単管パイプを内包するコンクリート製の地中梁が完成する。

工程7 完成した地中梁の上に太陽光パネル載置架台を構築し、同架台の上に太陽電池パネルを載置固定することで、太陽光発電装置を施工する。

4.争点

(1)被告各方法は、文言上、本件発明の技術的範囲に属するか(争点1)

ア 被告方法1は構成要件Bの「地面に形成された基礎形成用溝」を充足し、構成要件Bを前提とする構成要件A、CないしEを充足するか(争点1-1)

イ 被告方法2は構成要件Bの「柱部材を配置し」を充足し、構成要件Bを前提とする構成要件A、CないしEを充足するか(争点1-2)

(2)被告各方法は、本件発明と均等なものとして、その技術的範囲に属するか

(争点2)

ア 「地面に形成された基礎形成用溝」についての均等侵害の成否(争点2-1)

イ 「柱部材を配置し」についての均等侵害の成否(争点2-2)

(3)本件特許は特許無効審判により無効とされるべきものか(争点3)

ア 本件発明は本件出願日前の原告関連会社による太陽光発電装置の施工により新規性を欠くか(争点3-1)

イ 本件発明は特開2011-181670号公報等により進歩性を欠くか(争点3-2)

(4)被告による被告各方法の使用は原告の実施許諾による通常実施権に基づくものか(争点4)

(5)損害の発生の有無及びその額(争点5)

5.争点に対する当事者の主張

1 争点1(被告各方法は、文言上、本件発明の技術的範囲に属するか)

(1)争点1-1(被告方法1は構成要件Bの「地面に形成された基礎形成用溝」を充足し、構成要件Bを前提とする構成要件A、CないしEを充足するか)

【原告の主張】

構成要件Bの「地面に形成された基礎形成用溝」は、その文言からして、地面に接していれば足り、形成される場所が地中に限定されないことは明らかであり、本件明細書にも、形成される場所を地中に限定する旨の記載はないから、地面に接して形成された溝を含むものである。

被告方法1では、木製の型枠板を互いに適当な距離を隔てて対向するように起立配置することで溝が形成されており、型枠底面は地面に接しているから、このようにして形成された溝も、「地面に形成された基礎形成用溝」に含まれる

したがって、被告方法1は構成要件Bを充足し、構成要件Bを前提とする構成要件A、CないしEも充足するから、文言上、本件発明の技術的範囲に属する。

【被告の主張】

構成要件Bの「地面に形成された基礎形成用溝」は、地面を掘って地中に形成された基礎形成用溝であると解すべきであり、このことは、上記の文言、本件明細書の段落【0035】(以下、本件明細書の段落については、単に【0035】などと示す。)、【0036】の記載並びに図4A及びBからも明らかである。

原告は、「地面に形成された基礎形成用溝」を地面を掘って地中に形成された溝に限定すべきではない旨主張するが、本件発明は、太陽光発電装置を地面から引き抜こうとする力への対策として考案されたものであり、基礎形成用溝が地上に形成される場合には、太陽光発電装置を基礎部材から引き抜こうとする力への対策になるとしても、太陽光発電装置を地面から引き抜こうとする力への対策になっていない。

また、基礎形成用溝を地上に形成するためには、余分の作業が必要になり、かつ、相応の追加の部材も必要になるから、「施工コストの低減」、「施工の簡略化」といった【0021】、【0034】の記載の趣旨に反する。

イ 被告方法1では、木製の型枠板を所定距離を隔てて対向するように起立配置することで地上に型枠を形成しており、この型枠は地面を掘って地中に形成された基礎形成用溝ではないから、「地面に形成された基礎形成用溝」を充足しない。構成要件A、CないしEも、構成要件Bで定義された「基礎形成用溝」を前提とするものであるから、被告方法1はいずれも充足しない。

よって、被告方法1は、文言上、本件発明の技術的範囲に属するとはいえない。

(2)争点1-2(被告方法2は構成要件Bの「柱部材を配置し」を充足し、構成要件Bを前提とする構成要件A、CないしEを充足するか)

【原告の主張】

「柱部材」という文言を素直に読めば、柱となる部材を意味することは明らかであり、柱部材の状態(どのように直立状態を維持するか)にかかわらず、柱部材が基礎形成用溝に沿って配置されていれば、構成要件Bの「柱部材を配置し」を充足すると解すべきである。

被告方法2では、地面に形成された溝に沿って、本件発明の「柱部材」に相当する支柱となる単管パイプが配置されており、「柱部材を配置し」を充足する。したがって、被告方法2は構成要件Bを充足し、構成要件Bを前提とする構成要件A、CないしEも充足するから、文言上、本件発明の技術的範囲に属する。

【被告の主張】

「柱部材」は、その性質上、配置された結果、直立状態に維持されるものでなければならないが、単に配置しただけでは直立状態を維持できないから、構成要件Bの「柱部材を配置し」の意義は不明確である。そこで、【0037】、【0038】の記載を参酌し、「柱部材を配置し」は、各柱部材を、同一列の隣接するもの同士及び異なる列の対応するもの同士の間に、別途、何らかの梁部材を掛け渡し、かつ、各柱部材の下端部が基礎形成用溝の底面、すなわち、砕石層の上面に当接した状態とすることを意味すると解すべきである。

被告方法2では、支柱となる単管パイプは、地面に形成された溝の底部に砕石層を設けることなく、ユンボ(パワーショベル)で地中に打ち込まれることによって直立状態を維持するから、「柱部材を配置し」を充足しない。

構成要件A、CないしEも、構成要件Bで定義された「柱部材」を前提とするものであるから、被告方法2はいずれも充足しない。

よって、被告方法2は、文言上、本件発明の技術的範囲に属するとはいえない。

2 争点2(被告各方法は、本件発明と均等なものとして、その技術的範囲に属するか)

(1)争点2-1(「地面に形成された基礎形成用溝」についての均等侵害の成否)

【原告の主張】

仮に、「地面に形成された基礎形成用溝」が、文言上、被告方法1において用いられているような、木製の型枠板を互いに適当な距離を隔てて対向するように起立配置することで地上に形成された溝を含まないとしても、以下のとおり、被告方法1は、本件発明と均等なものとして、その技術的範囲に属する。

ア 第1要件(非本質的部分)

本件発明は、風荷重に耐えることができる太陽光発電装置の提供という課題(【0008】)を解決するため、基礎形成用溝の内部において、隣接する柱部材を接続部材で接続し、基礎形成用溝に所定のコンクリートを流し込んで、接続部材をコンクリートに内包する基礎部材を形成するという特徴的な構成を採用するものであるから、その本質的部分は、「前記基礎形成用溝の内部において、隣接する前記柱部材を前記接続部材で接続し、前記基礎形成用溝に所定のコンクリートを流し込んで、前記接続部材をコンクリートに内包する基礎部材を形成」(構成要件C、D)することにあり、「地面に形成された基礎形成用溝」が地面を掘って地中に形成されることは非本質的部分である。

イ 第2要件(置換可能性)

土地上に木製の型枠板を互いに適当な距離を隔てて対向するように起立配置することで形成された溝は、「基礎形成用溝に沿って前記柱部材を配置し、前記基礎形成用溝の内部において、隣接する前記柱部材を前記接続部材で接続し、前記基礎形成用溝に所定のコンクリートを流し込んで、前記接続部材をコンクリートに内包する基礎部材を形成」するためのものであるから、本件発明の「基礎形成用溝」と同一の作用効果を奏する。

ウ 第3要件(置換容易性)

