破袋機事件
投稿日: 2017/09/06 5:04:42
今日は平成24年(ワ)第6435号 特許権侵害差止等請求事件について検討します。原告である大阪エヌ・イー・ディー・マシナリー株式会社は、判決文によると、廃棄物処理機械等の機械の設計、製造、販売及び修理等を目的とする株式会社だそうです。一方、被告である株式会社大原鉄工所は雪上車の製造販売のほか、ごみ廃棄物処理機械設備の製造販売等を目的とする株式会社だそうです。J-PlatPatで調べたところ、大阪エヌ・イー・ディー・マシナリー株式会社がこれまでに取得した特許は14件、株式会社大原鉄工所は3件でした。
1.手続の時系列の整理(特許第4365885号)
① 被告が請求した特許無効審判は請求不成立との審決に対して知財考査に審決取消訴訟を起こしました。同訴訟で請求棄却されたのを受け、最高裁に上告しましたが、被告がこの上告を取り下げて終了しました。
② 侵害訴訟は一審で原告の訴えが一部認容され、原告の勝訴になりましたが、原告・被告ともにこの判決を不服として知財高裁に控訴しました。知財高裁では一審原告の請求が反映して判決が変更されました。
③ 一審原告は2016年12月1日付けで本事件について勝訴が確定した、との広報発表を行っています。
2.特許の内容
(1)本件特許発明1(請求項1)
A 矩形枠体からなる破袋室(2)と、
B 破袋室(2)の一方の対向壁面間に水平に軸支された回転体(11)の表面に、回転軸に直角な垂直板からなる複数の板状刃物(12)を、該回転軸から放射方向に且つ該放射方向が軸方向に所要角度ずれるように凸設した可動側刃物(10)と、
C 破袋室(2)の他方の平行な対向壁面より板厚みを水平に凸設配置された垂直板からなる複数の板状刃物(12)を、前記回転体(11)の軸方向に配列した固定側刃物(20)と、
D 回転体(11)に対して正・逆転パターンの繰り返し駆動を行う駆動制御手段とを有し、
E 可動側と固定側の垂直板からなる複数の板状刃物(12)が所定間隔で噛合するように、回転体(11)の正・逆転パターンの繰り返し駆動に伴って固定側の垂直板からなる板状刃物(12)間を可動側の垂直板からなる板状刃物(12)が通過し、
F 所定間隔で噛合する可動側と固定側の垂直板からなる複数の板状刃物(12)間で袋体を破袋する
G 破袋機。
(2)本件特許発明2(請求項2)
AないしGの構成要件を備える破袋機であって、
H 固定側刃物(20)の板状刃物(12)は、鋭角な刃先部を有する。
(3)本件特許発明3(請求項4)
AないしGの構成要件を備える破袋機であって、
I 固定側刃物(20)は、その全部又は一部を当該刃物を保持する壁面ごとあるいは刃物の保持部ごと破袋室(2)外へ待避可能にした。
3.被告製品の内容
3.1 被告製品1
1-a 矩形枠体からなる破袋室(2)と、
1-b 破袋室(2)の一方の対向壁面(2a、2a)間に水平に軸支された回転体(11)の表面に、回転軸に直角な垂直板からなる複数の板状刃物(12a、12b)を、該回転軸から放射方向に且つ該放射方向が軸方向に所要角度ずれるように凸設した可動側刃物(10)と、
1-c 破袋室(2)は、直方体状の枠体①の左右側面(回転体(11)の回転軸と直通する方の面)を適宜の板材で塞ぎ、底面、天井面及び前後面(回転体(11)の回転軸と平行な方の面)は、開口をそのままに開放されており、開放されている前後面の上側にはそれぞれ横材②が架設され、横材②の下方側は依然開放されており、横材②には複数の窓口が形成され、各窓口には固定側刃物(20)を突設した板体が着脱自在に設けられており、また、この前後面には、下方から可動側刃物(10)を保守するために開閉可能な開閉扉③が設けられており、
1-d 制御ユニットに内装されるそれぞれ独立した正転タイマと逆転タイマの設定により、正転時間と逆転時間を決めて回転体(11)を正逆駆動回転させる手段を有し、
1-e 可動側と固定側の垂直板からなる複数の板状刃物(12a、12bと24)が所定間隔で噛合するように、回転体(11)の上記dの正逆駆動回転に伴って固定側の垂直板からなる板状刃物(24)間を可動側の垂直板からなる板状刃物(12a、12b)が通過し、
1-f 所定間隔で噛合する可動側と固定側の垂直板からなる複数の板状刃物(12a、12bと24)間で袋体を破袋する