構造物を構築するに当たり、基礎を地中に形成するか、地上に形成するかは、与えられた条件の中で適宜選択されており、地面を掘ることができない場合に、木製の型枠板を互いに適当な距離を隔てて対向するように起立配置することで地上に溝を形成し、地上に基礎を形成することは、当業者であれば容易に想到し得る。

【被告の主張】

ア 第1要件(非本質的部分)

否認ないし争う。

本件発明において、「基礎形成用溝」を地上に形成することは予定されておらず、構成要件B、とりわけ「基礎部材を形成するために地面に形成された基礎形成用溝」を、本件発明の本質的部分から除外する理由はない。

イ 第2要件(置換可能性)

否認ないし争う。

被告方法1は、地面を掘って地中に溝を形成することが不可能あるいは極めて困難であったことを踏まえたものであり、砕石を敷いてこれを転圧するといった手間を省くこともできる。このように、被告方法1は、本件発明からは得られない格別の作用効果を有しており、本件発明と同一の作用効果を奏するものではない。

ウ 第3要件(置換容易性)

否認ないし争う。

基礎形成用溝を地上に形成するためには、当然に余分の作業が必要になり、かつ、追加の部材が必要になるから、「施工コストの低減」、「施工の簡略化」といった【0021】、【0034】の記載の趣旨に反する上、本件明細書には、基礎形成用溝を地上に形成する方法等に関する記載も示唆もないから、当業者であれば容易に想到できたとはいえない。

(2)争点2-2(「柱部材を配置し」についての均等侵害の成否)

【原告の主張】

仮に、「柱部材を配置し」が、文言上、被告方法2において用いられているような、柱部材を、基礎形成用溝の底部に砕石層を設けることなく、地中に打ち込むことによって配置することを含まないとしても、以下のとおり、被告方法2は、本件発明と均等なものとして、その技術的範囲に属する。

ア 第1要件(非本質的部分)

前記(1)【原告の主張】アのとおり、本件発明の本質的部分は構成要件C、Dに係る部分であり、柱部材がいつの時点で直立状態を維持するかは非本質的部分である。

イ 第2要件(置換可能性)

柱部材を、基礎形成用溝の底部に砕石層を設けることなく、地中に打ち込むことによって配置することは、「基礎形成用溝に沿って柱部材を配置する」ものであり、本件発明の「柱部材を配置し」と同一の作用効果を奏する。

ウ 第3要件(置換容易性)

足場パイプを用いて構造物を構築するに当たり、柱部材をどのように形成するか、足場パイプの下端を地面に当接するように配置するか、下端部を杭のようにして地中に打ち込むかは、与えられた条件の中で適宜選択されており、地面の性質上、足場パイプを地面に強固に固定する必要がある場合、足場パイプを、砕石層を設けることなく、地中に打ち込むことは、当業者であれば、容易に想到し得る。

【被告の主張】

ア 第1要件(非本質的部分)

否認ないし争う。

本件発明において、柱部材の状態にかかわらず、柱部材を配置することは予定されておらず、構成要件B、とりわけ「柱部材を配置し」について、その配置手順も含めて、本件発明の本質的部分から除外する理由はない。

イ 第2要件(置換可能性)

否認ないし争う。

被告方法2は、単管パイプを地中に打ち込むという工程が支柱の高さを調整する機能も兼ねており、また、砕石を敷いてこれを転圧するといった手間が省けるという本件発明から得られない格別の作用効果を有するから、本件発明と同一の作用効果を奏するものではない。

ウ 第3要件(置換容易性)

否認ないし争う。

被告方法2において、ユンボを用いる点、足場パイプを地中に打ち込む点、この打ち込みにより支柱の高さを調整する点等は、追加の作業や工程を要するものであり、「施工コストの低減」、「施工の簡略化」という【0021】、【0034】の記載の趣旨に反するから、当業者であれば容易に想到できたとはいえない。

3 争点3(本件特許は特許無効審判により無効とされるべきものか)

(1)争点3-1(本件発明は本件出願日前の原告関連会社による太陽光発電装置の施工により新規性を欠くか)

【被告の主張】

原告は、本件出願日より前に、その関連会社である株式会社アルバテック(以下「アルバテック」という。)によって、(住所は省略)の住民で構成される山王自治会から受注した太陽光発電装置(以下「山王自治会装置」という。)を施工しているところ、山王自治会装置は、地上部分について、足場用パイプからなる支柱と足場用パイプで組まれた架台とを有するとともに、架台の上に太陽光発電パネルを取り付けてなるものであり(乙4の7等)、地下部分について、本件発明に係る施工方法である「キャストイン工法」により、1メートルまで掘削して形成された溝の内部において、隣接する支柱となる足場用パイプ同士を足場用パイプからなる接続部材で接続し、さらに、溝にセメントを流し込むことにより、接続部材を内包するセメント固化物を形成してなるものであって(乙15の3、乙16等)、この山王自治会装置の構造に照らすと、その施工方法は本件発明と同一である。

したがって、本件発明は、その出願前に日本国内において公然実施された発明であるから、新規性を欠く。

【原告の主張】

本件発明は山王自治会装置の施工により新規性を欠くものではない。その理由は次のとおりである。

ア アルバテックは、山王自治会装置の施工において、柱部材を配置する位置に杭基礎を打設した後、杭基礎に柱部材を固定することによって、太陽光発電パネル載置架台を施工しており、本件発明に係る施工方法を使用していない。

イ 山王自治会装置の施工が公然実施されたという被告の主張を裏付ける客観的な証拠はなく、同主張は争う。

(2)争点3-2(本件発明は特開2011-181670号公報等により進歩性を欠くか)

【被告の主張】

以下のとおり、本件発明は、本件特許の出願前に日本国内で頒布された刊行物である特開2011-181670号公報(乙1。以下「乙1公報」という。)に記載された発明(以下「乙1発明」という。)に加えて、①特開平10-18303号公報(乙2。以下「乙2公報」という。)、特公平4-19335号公報(乙3。以下「乙3公報」という。)、新聞記事(乙4)の各記載事項(以下のイにおいて示した内容を、順に「乙2記載事項」、「乙3記載事項」、「乙4記載事項」という。)に基づき、又は、②「公然実施発明の説明書」(乙5。以下「乙5説明書」という。)記載の公然実施の施工方法(以下「乙5実施事項」という。)に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、進歩性を欠く。

ア 乙1発明の内容

乙1公報には、次の各点で本件発明と相違するものの、その余の構成で一致する乙1発明が記載されている。

(ア)本件発明の「接続部材」は「足場パイプにより形成されて、隣接する柱部材同士を接続するもの」であるのに対し、乙1発明の「基礎梁」は「基礎ブロック下で基礎ブロック31同士を接続する」ものである点

(イ)本件発明では、地面に基礎形成用溝を掘り、基礎形成用溝に沿って柱部材を配置し、基礎形成用溝の内部で隣接する柱部材を足場パイプで接続し、その後、基礎形成用溝をコンクリートで埋め戻すものであるのに対して、乙1発明では、基礎梁を形成するために、溝を掘り、型枠で囲み、配筋を行った後、コンクリートを流し込むことが必要であることは自明であるものの、乙1公報にそのことが明記されていない点

イ ①乙1発明と乙2記載事項、乙3記載事項、乙4記載事項の組合せ

(ア)乙2記載事項

乙2公報には、次の事項が記載されている。

「ビニールハウス1の基礎施工方法であって、基礎構造10を形成するために、地面を掘ることで形成された溝40に沿って、支柱11を配置し、前記溝40の内部において、隣接する前記支柱11をパイプ製の長尺材30で接続し、前記溝40に土43を埋め戻すことで、長尺材30を土43により内包させること」