1-g 破袋機(1)。
1-h 固定側刃物(20)の板状刃物(24)は、鋭角な刃先部を有する。
1-i 固定側刃物(20)は、横材②に対し取り外し自在に設けられている。
3.2 被告製品2
2-a 矩形枠体からなる破袋室(2)と、
2-b 破袋室(2)の一方の対向壁面(2a、2a)間に水平に軸支された回転体(11)の表面に、回転軸に直角な垂直板からなる複数の板状刃物(12a、12b)を、該回転軸から放射方向に且つ該放射方向が軸方向に所要角度ずれるように凸設した可動側刃物(10)と、
2-c 破袋室(2)は、直方体状の枠体①の左右側面(回転体(11)の回転軸と直交する方の面)は適宜な板材で塞がれ、底面、天井面及び前後面(回転体(11)の回転軸と平行な方の面)は、開口をそのままにして開放されており、この開放されている前後面の上側にして枠体①の左右側面同士間にはパイプ部材(25)が架設され、またこのパイプ部材(25)の下方側は依然開口しており、このパイプ部材(25)には、複数の固定側刃物(20)が突出状態に並設されており、この前後面には開閉扉③が設けられ、開閉扉③を開けて、前記パイプ材(25)の下方から可動側刃物(10)を保守し、
2-d 制御ユニットに内装されるそれぞれ独立した正転タイマと逆転タイマの設定により、正転時間と逆転時間を決めて回転体 (11)を正逆駆動回転させる手段を有し、
2-e 可動側と固定側の垂直板からなる複数の板状刃物(12a、12bと24)が所定間隔で噛合するように、回転体(11)の上記dの正逆駆動回転に伴って固定側の垂直板からなる板状刃物(24)間を可動側の垂直板からなる板状刃物(12a、12b)が通過し、
2-f 所定間隔で噛合する可動側と固定側の垂直板からなる複数の板状刃物(12a、12bと24)間で袋体を破袋する
2-g 破袋機(1)。
2-h 固定側刃物(20)の板状刃物(24)は、鋭角な刃先部を有する。
2-i 固定側刃物(20)は、パイプ部材(25)に設けられている。
4.争点
(1)被告製品1は、本件特許発明1ないし3の技術的範囲に属するか(争点1)
ア 構成要件Cの充足の有無(争点1-(1))
イ 構成要件D、Eの充足の有無(争点1-(2))
ウ 構成要件Iの充足の有無(争点1-(3))
(2)被告製品2は、本件特許発明1ないし3の技術的範囲に属するか(争点2)
ア 構成要件Cの充足の有無(争点2-(1))
イ 構成要件D、Eの充足の有無(争点2-(2))
ウ 構成要件Iの充足の有無(争点2-(3))
(3)構成要件Cに関し、被告製品1、2は、本件特許発明1ないし3と均等なものとして、その技術的範囲に属するか(争点3)
(4)特許法104条の3第1項に基づく本件特許権の権利行使制限の成否(争点4)
ア 本件特許出願の原出願日前に公知となっていた破袋機にかかる発明(本件公知発明)を主引例とする進歩性欠如の無効理由の有無(争点4-(1))
イ 本件特許出願の原出願日前に頒布された刊行物である乙33(特開平7-1388号公報)に記載の発明(以下「乙33発明」という。)を主引例とする進歩性欠如の無効理由の有無(争点4-(2))
(5)原告の被った損害(争点5)
5.裁判所の判断
5.1 被告製品1は、本件特許発明1ないし3の技術的範囲に属するか(争点1)について
(1)当裁判所は、被告製品1は、構成要件C、D、Eを充足し、本件特許発明1、2の技術的範囲に属すると判断し、構成要件Iを充足せず、本件特許発明3の技術的範囲に属しないものと判断する。その理由は次のとおりである。
(2)本件特許発明の技術分野、背景技術及び解決しようとする課題
-省略-
(3)本件特許発明における課題解決手段
-省略-
(4)本件特許発明の作用効果
-省略-
(5)構成要件Cについて(争点1-(1))
ア 「平行な対向壁面」の意義
構成要件Cは、「破袋室の他方の平行な対向壁面より板厚みを水平に凸設配置された垂直板からなる複数の板状刃物を、前記回転体の軸方向に配列した固定側刃物」である。
本件特許発明1において、固定側の板状刃物の機能を検討するに、同刃物は、構成要件Eにおいて、「可動側と固定側の垂直板からなる複数の板状刃物が所定間隔で噛合するように、・・固定側の垂直板からなる板状刃物間を可動側の板状刃物が通過」する構成とされ、構成要件Fにおいて「所定間隔で噛合する可動側と固定側の垂直板からなる複数の板状刃物間で袋体を破袋する」構成とされるものである。
そうすると、固定側の板状刃物が可動側の板状刃物と協働して袋体を破袋するために、固定側の板状刃物は、他方の平行な対向壁面、すなわち、回転体の回転軸に平行な対向壁面より凸設配置されるものであるから、本件特許発明1における「対向壁面」とは、回転体の回転軸に平行であって、固定側刃物が配置されうる程度の広さ、形状を有し、一定程度の空間を仕切る作用を有するものであれば足り、矩形枠体からなる破袋室の全体を覆っていることや、平面であることを要するものではないと解することができる。
このように、「平行な対向壁面」の「平行」を回転体の回転軸に対して平行と解することは、前記(3)に記載の本件特許発明の課題解決手段として掲げられた、「固定側刃物を水平方向に固定配置する構成」と整合する一方、本件明細書において、上記以上に「平行な対向壁面」を限定して解釈すべきことを示唆する記載は認められない。この点に関する被告の主張は採用の限りでない。
イ 構成1-cの構成要件Cの充足の検討
前提事実(6)アによると、被告製品1の構成1-cは、「破袋室(2)は、直方体状の枠体①の左右側面(回転体(11)の回転軸と直通する方の面)を適宜の板材で塞ぎ、底面、天井面及び前後面(回転体(11)の回転軸と平行な方の面)は、開口をそのままに開放されており、開放されている前後面の上側にはそれぞれ横材②が架設され、横材②の下方側は依然開放されており、横材②には複数の窓口が形成され、各窓口には固定側刃物(20)を突設した板体が着脱自在に設けられており、また、この前後面には、下方から可動側刃物(10)を保守するために開閉可能な開閉扉③が設けられ」ているものであるが、このうち、前後面(回転体(11)の回転軸と平行な方の面)の両上側にそれぞれ横材②が架設され、横材②には複数の窓口が形成され、各窓口には固定側刃物を突設した板体が設けられているのであるから、かかる構成は、前記アの意味における「平行な対向壁面」に相当するものと認められる。
また、対向壁面がこのように解せられる以上、固定側刃物が対向壁面「より」配置されていることは、これを設置する位置とみるか、起点とみるかにかかわらず、これを充足することになる。
ウ まとめ
以上によれば、構成1-cは、本件特許発明1の構成要件Cを充足する。
(6)構成要件D、Eについて(争点1-(2))
ア 「正・逆転パターンの繰り返し駆動」の意義
構成要件Dは「回転体に対して正・逆転パターンの繰り返し駆動を行う駆動制御手段」を、構成要件Eは「回転体の正・逆転パターンの繰り返し駆動」を構成に含み、共通する「正・逆転パターンの繰り返し駆動」は同義と解されるところ、前記第3の1【被告の主張】(2)のとおり、上記文言について、被告は、正・逆転パターンがいくつかあり、それらを繰り返して回転体を駆動制御するとの意味であって、1組の正・逆パターンの繰り返し駆動を含まないこと、回転体が1回転する制御までに限定され、回転体が何回転もする制御は含まれないことを主張して、被告製品の構成はこれに該当しないとするのに対し、原告は、1組の正・逆パターンの繰り返し駆動も含まれ、回転体が何回転もする制御も含まれる旨主張する。
イ 検討
(ア)明細書の記載
-省略-
(イ)出願、補正の経緯(乙3ないし5)
-省略-
(ウ)当裁判所の判断
「パターン」という言葉は一般には「型」、「規則性」といった意味を有するのであり、これを適用すると、「正・逆転パターンの繰り返し駆動」は、「正転、逆転を規則的に繰り返す駆動」と理解することができるのであり、その文言から、複数の正・逆転パターンがあって、これらを繰り返す駆動を意味するものと、直ちに理解し得るものではない。