(イ)乙3記載事項

乙3公報には、次の事項が記載されている。

「建築物の基礎施工方法であって、建築物の基礎を形成するために地面に形成された掘削溝5に沿って柱6を配置し、前記掘削溝5の内部において、隣接する前記柱6を地中梁4でジョイント金具Aにより接続し、前記掘削溝5に基礎コンクリート7を流し込んで、前記地中梁4を内包する建築物の基礎を形成すること」

(ウ)乙4記載事項

新聞記事(乙4)には、次の事項が記載されている。

「太陽光パネルを置く基礎と架台に、建設現場で使う足場用のパイプを使うことは目新しいことではなく、また、原告が、低コストの足場用パイプで施工した太陽光発電所を一括受注し、その現場において、建設現場の足場用パイプで組んだ基礎と架台を採用するとともに、特に、基礎は地下1メートルまで掘削して設置し、セメントで固めたこと」

(エ)容易想到性

乙2記載事項は、簡易建築物の基礎に関する技術であって、本件発明及び乙1発明と技術分野が同一であり、解決しようとする課題も、短い工期で風圧荷重に耐える支柱基礎構造を提供することであって、同一である。

また、建築物の支柱同士を地下で繋ぐ鋼製の梁を地中の溝に収めてコンクリートで固めることは、乙3記載事項に見られるように、建築物の基礎施工法として、目新しいものではない。

そうすると、乙1発明に乙2記載事項を適用するに当たり、乙3記載事項を参酌して取り入れることは、乙4記載事項からうかがい知ることができる本件出願日当時の技術水準を考慮すれば、当業者が容易に推考し得た。

ウ ②乙1発明と乙5実施事項の組合せ

(ア)乙5実施事項

乙5説明書は、平成24年5月頃に実施された施工方法の概要が記載されたものであり、次の実施事項が記載されている。

「パイプづくりの簡易型駐車場建屋の基礎構造の施工方法であって、地面に溝104a、104b、104c、105a、105bを掘り、溝104a、104b、104c、105a、105bに支柱パイプ108を配置し、溝104a、104b、104c、105a、105bの内部で隣接する支柱パイプ108を水平な接続パイプ106a、106b、106c、107a、107bで固定し、溝104a、104b、104c、105a、105bを生コンで埋め戻すこと」

(イ)容易想到性

乙5実施事項は、パイプづくりの簡易型駐車場建屋(簡易建築物)に関する技術であり、本件発明及び乙1発明と技術分野を同一にし、かつ、解決しようとする課題も、風圧による引き抜き荷重への対策であって同一であるから、乙5実施事項を乙1発明に適用することは、当業者が容易に推考し得た。

【原告の主張】

本件発明は乙1公報等により進歩性を欠くものではない。その理由は次のとおりである。

ア ①乙1発明と乙2記載事項、乙3記載事項、乙4記載事項の組合せ

(ア)乙1公報は、基礎ブロック間を、溝を掘り、型枠で囲み、配筋を行った後、コンクリートを流し込んで形成した基礎梁で接続する技術を開示するのに対し、乙2公報記載の発明は、「独立基礎を構築するには、地面掘削、型枠組み、コンクリート流し込み、型枠撤去の施工を要し、工期が長くなる」ことを課題とし、コンクリートを使用する代わりに、土43を使うことによって支柱11間を接続する長尺材30を地中に配置するものである。このように、コンクリートを使わないという乙2公報記載の発明の特徴は、コンクリートを使用することを前提とした乙1発明に乙2記載事項を組み合わせるに当たって阻害要因となる。

(イ)乙3公報記載の発明は、鉄骨鉄筋コンクリート構造による建築物を技術分野として、高層の鉄骨鉄筋コンクリート建築物のような上部に重量のある建築物を軟弱地盤上に建設するに当たって、上部重量物の安定的支持のために考案されたものであるのに対し、本件発明は、足場パイプを用いたラーメン構造による構築物を技術分野として、太陽光発電パネルという軽量な物質を載せるための台を生成するものであり、上部重量物の安定的支持のために対策を講じる必要性は低い。このように、乙3公報と本件発明とは、技術分野も解決課題も全く異なる。

イ ②乙1発明と乙5実施事項の組合せ

乙5実施事項の内容は不知。ただし、乙5説明書のような工作物を作る場合、安価で一般的に用いられる方法は、仮設資材の固定ベースに足場パイプを差し込み、鉄ビスで固定した上でコンクリートを打設する方法であり(甲20)、被告が主張するような手間も費用もかかる方法を採用する理由はない。

4 争点4(被告による被告各方法の使用は原告の実施許諾による通常実施権に基づくものか)

【被告の主張】

被告による被告各方法の使用は、いずれも原告の本件特許に係る実施許諾による通常実施権(特許法78条)に基づくものであった。その経緯等は次のとおりである。

(1)原告と被告の間では、遅くとも平成24年3月8日以降、太陽光発電パネル設置指導に関する準委任契約が締結されていた。

(2)被告は、平成25年2月、それまで丸文株式会社(以下「丸文」という。)から購入していた太陽光発電パネル及び周辺機器等の資材を原告から購入することになり、それ以降、原告から資材を購入した上で約30件の太陽光発電装置を施工したが、被告の施工方法について原告から特段の異議を述べられることはなかった。

(3)平成27年の年末に、被告は、原告に対し、資材の値下げを要求したところ、原告から、一定以上の値下げには対応できないため、被告が他社から資材を購入することもやむを得ないとの趣旨の説明がされ、今後の太陽光発電装置の施工に関しても、被告の施工方法等について特段の異議を述べないとの趣旨を伝えられた。

(4)そのような中で、被告は、平成28年4月から本件土地1で、同年6月から本件土地2で、それぞれ太陽光発電装置を施工した。特に、本件土地2は極めて軟弱な地盤であったため、被告は原告に施工に関する意見を求めており、原告はアルバテックの担当者を現場へ派遣し、視察をしたものの、その後も被告に特段の連絡等をしなかったため、被告は施工を完了したものである。また、本件土地1の施工の際には、被告はアルバテックから資材を購入しているから、原告から資材を購入して施工する際に本件特許に係る方法に基づく設置指導をするという原告の主張を前提としても、原告が被告に対し本件特許に係る実施許諾を与えていたといえる。

【原告の主張】

原告は、被告が原告から購入した資材を用いて施工する場合に限り、本件特許に係る方法に基づく設置指導をしていたにすぎず、いずれも原告が設置指導をしていない本件各土地における被告の施工について、本件特許に係る実施許諾をしたことはない。

したがって、被告による被告各方法の使用が原告の本件特許に係る実施許諾による通常実施権(特許法78条)に基づくものであったとはいえない。

5 争点5(損害の発生の有無及びその額)

【原告の主張】

(1)民法709条所定の損害

原告が本件発明に係る施工方法で太陽光発電装置の請負契約を締結する場合、その請負代金は太陽光発電パネルの出力1kw当たり32万円であり(甲14)、本件各土地の太陽光発電パネルの出力は、本件土地1につき84.24kw、本件土地2につき277.68kwの合計361.92kwであるから、被告の行為と相当因果関係のある原告の損害額は、これらを乗じた1億1581万4400円を下ることはない。

(2)特許法102条1項に基づく算定

仮に上記(1)の損害が認められないとしても、以下のとおり、特許法102条1項に基づく算定により、3546万8160円が原告の損害額となる。

すなわち、本件発明は太陽光発電装置という物の製造方法の発明であると解されるが、太陽光発電装置は土地により出力数及び形状が同一ではないから、特許権者が侵害行為がなければ販売することができた物の単位数量当たりの利益の額は、出力1kwを1単位として算定すべきである。原告の取引実績(甲22、23)に照らすと、出力1kw当たりの利益の額は9万8000円であるから、特許法102条1項に基づく算定により、9万8000円に本件各土地の太陽光発電パネルの出力361.92kwを乗じた3546万8160円が原告の損害額となる。