被告は、発明の詳細な説明に、「正・逆転の回転角度を該単位ごとに変化させた複数の正・逆転パターンを繰り返す制御、あるいは複数パターンの組合せを繰り返す制御」といった記載があることから、上記のとおり解すべき旨を主張する。しかしながら、前記(3)で述べたとおり、発明の詳細な説明によれば、「回転側刃物を回転でなく(「単純な一方向の回転ではなく」との意味に解される。)正・逆転パターンの繰り返し駆動」を行う構成と、「右回転と左回転を1パターンとして種々パターンで正・逆転パターンの繰り返し駆動」を行う構成が、いずれも本件特許発明の作用効果を有するとされているところ、本件特許発明では、「正・逆転パターンの繰り返し駆動」を構成に含む請求項1ないし4記載の発明と、「可動側刃物を水平基準点から一方向に所要角度回転した後、反対方向に前記所要角度回転させる正・逆転パターンを1単位とし、正・逆転の回転角度を該単位ごとに変化させた複数の正・逆転パターンを繰り返す駆動」を構成に含む請求項5の発明及び「正・逆転パターンの回転角度を予め設定された角度に変更し、回転角度が異なる正・逆転パターンの組合せを繰り返す駆動」を構成に含む請求項7記載の発明が区別されており、これによると、請求項1ないし4記載の「正・逆転パターンの繰り返し駆動」は、段落【0013】の「右回転と左回転を1パターンとして種々パターンで正・逆転パターンの繰り返し駆動」や、請求項5又は同7記載の「複数の正・逆転パターンを繰り返す駆動」とは異なるものといわざるを得ない。
「可動側刃物10は、右に180度、左に180度のパターン1と右に360度、左に360度のパターン2を交互に繰り返す」との本件明細書の前記記載も、請求項5又は同7記載の発明の説明またはその実施例を示すものと解され、この記載を根拠に、請求項1ないし4記載の発明の構成である「正・逆転パターンの繰り返し駆動」の意味内容が、被告主張のとおりであると認めることはできない。
また、前記(イ)によれば、原告は、本件特許発明の請求項1について、「回転体を揺動回転駆動する駆動制御手段」から「回転体に対して正・逆転パターンの繰り返し駆動を行う駆動制御手段」に訂正し、その際、「正・逆両方向に完全に1回転するパターンも含んでおり、揺り籠のように両方向に揺れ動く動作だけではない。正・逆両方向に完全に1回転するような回転動作は、もはや揺動とは言えない。」と説明しているが、原出願時においても、「回転体」、「揺動回転駆動」といった言葉が使用されており、一般的意味における「回転」を前提とするものであると解されるし、1回転以上の回転を排除する趣旨も読み取り得ない。
以上検討したところによれば、「正・逆転パターンの繰り返し駆動」については、字義通り、「正転、逆転を規則的に繰り返す駆動」と解すべきものであって、前記明細書の記載及び出願の経緯から、複数の正・逆パターンを繰り返すものでなければならない、あるいは、回転体が何回転もする制御は含まないといった限定を付すべき理由はない。
ウ 構成1-d、1-eについて
前提事実(6)アによると、被告製品1の構成1-dは、「正転タイマと逆転タイマの設定により、正転時間と逆転時間を決めて回転体11を正逆駆動回転させる手段」であるところ、この具体的構成は、証拠(乙1)によると、被告製品1の回転体の制御にあっては、手動運転のほか、自動運転モードが備えられ、自動運転では、破袋機が自動運転し、設定値に従い、自動で正転・逆転が切り替わるものであり、その設定に関し、タイマ・カウンタの設定項目には、「D142 定期正転時間(定期の正転時間)」、「D143 定期正転後停止時間(定期の正転時間(D142)に達すると設定時間停止し、定期逆転に移る。)」、「D144 正-逆切替時間(正転→逆転、逆転→正転に切り替える際のインターバル時間)」、「D149 定期逆転時間(定期正転時間(D142)に達すると設定時間で逆転動作を行う。)」、「D150 停止逆転後停止時間(定期逆転時間(D149)に達すると設定時間停止し、定期正転に移る。)」との項目があり、定期正転時間、定期逆転時間は、それぞれ、0から3000秒の範囲で、10分の1秒単位で数値により設定することができるものであることが認められる。
そうであるとすると、被告製品1は、定期正転時間と定期逆転時間にそれぞれ一意の数値が設定されることにより(正転時間と逆転時間が異なってもよい)、1組の正・逆転パターンの組合せができ、これを規則的に繰り返す駆動を実現する構成を有しているものと認めることができる。
エ まとめ
以上によると、被告製品1の構成1-dの「回転体11を正逆駆動回転させる手段」は、構成要件Dの「正・逆転パターンの繰り返し駆動を行う駆動制御手段」に相当し、同様1-eの「正逆駆動回転」は、構成要件Eの「正・逆転パターンの繰り返し駆動」にするから、被告製品1は、構成要件D、Eを充足する。
(7)構成要件Iについて(争点1-(3))
ア 構成要件Iの文言
構成要件Iは、「固定側刃物は、その全部又は一部を当該刃物を保持する壁面ごとあるいは刃物の保持部ごと破袋室外へ待避可能にした」との構成である。
前記(1)から(5)までの検討によると、「破袋室」とは、破袋が行われる空間であって、対向壁面(等)で仕切られる空間を指すものと解される。したがって、「破袋室外」とは、破袋が行われるその仕切られた空間の外側を意味するものと考えられる。
もっとも「待避」とは、その辞書的意味は、「わきにさけて事の過ぎるのを待つこと」であるところ(広辞苑(第6版))、本件特許3の特許請求の範囲の記載からは、何を避けるのかは一義的に明確ではなく、その記載から意義を明らかにすることはできない。
イ 本件明細書の記載
-省略-
ウ 構成要件Iの「待避可能」の意義
前記明細書の記載及び文言の一般的意味からすると、「破袋室外へ待避可能」とは、作動中に大きな負荷がかかった際に、固定側刃物を破袋室外へ待避、すなわち、大きな負荷を避けて負荷が除去されるまで破袋室外に留め置く構成をいうものと解され、単に固定側刃物が修繕の際に取り外し可能なようになっているようなものは含まないと解される(上記イの記述における「メンテナンス」も、運転の中で発生するごみの詰まりなどによる停止に対応する趣旨で用いられるものと解され、刃物の交換といった修繕を指す意味で用いられるものとは解されない。)。
エ 構成1-iは、構成要件Iを充足するか
構成1-iは、「固定側刃物(20)は、横材②に対し取り外し自在に設けられている。」とするものであり、固定側刃物を横材から取り外すことができることができるにすぎず、上記のような大きな負荷を避け、負荷が除去されるまで、固定側刃物を破袋室外に留め置くような構成を有するものとは認められない。
したがって、構成1-iは、構成要件Iを充足しない。
5.2 被告製品2は、本件特許発明1ないし3の技術的範囲に属するか(争点1)について
(1)当裁判所は、被告製品2もまた、構成要件C、D、Eを充足し、本件特許発明1、2の技術的範囲に属すると判断し、構成要件Iを充足せず、本件特許発明3の技術的範囲に属しないものと判断する。
(2)本件特許発明が解決しようとする課題、課題解決手段、作用効果の記載は前記1の(2)ないし(4)記載のとおりである。
(3)構成要件Cの充足について(争点2-(1))
ア 構成要件Cの「平行な対向壁面」とは、前記1の(5)に記載のとおり、回転体の回転軸に平行であって、固定側刃物が配置されうる程度の広さ、形状を有し、一定程度の空間を仕切る作用を有するものであれば足り、矩形枠体からなる破袋室の全体を覆っていることや、平面であることを要するものではないと解することができるものである。
イ 構成2-c
被告製品2の構成2-cは、「前後面(回転体(11)の回転軸と平行な方の面)は、開口をそのままにして開放されており、この開放されている前後面の上側にして枠体①の左右側面同士間にはパイプ部材(25)が架設され、またこのパイプ部材(25)の下方側は依然開口しており、このパイプ部材(25)には、複数の固定側刃物(20)が突出状態に並設される」構成であるところ、パイプ部材(25)は、回転体(11)の回転軸と平行であって、固定側の板状刃物が配置され、かつ一定程度の空間を仕切る作用を有するものであるから、構成要件Cにいう「平行な対向壁面」に相当する。
ウ まとめ
以上によれば、構成2-cは、本件特許発明1の構成要件Cを充足する。
(4)構成要件D、E、Iの充足について(争点2-(2)、2-(3))被告製品2の構成2-d、2-e、2-iは、それぞれ被告製品1の構成1-d、1-e、1-iと同じであるから、前記1(6)、(7)で述べたことと同じ理由により、本件特許発明1、2の構成要件D、Eを充足し、本件特許発明3の構成要件Iを充足しない。
5.3 本件特許出願の原出願日前に公知となっていた破袋機にかかる発明(本件公知発明)を主引例とする進歩性欠如の無効理由の有無(争点4-(1))について
(1)公知破袋機が存在したか等について
被告は、自社製品である公知破袋機が遅くとも平成16年4月2日当時存在したとして、その旨の証拠(乙11、14等)を提出するので検討する。