(3)特許法102条3項に基づく算定

仮に上記(2)の損害が認められないとしても、原告が本件特許の実施許諾をする場合の実施料は出力1kw当たり3万円である(甲24)から、特許法102条3項に基づく算定により、3万円に本件各土地の太陽光発電パネルの出力361.92kwを乗じた1085万7600円が原告の損害額となる。

【被告の主張】

本件各土地の太陽光発電パネルの出力を除いて、いずれも否認ないし争う。その理由は次のとおりである。

(1)民法709条所定の損害

被告の行為と原告の請負代金相当額の損害との間には相当因果関係がないから、原告が主張する損害が発生することはない。

(2)特許法102条1項に基づく算定

本件発明は方法の発明であり、単位数量当たりの利益の額を出力1kwを1単位として算定すべきであるとする原告の主張は誤りである。また、甲22、23は値引き前の金額を記載した見積書にすぎず、実際の販売価格を示すものではない。

(3)特許法102条3項に基づく算定

特許権の実施料率が請負代金の10%強となることはおよそ考えられず、請負代金を基準とした場合にはその1%程度の金額にとどまる。

6.裁判所の判断

1 本件発明について

(1)本件明細書の発明の詳細な説明

-省略-

(2)本件発明の概要

前記前提事実(2)イの本件特許の特許請求の範囲請求項1の記載、前記(1)認定の本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び図面に照らせば、本件発明の概要は次のとおりであると認められる。

ア 本件発明は、太陽光発電装置に関し、特に、基礎部材を有するものに関する(【0001】)。

イ 従来技術の太陽電池パネル架台ユニット10では、基礎ブロック1が支柱2に対して個別に形成され、また、基礎ブロック1と支柱2とは、アンカー8で固定されていた。アンカー8によって基礎ブロック1と支柱2とを固定しただけでは、場合によっては、太陽電池パネル架台ユニット10に取り付けられた太陽電池パネル5が受ける風荷重に耐えられず、また、基礎ブロック1が支柱2に対して個別に形成されていたため、太陽電池パネル架台ユニット10の施工が煩雑になる、という課題があった(【0008】、【0009】)。

ウ 本件発明は、従来技術の太陽電池パネル架台ユニット10に上記イのような課題があったことに鑑み、施工が容易で高い強度を有する太陽光発電装置を提供することを目的としてされたものであり(【0010】)、太陽光発電パネル載置架台を形成する基礎部材として、支柱2ごとに個別に形成される従来技術の基礎ブロック1に代えて、隣接する柱部材を接続する接続部材をコンクリートに内包して形成される基礎部材に係る構成を採用したものである。

エ すなわち、本件発明は、太陽光発電パネル載置架台を有する太陽光発電装置の施工方法について、基礎部材の形成過程として、「前記基礎部材を形成するために地面に形成された基礎形成用溝に沿って前記柱部材を配置し、前記基礎形成用溝の内部において、隣接する前記柱部材を前記接続部材で接続し、前記基礎形成用溝に所定のコンクリートを流し込んで、前記接続部材をコンクリートに内包する基礎部材を形成し」(構成要件BないしD)という構成を採用したものであり、それによって、基礎部材と柱部材とを強固に一体にすることができ、特に風荷重に対する高い強度を有する太陽光発電装置を簡単な作業で容易に設置することができるという作用効果を奏する(【0020】、【0021】、【0031】、【0038】)。

また、本件発明は、構成要件Aに示されるように、柱部材及び接続部材がいずれも足場パイプにより形成されることを特徴としており、それによって、低コストな太陽光発電装置を提供するとともに、施工を簡略化することができる(【0014】ないし【0017】、【0034】)。

2 被告各方法について

(1)被告方法1

前記第2の2前提事実(4)アのとおり、被告方法1の概要は別紙被告方法1説明書記載の工程1ないし6のとおりであり、これを本件発明と対比させて分説すると、次のとおりである(以下、分説に係る各構成を符号に対応して「構成1a」などという。)。

1a 太陽光発電パネル及びこれを載置する太陽光発電パネル載置架台であって、地上梁、支柱となる単管パイプ及びこれを接続する長尺単管パイプを有する太陽光発電パネル載置架台を有する太陽光発電装置を施工する太陽光発電装置の施工方法であって、

1b 地上梁を形成するために、木製の型枠板を互いに適当な距離を隔てて対向するように起立配置することで地上に形成された底面が地面に接する型枠に沿って、支柱となる単管パイプを配置し

1c 型枠の内部において、隣接する支柱となる単管パイプを長尺単管パイプで接続し、

1d 型枠に、所定のコンクリートを流し込んで、長尺単管パイプをコンクリートに内包する地上梁を形成し、

1e 地上梁の上に、太陽光発電パネル載置架台を生成し、

1f 生成した太陽光発電パネル載置架台に前記太陽光発電パネルを載置すること、によって太陽光発電装置を施工する太陽光発電装置の施工方法。

(2)被告方法2

前記第2の2前提事実(4)イのとおり、被告方法2の概要は別紙被告方法2説明書記載の工程1ないし7のとおりであり、これを本件発明と対比させて分説すると、次のとおりである(以下、分説に係る各構成を符号に対応して「構成2a」などという。)。

2a 太陽光発電パネル及びこれを載置する太陽光発電パネル載置架台であって、地中梁、支柱となる単管パイプ及びこれを接続する長尺単管パイプを有する太陽光発電パネル載置架台を有する太陽光発電装置を施工する太陽光発電装置の施工方法であって、

2b 地中梁を形成するために地面に形成された溝に沿って支柱となる単管パイプを挿入し、ユンボ(パワーショベル)で打撃して地中に差し込むことで自立させて配置し、

2c 溝の内部において、隣接する支柱となる単管パイプを長尺単管パイプで接続し、

2d 溝に、所定のコンクリートを流し込んで、長尺単管パイプをコンクリートに内包する地中梁を形成し、

2e 地中梁の上に、太陽光発電パネル載置架台を生成し、

2f 生成した太陽光発電パネル載置架台に太陽光発電パネルを載置すること、によって太陽光発電装置を施工する太陽光発電装置の施工方法。

3 争点1(被告各方法は、文言上、本件発明の技術的範囲に属するか)

(1)争点1-1(被告方法1は構成要件Bの「地面に形成された基礎形成用溝」を充足し、構成要件Bを前提とする構成要件A、CないしEを充足するか)

ア 「地面に形成された基礎形成用溝」の意義

(ア)構成要件Bは、「前記基礎部材を形成するために地面に形成された基礎形成用溝に沿って前記柱部材を配置し」というものであるところ、一般に、「地面」には「地の表面」という字義があり、「溝」には「細長いくぼみ」という字義があることからすると、文言上、底面が地面に接するように地上に形成された型枠であっても、「地面に形成された基礎形成用溝」に当たり得る

また、上記のとおり、「基礎形成用溝」は、基礎部材を形成するためのものであるから、コンクリートを流し込み基礎部材を形成することができる形状のものであることが必要であるものの、本件明細書に、それが地面を掘って地中に形成されたものでなければならないとする説明は見当たらない。

そうすると、底面が地面に接するように地上に形成された型枠で、そこにコンクリートを流し込み基礎部材を形成することができるものであれば、構成要件Bの「地面に形成された基礎形成用溝」に含まれると解するのが相当である