乙14号証は、本件訴訟提起後の平成24年10月22日に作成された被告の従業員の報告書であり、当該報告が依拠する公知破袋機に関する図面は、いずれも被告の社内に保管されていたCADのデータを印字したものである。
もっとも、公知破袋機の納入先とされる株式会社プリテック及び福井環境事業株式会社は、既に公知破袋機を廃棄し(乙11)、又は被告に返却しており(乙13)、現時点においてその構成を明らかにすることはできない状態であるし、前記の被告において電子データとして保管されていたCADの図面等が納入先に納品保管されていたわけでもない。被告提出の図面に、第三者の検収、確認等を受けた痕跡のあるものも存しない。
そうすると、公知破袋機の存在及び公知破袋機が本件公知発明の構成を備えることを立証するものは、専ら被告内に保管された資料や電子データによることになり、かつ、当該資料や電子データに、作成された当時の状態で保存されていることを客観的に担保するような措置はとられていないことからすると、これら資料を根拠に、公知破袋機が、本件公知発明を備えたものとして、平成16年4月2日当時存在したものと認めるには足りず、他にこれを認め得る的確な証拠はない。
しかし、上記の点を措いて、仮に乙14号証に記載のとおりの公知破袋機が存在したとしても、本件公知発明があることにより、本件特許発明1ないし3が無効事由を有することにはならないものと判断する。その理由は次のとおりである。
(2)公知破袋機の構造について
乙14号証によると、公知破袋機は、次の構成を備えるものと認められる。
ア 直方体状の枠体Aからなる破袋室Bを有する。
イ 破袋室Bの一方の対向壁面間に水平に軸支された一本の回転体Cを有する。
ウ この回転体Cの表面には、回転体Cの回転軸に直角な垂直板からなる複数の板状刃物が設けられ、この板状刃物は、回転軸から放射方向に且つ該放射方向が軸方向に所要角度ずれるように突設した可動側刃物Dである。
エ この回転体Cと平行にして破袋室Bの一方の対向壁面間には、一本の非回転体Eが設けられ、この非回転体Eには、板厚みを水平に垂直板からなる複数の板状刃物が凸設され、更に、回転体Cの非回転体E側と反対側斜め上方から、板厚みを水平に垂直板からなる複数の板状刃物が下方に向けて凸設され、これら両方の板状刃物が固定側刃物Fである。
オ それぞれ独立した正転タイマ及び逆転タイマにより、回転体Cが正逆転駆動を行う駆動制御手段を有する。
カ 可動側と固定側の複数の板状刃物が所定間隔で噛合するように、回転体Cの正逆転駆動に伴って固定側刃物F間を可動刃物Dが通過し、所定間隔で噛合する固定側刃物Fと可動側刃物D間で袋体を破袋する。
キ 以上の構造を有する破袋機。
(3)本件公知発明の認定
上記(2)の公知破袋機の構造及び証拠(乙14)から、本件公知発明の構成は、次のとおりと認められる。
直方体状の枠体Aからなる破袋室Bと、
破袋室Bの一方の対向壁面間に水平に軸支された回転体Cの表面に、回転軸に直角な垂直板からなる複数の板状刃物を、該回転軸から放射方向に且つ該放射方向が軸方向に所要角度ずれるように凸設した可動側刃物Dと、
回転体Cと平行にして破袋室Bの一方の対向壁面には1本の非回転体Eが設けられ、この非回転体E側には板厚みを水平に凸設される垂直板からなる複数の板状刃物及び回転体Cの非回転体E側と反対側斜め上方から板厚みを水平に垂直板からなり下方に向けて凸設される板状刃物で構成された固定側刃物Fと、
それぞれ独立した正転タイマ及び逆転タイマにより、回転体Cに対して正・逆転駆動を行う駆動制御手段とを有し、
可動側と固定側の垂直板からなる複数の板状刃物が所定間隔で噛合するように、回転体Cの正・逆転駆動に伴って固定側の垂直板からなる板状刃物F間を可動側の垂直板からなる板状刃物Dが通過し、所定間隔で噛合する可動側の垂直板Fと固定側の垂直板Dからなる複数の板状刃物間で袋体を破袋する破袋機。
(4)本件公知発明と、本件特許発明1の対比(一致点及び相違点)
本件公知発明の「直方体の枠体A」は、本件特許発明1の「矩形枠体」に相当し、本件公知発明の「非回転体E」と、「回転体Cの非回転体E側と反対側斜め上方」はいずれも「回転体と平行な部材」であって、空間を画する作用も有するから(前記1(5)参照)、本件特許発明1の「破袋室の他方の平行な」「壁面」と「回転体と平行な一対の部材」である点で共通する。