(イ)これに対し、被告は、構成要件Bの「地面に形成された基礎形成用溝」は、地面を掘って地中に形成された基礎形成用溝であると解すべきであり、その理由として、①上記の文言、【0035】、【0036】の記載並びに図4A及びBから明らかであること、②本件発明は、太陽光発電装置を地面から引き抜こうとする力への対策として考案されたものであり、基礎形成用溝が地上に形成される場合には、上記の対策として機能しないこと、③基礎形成用溝を地上に形成するためには、地中に形成するのと比べて余分の作業が必要になり、かつ、相応の追加の部材も必要になるから、「施工コストの低減」、「施工の簡略化」といった【0021】、【0034】の記載の趣旨に反することなどを主張する

しかしながら、①について、文言上、底面が地面に接するように地上に形成された型枠であっても、「地面に形成された基礎形成用溝」に当たり得ることは上記のとおりであり、また、被告が指摘する本件明細書の説明及び図面は、いずれも実施例を示すものにすぎず、仮に、地面を掘って地中に形成された基礎形成用溝を開示するものであったとしても、この説明によって、基礎形成用溝を地中に形成されるものに限定されるということもできない

また、②について、本件発明は、前記1(2)認定のとおり、従来技術の太陽電池パネル架台ユニット10では、アンカー8によって基礎ブロック1と支柱2とを固定しただけであったため、場合によっては、太陽電池パネル架台ユニット10に取り付けられた太陽電池パネル5が受ける風荷重に耐えられず、また、基礎ブロック1が支柱2に対して個別に形成されていたため、太陽電池パネル架台ユニット10の施工が煩雑になるという課題があったことに鑑み、施工が容易で高い強度を有する太陽光発電装置を提供することを目的としてされたものであり、その作用効果は、従来技術の基礎ブロック1に代えて、構成要件BないしDに示されているように、隣接する柱部材を接続する接続部材をコンクリートに内包して形成される基礎部材に係る構成を採用することによって、基礎部材と柱部材とを強固に一体にし、特に風荷重に対する高い強度を有する太陽光発電装置を簡単な作業で容易に設置する点にあるから、このような従来技術の課題、本件発明の目的、構成、作用効果に照らせば、本件発明は太陽光発電装置を地面から引き抜こうとする力への対策として機能するか否かという観点から規定されているものではないのであって、上記の機能を有するように「地面に形成された基礎形成用溝」について限定解釈をすべきであるということはできない

さらに、③について、基礎形成用溝を地上に形成することによって相応の作業や部材が必要になるとしても、従来技術のように基礎ブロック1を複数形成することによる施工の負担は軽減されるから、本件発明の作用効果を損なうものともいえない

したがって、被告の主張は採用することができない。

イ 被告方法1の構成

前記2(1)のとおり、被告方法1は、構成1bを有する、すなわち、木製の型枠板を互いに適当な距離を隔てて対向するように起立配置することで、地上に型枠を形成し、この型枠は、地上梁を形成するためのものであり、底面が地面に接するものであるところ、上記の地上梁は構成要件Bの「基礎部材」に相当するから、構成要件Bの「地面に形成された基礎形成用溝」を充足する。

ウ 小括

被告方法1のその他の構成は前記2(1)のとおりであり、本件発明の「柱部材」に相当すると認められる支柱となる単管パイプ及び本件発明の「接続部材」に相当すると認められる長尺単管パイプは、いずれも足場パイプによって形成されていると認められるから、被告方法1は、本件発明の構成要件を全て充足する。

よって、被告方法1は、本件発明の技術的範囲に属する。

(2)争点1-2(被告方法2は構成要件Bの「柱部材を配置し」を充足し、構成要件Bを前提とする構成要件A、CないしEを充足するか)

ア 「柱部材」の意義

(ア)「柱部材」は、文言上、柱となる部材を意味するところ、本件明細書に、これを限定して解釈すべきことを示す説明等は見当たらないから、柱となる部材であれば、どのように直立状態を維持するかにかかわらず、これに該当すると解するのが相当である。

(イ)被告は、「柱部材」は、その性質上、配置された結果、直立状態に維持されるものでなければならないが、単に配置しただけでは直立状態を維持できないから、構成要件Bの「柱部材を配置し」の意義は不明確であるとして、【0037】、【0038】の記載を参酌し、「柱部材を配置し」については、各柱部材を、同一列の隣接するもの同士及び異なる列の対応するもの同士との間に、別途、何らかの梁部材を掛け渡し、かつ各柱部材の下端部が基礎形成用溝の底面、すなわち、砕石層の上面に当接した状態とすることを意味すると解すべきであると主張する。

しかしながら、構成要件Bは「基礎形成用溝に沿って前記柱部材を配置し」と規定するにとどまり、柱部材の配置方法を具体的に特定して規定するものではないから、柱部材がどのように直立状態を維持するかにかかわらず、基礎形成用溝に沿って配置されていればこれを充足すると解するのが規定上自然である。

また、被告の指摘する【0037】、【0038】の記載は、本件発明の実施例を示すものにすぎず、構成要件Bの「柱部材を配置し」を上記各段落に記載された形態のものに限定する根拠として十分なものではない。

したがって、被告の主張は採用することができない。

イ 被告方法2の構成

前記2(2)のとおり、被告方法2は、構成2bを有する、すなわち、地中梁を形成するために地面に形成された溝に沿って支柱となる単管パイプを挿入し、ユンボ(パワーショベル)で打撃して地中に差し込むことで自立させて配置するものであるところ、上記の地中梁は構成要件Bの「基礎部材」に相当するから、構成要件Bの「基礎形成用溝に沿って柱部材を配置し」を充足する。

ウ 小括

被告方法2のその他の構成は前記2(2)のとおりであり、本件発明の「柱部材」に相当すると認められる支柱となる単管パイプ及び本件発明の「接続部材」に相当すると認められる長尺単管パイプは、いずれも足場パイプによって形成されていると認められるから、被告方法2は、本件発明の構成要件を全て充足する。

よって、被告方法2は、本件発明の技術的範囲に属する。

4 争点3(本件特許は特許無効審判により無効とされるべきものか)

(1)争点3-1(本件発明は本件出願日前の原告関連会社による太陽光発電装置の施工により新規性を欠くか)

ア 証拠(乙4の7、15の3)及び弁論の全趣旨によれば、①本件出願日である平成24年8月2日より前の同年6月8日に発行された日本経済新聞には、山王自治会装置について、「…近畿北都住設…のXⅰは明かす。建設現場の足場用パイプで組んだ基礎と架台も工費節約に貢献した。基礎は地下1メートルまで掘削して設置し、セメントで固めた。」という記事とともに、足場用パイプを組んで形成された架台上に太陽光発電パネルが載置された太陽光発電装置の地上部分の写真が掲載されていること、②原告の関連会社であるアルバテックが本件出願日より前に上記①に係る山王自治会装置の施工をしたこと、③アルバテックのウェブサイトには、太陽光発電パネル載置架台の施工方法として、原告が特許取得した本件特許に係る施工方法が「キャストイン工法」という名称で紹介されていることが認められる。

イ しかしながら、前記ア③のアルバテックのウェブサイトには、山王自治会装置が「キャストイン工法」によって施工されたとは記載されていないところ、前記ア①の新聞記事及び写真によっても、山王自治会装置の地下部分の構成は明らかでないから、これらによっても、山王自治会装置が本件特許に係る施工方法である「キャストイン工法」によって施工されたことを認めるに足りない。

また、この点について、原告は、山王自治会装置の施工の際には、柱部材を配置する位置に杭基礎を打設した後、杭基礎に柱部材を固定することによって、太陽光発電パネル載置架台を施工したと主張しており、本件全証拠によっても、この原告の主張を排斥することはできない。

ウ 以上によれば、本件発明が、本件出願日より前に、日本国内において公然実施された発明であるとは認められないから、原告関連会社による山王自治会装置の施工により新規性を欠くとはいえない。