本件公知発明の「それぞれ独立した正転タイマ及び逆転タイマにより、回転体Cに対して正・逆転パターンの繰り返し駆動を行う駆動制御手段」と、本件特許発明1の「回転体に対して正・逆転パターンの繰り返し駆動を行う駆動制御手段」は、「回転体に対して正・逆転駆動を行う駆動制御手段」である点で共通する。
したがって、本件公知発明と、本件特許発明1は、次の一致点、相違点が認められる。
ア 一致点
矩形枠体からなる破袋室と、
破袋室の一方の対向壁面間に水平に軸支された回転体の表面に、回転軸に直角な垂直板からなる複数の板状刃物を、該回転軸から放射方向に且つ該放射方向が軸方向に所要角度ずれるように凸設した可動側刃物と、
回転体と平行な一対の部材に板厚みを水平に凸設配置された垂直板からなる複数の板状刃物を、前記回転体の軸方向に配列した固定側刃物と、
回転体に対して正・逆転駆動を行う駆動制御手段を有し、
可動側と固定側の垂直板からなる複数の板状刃物が所定間隔で噛合するように、回転体の正・逆転駆動に伴って固定側の垂直板からなる板状刃物間を可動側の垂直板からなる板状刃物が通過し、所定間隔で噛合する可動側と固定側の垂直板からなる複数の板状刃物間で袋体を破袋する
破袋機。
イ 相違点1
本件特許発明1の固定側刃物は、破袋室の対向壁面に設けられているのに対し、本件公知発明の固定側刃物Fは、非回転体E側には板厚みを水平に凸設される垂直板からなる複数の板状刃物、及び、回転体Cの非回転体E側と反対側斜め上方から板厚みを水平に垂直板からなり下方に向けて凸設される板状刃物で構成されている点。
ウ 相違点2
本件特許発明1の回転体の回転制御は、「正・逆転パターンの繰り返し駆動を行う駆動制御」であるのに対し、本件公知発明の回転体Cの回転制御は「それぞれ独立した正転タイマ及び逆転タイマにより、回転体Cに対して正・逆転駆動を行う駆動制御」である点。
(5)相違点の検討
ア 相違点1について
本件明細書には、次の記載がある。
「この発明によると、破袋室の中央に1つの刃物回転体とその回転軸方向の両側に設けた固定刃物群とから構成され、機構が簡素化され、かつ前記回転体を正・逆転パターンの繰り返し駆動とすることにより、破袋室へ投下される袋体を確実に捕捉し、可動側刃物の両側に形成した各破袋空間で交互にかつ連続して効率よく破袋することができる。」(【0016】)
この記載から、本件特許発明は、破袋室の中央に1つの刃物回転体とその回転軸方向の両側に設けた固定刃物群とから構成されることと、正・逆転パターンの繰り返し駆動とすることとが協働して、破袋室へ投下される袋体を確実に補足し、可動側刃物の両側に形成した各破袋空間で交互にかつ連続して効率よく破袋することができるという作用効果を奏するものであるといえる。
そうすると、本件特許発明1の「破袋室の他方の平行な対向壁面より板厚みを水平に凸設配置された垂直板からなる複数の板状刃物を、前記回転体の軸方向に配列した固定側刃物」の構成の技術的意義は、破袋室の平行な対向壁面、すなわち、回転体の回転軸方向の両側に固定側刃物が回転体の軸方向に配列されることになり、このため、可動側刃物の両側に破袋空間が形成され、破袋室に投入された袋体をまんべんなく破袋することが可能となることである。
他方、証拠(乙13、14)によると、本件公知発明は、正転、逆転のどちらでも破袋ができるように、固定側刃物の一方を改造前の二軸回転型破袋機の回転体として使用していたものに設け、他方を枠体を利用して設けたものであり、本件特許発明1の固定側刃物のように回転体とのその両側部の対向壁面との間に破袋空間を生じさせる構造となってはおらず、破袋空間は非回転体E側の一方向のみに形成されるのであって、袋体が回転体の非回転体Eの反対側に投入されたとしても、非回転体E側の破袋と同等の破袋は行われず、「可動側刃物の両側に形成した破袋空間で交互に且つ連続して効率よく破袋することができる」という本件特許発明の作用効果を奏することはない。
また、本件公知発明の認定の基礎となる乙14号証を参照しても、本件公知発明における回転体Cの斜め上方から凸設された板状刃物の位置を、非回転体Eとは反対の側部に変更して用いる示唆がされていることを認めるに足りない。
したがって、本件特許発明1の相違点1の構成は、本件公知発明に比して顕著な効果を奏するものであり、当業者にとって容易に想到できるものということはできない。