(2)争点3-2(本件発明は特開2011-181670号公報等により進歩性を欠くか)

ア 乙1発明

(ア)本件特許の出願前に日本国内で頒布された刊行物である乙1公報には、次の記載があり、図2は、別紙「図面(乙1公報図2)」のとおりである(乙1)。

a 技術分野

「【0001】

本発明は、防風壁を配置した大規模太陽光発電システムの設計法に関する。」

b 発明を実施するための形態

「【0023】

図2は、本実施形態に係わる架台の概要を表す部分斜視図である。架台30は、小型の基礎ブロック31と、基礎ブロック上に立てられた支柱32と、支柱の上端に長方形状に連続して配置されたフレーム材33とから主に構成されている。そのフレーム材上に配置した受け材34で太陽電池アレイ20を支持している。

【0024】

基礎ブロック31の大きさは、架台30が風圧荷重等で転倒しないように一定の大きさ(重量)を確保する必要がある。基礎ブロック31の材質は特に限定されないが、一定の重量のブロックを安価に施工できる点から鉄筋コンクリート製が好適に用いられる。…また、基礎ブロック下に基礎梁を設けてそれぞれを接続してもよい。

【0025】

…支柱32、フレーム材33、受け材34の材質は特に限定されないが、鋼材や単管パイプが好適に用いられる。」

(イ)上記(ア)a、bの各記載及び図2によれば、乙1公報には、次の乙1発明が記載されていると認められる。

A1 太陽電池アレイ20及び前記太陽電池アレイ20を載置する架台30であって、基礎ブロック31、単管パイプにより形成される支柱32及び基礎ブロック31の下で基礎ブロック31同士を接続する基礎梁を有する架台30を有する大規模太陽光発電システムの施工方法であって、

E1 基礎ブロック31上に架台30を生成し、

F1 生成した架台30に太陽電池アレイ20を載置すること、によって大規模太陽光発電システムを施工する大規模太陽光発電システムの施工方法。

(ウ)乙1発明と本件発明を対比すると、乙1発明の「太陽電池アレイ20」は本件発明の「太陽光発電パネル」に、乙1発明の「架台30」は本件発明の「太陽光発電パネル載置架台」に、乙1発明の「基礎ブロック31」は本件発明の「基礎部材」に、乙1発明の「支柱32」は本件発明の「柱部材」に、乙1発明の「基礎梁」は本件発明の「接続部材」に、それぞれ相当すると認められる。

したがって、本件発明と乙1発明とは、太陽光発電パネル及び前記太陽光発電パネルを載置する太陽光発電パネル載置架台であって、基礎部材、足場パイプにより形成される柱部材及び接続部材を有する太陽光発電パネル載置架台を有する太陽光発電装置を施工する太陽光発電装置の施工方法であって、前記基礎部材上に前記太陽光発電パネル載置架台を生成し、生成した前記太陽光発電パネル載置架台に前記太陽光発電パネルを載置すること、によって前記太陽光発電装置を施工する太陽光発電装置の施工方法である点において一致する。

他方、本件発明と乙1発明とは、次の各点において相違する。

a 本件発明の「接続部材」は「足場パイプにより形成される」(構成要件A)のに対し、乙1発明の「基礎梁」は足場パイプにより形成されることが明示されていない点(相違点1)

b 本件発明では、「前記基礎部材を形成するために地面に形成された基礎形成用溝に沿って前記柱部材を配置し、前記基礎形成用溝の内部において、隣接する前記柱部材を前記接続部材で接続し、前記基礎形成用溝に所定のコンクリートを流し込んで、前記接続部材をコンクリートに内包する基礎部材を形成」(構成要件BないしD)するのに対し、乙1発明では、これらに対応する「基礎ブロック31」の形成過程が明示されていない点(相違点2)

イ 乙2公報

(ア)本件特許の出願前に日本国内で頒布された刊行物である乙2公報には、次の記載があり、図1、図2、図4は、別紙「図面(乙2公報)」記載1ないし3のとおりである(乙2)。

a 発明の属する技術分野

「【0001】

本発明はビニールハウス、ベース・ベンチ(鉢載せベンチ)などの簡易建築物の基礎構造に関する。」

b 発明が解決しようとする課題

「【0003】

…独立基礎を構築するには、地面掘削、型枠組み、コンクリート流し込み、型枠撤去の施工を要し、工期が長くなる。また、ベース・ベンチをコンクリートブロックや角材に載せるだけでは、横荷重に弱いという欠点がある。そこで、本発明の目的は、①簡易ハウスにおいて工期の短い柱基礎構造、②横荷重に強い柱基礎構造を提供することにある。」

c 発明の実施の形態

「【0009】

…図1は本発明に係るビニールハウスの正面図であり、ビニールハウス1は、本発明の基礎構造10、10上に立設した主柱2、2と、支柱2、2上に掛け渡したアーチ屋根3、間柱5・・・(・・・は複数本を示す。以下同様。)と、横桟6・・・と、引き戸7、7と、図示せぬビニールシートとからなる。

【0010】

図2は本発明に係る基礎構造(第1実施例)を示す正面図(図1の要部拡大図)であり、主柱2を支える基礎構造10は、支柱11と、この支柱11の下部に取付けた座板20と、支柱同士を連結するための長尺材30及びくさび31とからなる。」

「【0012】

以上の構成からなる基礎構造(第1実施例)の施工手順を次に説明する。図4は図1の4矢視図兼作用説明図である。地面に溝40を堀り、溝40の所定箇所に栗石41、41を敷く。栗石41、41の上にモルタルなどの半固形物42、42を載せる。予め、座板20と支柱11とを組んでおき、これらを半固形物42、42に載せる。このときに、スパイク部22・・・が良好に半固形物42、42に噛み込む。

【0013】

丸棒又はパイプなどの長尺材30を支柱11、11に貫通させて取付け、くさび31、31を打込んで固定する。土43で溝40を埋め戻す。これで、支柱11の地中部15、長尺材30、くさび31及び座板20が地中に埋ったことにある。半固形物42、42がある程度固まったら、支柱11、11上に主柱2、2を載せればよい。」

(イ)上記(ア)aないしcの各記載、図2、図4によれば、乙2公報には、被告の主張する乙2記載事項、すなわち、「簡易建築物の基礎施工方法であって、基礎構造10を形成するために地面に形成された溝40に沿って支柱11を配置し、前記溝40の内部において、隣接する前記支柱11をパイプ製の長尺材30で接続し、前記溝40に土43を埋め戻して、長尺材30を土43に内包する基礎構造10を形成すること」が記載されていると認められる。

ウ 乙3公報

(ア)本件特許の出願前に日本国内で頒布された刊行物である乙3公報には、次の記載があり、第1図ないし第5図は、別紙「図面(乙3公報)」記載1ないし5のとおりである(乙3)。

a 産業上の利用分野

「本発明は、建築物の基礎施工法に関するが、就中、軟弱地盤にコンクリート建築物を建築するに適した基礎施工法に関する。」(第1列第22~24行目)

b 施工法

「地中梁仮止め工程:各縦向止着縁102をボルトで仮止めして構成したジヨイント金具Aの各横向差込孔3に各地中梁4の端部を差込んでボルトで仮止めする(第2図)。

据置工程:仮止め状態のジヨイント金具A及び地中梁4を地盤の掘削溝5に仮据置して水平角度を調べ、適正な水平角度になつたら正式に据置する(第3図)。

柱打込み工程:ついでジヨイント金具Aの縦向貫通孔2に柱6を貫通せしめ、地中に打込み、打込み深さ及び垂直角度が適正か否か調べるが、とくに打込み深さ地盤の硬軟の度合に応じて調節する(第4図)。

地中梁本止め工程:柱6の打込み深さと垂直角度が適正であつたら、ジヨイント金具A自体及びジヨイント金具Aと地中梁4とを仮止めしているボルトを締めなおして本止めする(第4図)。そして、不図示であるが、地中梁4を被覆する鉄筋、柱6を囲む鉄筋などを所定の間隔ごとに配設し、建築物の壁内部に埋設する鉄筋を地中梁4上に立設する。

基礎コンクリート打込み工程:上記のように本止め工程が終了したら、掘削溝5に基礎コンクリート7を打込む(第4図)。

土盛り工程:基礎コンクリート7の打込みが終了したら土盛り8を行なつて工事を終る(第4図、第5図)。」(第4列第34行目~第5列第16行目)

(イ)上記(ア)a、bの各記載、第1図ないし第5図によれば、乙3公報には、被告の主張する乙3記載事項、すなわち、「建築物の基礎施工方法であって、建築物の基礎を形成するために地面に形成された掘削溝5に沿って柱6を配置し、前記掘削溝5の内部において、隣接する前記柱6を地中梁4でジョイント金具Aにより接続し、前記掘削溝5に基礎コンクリート7を流し込んで、前記地中梁4を内包する建築物の基礎を形成すること」が記載されていると認められる。

エ 相違点に係る構成の容易想到性(乙1発明と乙2記載事項及び乙3記載事項等の組合せ)

被告は、乙1発明に乙2記載事項を適用するに当たり、乙3記載事項を参酌して取り入れることは、乙4記載事項からうかがい知ることができる本件出願日当時の技術水準を考慮すれば、当業者が容易に推考し得たと主張しており、その趣旨は必ずしも明らかでないが、相違点1及び2に係る本件発明の構成は、乙1発明の基礎ブロック31の形成過程に乙2記載事項を適用するに当たり、乙2記載事項である溝40に土43を埋め戻して基礎構造10を形成する構成を、乙3記載事項である基礎コンクリート7を流し込む構成に置き換えて適用することによって、当業者が容易に想到し得たと主張するものと解される。

しかしながら、乙2公報記載の発明は、「独立基礎を構築するには、地面掘削、型枠組み、コンクリート流し込み、型枠撤去の施工を要し、工期が長くなる」(段落【0003】)ことなどを課題とし、「簡易ハウスにおいて工期の短い柱基礎構造…を提供すること」(同段落)を目的の一つとしてされたものであり、工期を短縮するためにあえて養生に時間を要するコンクリートではなく土43を溝40に埋め戻す構成を採用したものであると認められるから、乙1発明の基礎ブロック31の形成過程に乙2記載事項を適用するに当たり、土43を溝40に埋め戻す構成に代えて、コンクリートを流し込む構成を採用することについては、その動機付けを阻害する要因があるといえる。

また、乙3公報は、軟弱地盤にコンクリート建築物を建築するに適した基礎施工法に関するものであり(第1列第22~24行目)、コンクリート建築物という堅固な建築物を軟弱地盤に建設する技術に関するものであるのに対し、乙1発明は、太陽光発電装置の設計に関するものであって、単管パイプで形成される簡易な構成を含むものであり、また、乙2公報も、簡易建築物の基礎構造に関するものであるから、いずれも乙3公報とは属する技術分野や解決しようとする課題が異なるということができ、乙1発明の基礎ブロック31の形成過程に乙2記載事項を適用するに当たり、乙3記載事項を参酌する動機付けがあるとはいい難い。

さらに、被告が指摘する新聞記事(乙4)の中には、山王自治会装置の施工について、足場パイプで基礎や架台を組んだことや、地下を掘削して基礎を形成し、セメントで固めたことなどが記載されているものの、太陽光発電装置の地下部分の構成が明らかでないことは前記(1)イで述べたとおりであり、隣接する柱部材を接続する接続部材をコンクリートに内包する基礎部材に係る構成を開示するものではなく、示唆するものでもない。

したがって、乙1発明に乙2記載事項を適用するに当たって乙3記載事項を参酌することなどによって、相違点1及び2に係る本件発明の構成を当業者が容易に想到できたと認めることはできない。

オ 相違点に係る容易想到性(乙1発明と乙5実施事項の組合せ)

また、被告は、相違点1及び2に係る本件発明の構成は、乙5実施事項、すなわち、乙5説明書に記載された平成24年5月頃の実施事項を乙1発明に適用することによって、当業者が容易に推考し得た旨を主張する。

しかしながら、乙5説明書は、証拠説明書において、被告訴訟代理人弁護士が本件訴訟提起後の平成29年3月10日に作成した書面であるとされており、施工業者名及び施工時期は記載されているものの、その作成経緯及び作成状況は明らかでなく、添付されている写真も建屋完成後に地上部分を撮影したものにすぎないから、被告の主張する乙5実施事項、すなわち、「パイプづくりの簡易型駐車場建屋の基礎構造の施工方法であって、地面に溝104a、104b、104c、105a、105bを掘り、溝104a、104b、104c、105a、105bに支柱パイプ108を配置し、溝104a、104b、104c、105a、105bの内部で隣接する支柱パイプ108を水平な接続パイプ106a、106b、106c、107a、107bで固定し、溝104a、104b、104c、105a、105bを生コンで埋め戻すこと」を客観的に裏付けるものではない。

また、原告は、乙5説明書に記載されているような工作物を作る場合、安価で一般的に用いられる方法は、仮設資材の固定ベースに足場パイプを差し込み、鉄ビスで固定した上でコンクリートを打設する方法であると主張しているところ、乙5説明書その他本件全証拠によっても、この工法によることの可能性を排斥することは困難である。

したがって、被告の主張する乙5実施事項を認めることはできないから、上記の被告の主張は前提を欠き、採用することができない。

カ 小括

以上によれば、本件発明は、当業者が本件出願日当時乙1発明等に基づき容易に発明をすることができたものとは認められないから、乙1発明等に基づき進歩性を欠くとはいえない。

5 争点4(被告による被告各方法の使用は原告の実施許諾による通常実施権に基づくものか)

(1)証拠(甲24、25、乙19、21ないし25)及び弁論の全趣旨によれば、①被告は、平成25年7月以降、原告から購入した資材を用いて約30件の太陽光発電装置を施工したこと、②被告の上記①の施工について、原告は、現場を視察し、本件特許に係る施工を助言するなどしており、特段異議を述べることはなかったこと、③原告は、平成25年12月15日、第三者との間で、本件特許権の実施許諾契約を締結しているが、その際、契約書が作成され、実施料について、原告から資材を購入する場合はその代金に含める形で支払われ、それ以外の場合は設置する太陽光パネルの出力に応じた金額が支払われる旨の合意がされていること、④被告は、平成28年4月から同年7月頃まで、本件土地1において、原告の関連会社であるアルバテックから購入した資材を用いて、被告方法1により太陽光発電装置を施工したが、その際、原告が現場を視察することはなく、本件特許に係る施工を助言することもなかったこと、⑤原告は、本件土地2における施工について被告に相談され、現場を視察したが、その後はどちらからも同施工について連絡することがなく、被告は、同年6月から同年7月頃まで、本件土地2において、丸文から購入した資材を用いて、被告方法2により太陽光発電装置を施工したこと、⑥原告は、同月19日付け通知書において、被告に対し、本件土地2及びその他の土地における被告の施工は、本件特許権を侵害するものであるなどとして、施工の中止等を求めたことが認められる。

(2)しかしながら、上記(1)の認定事実によっても、被告各方法の使用についての原告による本件特許権の実施許諾があったと認めることはできず、他にこれを認めるに足る証拠はない。

(3)ア この点について、被告は、前記(1)①及び②の事実に照らせば、原告は、被告に対し、本件特許権の実施を許諾していることが推認される旨主張する。しかしながら、前記(1)③のとおり、原告が本件特許権の実施許諾をした場合には実施料の合意がされて契約書も作成された例があるところ、前記(1)①の施工(以下「従前の施工」という。)において、そのような明確な合意がされたことや契約書が作成されたことはうかがわれず、その後これらがされたとも認められない。そして、本件各土地における被告各方法の使用においては、従前の施工と異なり、原告から資材の購入がされることはなく、原告による施工の助言などがされることもなかったのであるから、仮に従前の施工について原告による何らかの許諾があると認められるとしても、このことによって、被告各方法の使用について、実施許諾があったと推認することはできない。

イ さらに、被告は、平成27年の年末に、原告に資材の値下げを要求したところ、原告から、一定以上の値下げには対応できないため、被告が他社から資材を購入することもやむを得ないとの趣旨の説明がされ、今後の太陽光発電装置の施工に関しても、被告の施工方法等について特段の異議を述べないとの趣旨を伝えられたことを指摘するが、被告が平成27年末に原告から伝えられたとする内容は極めて曖昧である上、前記(1)③の事実に照らし、資材の提供や施工の助言もない場合にまで原告が本件特許権の実施を許諾していたとはいい難い。

ウ また、被告は、本件土地1における施工の際には、原告の関連会社であるアルバテックより資材を購入している旨を指摘するが、アルバテックから資材を購入する場合を原告から資材を購入する場合と同視し得るかを措くとしても、原告による施工の助言などの関与があったことは認められないのであって、被告の上記指摘に係る事実が原告による実施許諾を基礎付ける事情となるということはできない。

エ したがって、被告の主張は採用することができない。

(4)以上より、被告による被告各方法の使用は原告の実施許諾による通常実施権に基づくものであったとはいえない。

6 争点5(損害の発生の有無及びその額)

(1)原告は、まず、原告が太陽光発電装置の請負契約を締結する場合の請負代金額を基に、太陽光発電パネルの出力1kw当たりの請負代金額は32万円であるとして、これに本件各土地の太陽光発電パネルの出力を乗じた1億1581万4400円を民法709条所定の損害であると主張する。

しかしながら、太陽光発電装置の施工について、被告が本件各土地で施工していなければ、原告がこれらを受注して施工することができたと認めるに足る証拠はないから、原告の主張する上記の損害は被告の行為と相当因果関係のある損害であると認めることはできない。

(2)原告は、次いで、本件特許に係る「単位数量当たりの利益の額」(特許法102条1項)は太陽光発電パネルの出力1kwを1単位として算定すべきであるとして、太陽光発電パネルの出力1kw当たりの利益の額は9万8000円であり、これに本件各土地の太陽光発電パネルの出力を乗じた3546万8160円を特許法102条1項による損害額であると主張する。

しかしながら、原告の上記の主張は、アルバテック又は原告による太陽光発電装置の施工に係る見積書(甲22の1、甲23の1)等の書面に基づくものであり、これらが実際の取引金額を反映したものであると認めるに足る証拠はないから、本件各土地における太陽光発電装置の施工に対応する原告の単位数量当たりの利益の額を算定する根拠として不十分である。

その他本件特許に係る単位数量当たりの利益の額を認めるに足る証拠はなく、したがって、特許法102条1項による損害額として、原告の主張する上記の損害を認定することはできない。

(3)ア 原告は、さらに、原告が本件特許の実施許諾をする場合の実施料は出力1kw当たり3万円であるとして、これに本件各土地の太陽光発電パネルの出力を乗じた1085万7600円を特許法102条3項による損害額であると主張する。

イ そこで検討すると、証拠(甲24)によれば、原告は、平成25年12月15日、他社との間で、本件特許に係る通常実施権を許諾する旨の特許権実施許諾契約を締結しており、同契約3条(1)において、実施料については、本件特許に係る施工方法を用いて施工された太陽光発電パネルの出力1kwに対して3万円を乗じた額とされたことが認められる。そして、本件全証拠によっても、この実施料額が高額にすぎて不相当であると認めることはできない。

したがって、本件発明の実施に係る実施料率としては、太陽光発電パネルの出力1kw当たり3万円と認めるのが相当であり、本件における特許法102条3項による損害額は、3万円に本件各土地の太陽光発電パネルの出力を乗じて算定するのが相当である。

そうすると、本件各土地の太陽光発電パネルの出力は、前記第2の2前提事実(4)のとおりであって、合計361.92kwであるから、本件における特許法102条3項による損害額は合計1085万7600円(本件土地1につき3万円に84.24kwを乗じた252万7200円、本件土地2につき3万円に277.68kwを乗じた833万0400円の合計)である。

ウ これに対し、被告は、特許権の実施料率が請負代金の10%強となることはおよそ考えられず、請負代金を基準とした場合にはその1%程度の金額にとどまる旨主張するが、その理由を具体的に主張しておらず、裏付けとなる証拠を提出していないから、実施料率を基礎付ける事情として採用することができない。

7.検討

(1)本件発明は太陽光発電装置の施工方法に関するものであって、要は、地面に形成した基礎形成用溝に柱部材を配置し、この基礎形成用溝内の隣接する柱部材同士を接続部材で接続してから、基礎形成用溝内にコンクリートを流し込むというものです。

(2)被告製品の施工方法には二通りあり、一方は、地表に形成した型枠にコンクリートを流し込んで基礎部材を形成するもので、他方は、地面を掘り下げて形成した溝に型枠にコンクリートを流し込んで基礎部材を形成するものです。

(3)判決では、後者の地面を掘り下げたものは当然ですが、前者の地表に型枠を形成したものも本件特許に抵触すると認定しています。判決では、「一般に、「地面」には「地の表面」という字義があり、「溝」には「細長いくぼみ」という字義があることからすると、文言上、底面が地面に接するように地上に形成された型枠であっても、「地面に形成された基礎形成用溝」に当たり得る」と述べています。

(4)被告方法1については少し気になります。辞書でひくと、確かに「地面」には「地の表面」という意味がありますが、逆に、「地中」という意味はないようです。そうすると、本件明細書等では基礎形成溝は地中に形成される例しか開示されておらず、本件発明の構成要件Bの「地面に形成された基礎形成溝」を辞書で定義された意味で解釈すると、この明細書記載の実施例を含まないことになります。そうなると、本件発明は36条違反で無効ということになります。

(5)そのため、本件発明の「地面」明細書の記載内容に基づき解釈されるべきというステージに移行します。そうすると実施例には地中に基礎形成溝を形成する例しか記載されていないので、「地面」は「地中」を含むものと解釈することになります。しかし、そうなるとこの場合の「地面」に辞書上の「地の表面」という意味も含むと解釈すべきか疑問が残ります。

(6)特許請求の範囲で用いられた文言が、辞書上、地表も地中も含む文言であって、明細書等には地中の例しか示されていない場合であれば、明細書等には地中の実施例しか記載されていなくても地中に限定するものではないから、地中も地表も特許請求の範囲に含まれる、と解釈しても良い気がします。しかし、特許請求の範囲で用いられた文言が、辞書上、地表しか含まない文言であって、明細書等には地中の例しか示されていない場合であれば、発明の有効性を前提にすると、明細書等には地中の実施例しか記載されていないので、地中しか特許請求の範囲に含まれない、と解釈できる気もします。

(7)もちろん、ここまで字義に拘ると大半の特許が役に立たなくなるので、判決のように解釈するのでも構わないように思いますが、特許請求の範囲の記載には注意が必要だと思います。