イ 相違点2について
本件公知発明の回転体の回転制御が、その構成(「それぞれ独立した正転タイマ及び逆転タイマにより、回転体Cに対して正・逆転駆動を行う駆動制御」)から、前記1(6)で検討した「正・逆転パターンの繰り返し駆動」と同一であるかは、証拠上不明といわざるを得ない。
ウ まとめ
以上によれば、本件特許発明1は、相違点1に係る構成を採用することによって、可動側刃物の両側に同等の破袋空間を形成し、刃物回転体の正転時、逆転時に、均等に破袋を行い得るようにした点で、本件公知発明に対し新規性、進歩性が認められるというべきであるし、破袋室中央の刃物回転体とその回転軸方向の両側に設けた固定刃物群からなる構成に、回転体を正・逆転パターンの繰り返し駆動とする構成を付加した一軸破袋機が、本件特許の出願時において、周知あるいは公知であったことを認めるに足りる証拠もない。
(6)まとめ
以上によると、本件特許発明1は、本件公知発明から、容易に想到できたものということはできず、進歩性を有するものである。
また、本件特許発明2、3は、本件特許発明1の構成を全て備えるものであるから、本件特許発明1が進歩性を有する以上、本件特許発明2、3もまた同様である。
したがって、本件特許発明1ないし3は、特許法29条2項に違反するものではなく、無効理由を有さない。
5.4 本件特許出願の原出願日前に頒布された刊行物である乙33(特開平7-1388号公報)に記載の発明(乙33発明)を主引例とする進歩性欠如の無効理由の有無(争点4-(2))について
(1)乙33号証の記載について
平成5年6月17日に出願され、平成7年1月6日に公開された、特開平7-1388号公開特許公報(乙33)には、次の記載がされ、また図面が添付されていると認められる。
ア 「図1乃至図3において、ごみの入った袋を切り裂く破袋機1は、上部開口をホッパー11で形成し且つ下方向にテーパを成した処理空間を形成する傾斜側板12、15を有したケーシング10と、ケーシング10の下方部において両端板16、17間で回転可能に長手方向に水平に横架された円筒ロータ20と、ロータ20の周面上に周方向に1つ軸方向に順次90°づつずらして一定間隔で複数組配列したなぎなた状破袋刃30、・・・と、ロータ20を回動する可逆転ギアードモータ41とチェーン等の回転力伝達機構42とから成る回転駆動装置40とから構成されており、破袋刃30が上方から回転して来る側(図1の左側)の側板12の下部13が長手方向に複数に(本実施例では6つに)区分されて各々独立して横方向に揺動可能に上縁部で側板12の上部に蝶番連結されている。各区分側板13a~13fは破袋刃30に接近可能な位置にスプリングSによって弾性付勢されており、また外側をはみ出し受け板14で囲まれている。」(【0007】)
イ 「ケーシング10は、長手方向に設けられた取出し用ベルトコンベアC上方に底の開口10aが位置するように四隅において支持柱Pによって支持されている。端板16、17は、その外面に固定した軸受B、Bによって円筒ロータ20を軸承している。また、上記側板下部13と他方の側板15の下部には、ごみ袋を破袋刃30の回転軌跡T内に寄せる逆V断面の三角形リブ18、19が突設されている。」(【0008】)
ウ 「破袋刃30は、矢印Aの正転方向において後進上反りのなぎなた(表刀)形状を成しており、刃を鋸歯状にしてゴミ袋に対する喰い込みを良くして確実に破袋できるようにしている。ロータ20の逆回転時にも破袋できるように、刃30の後端部にも切り裂きエッジを形成してもよい。この場合、他方の側板15の下方部を、区分して弾支する構造にしてもよい。」(【0010】)
エ この破袋機1の作動について、概説すると、モータ41によって矢印Aの方向に例えば毎分30~60回転のスピードでロータ20を回動し、ホッパー11から連続して大量のごみ袋Wを投入して行くと、ごみ袋は傾斜側板12、15の相互に隣接した三角形リブ18、19の谷部の破袋刃30が通過する箇所で次々となぎなた(長刀)状の破袋刃30の鋸歯によって切り裂かれて、内部のごみはケーシング底開口10aから下方のベルトコンベアC上に落下して次の選別所へ搬出されることになる。もし、ごみ袋内の、またごみ袋と共に比較的硬いプラスチック製品や木製品等が投入された場合に破袋刃30を傷めないように、それら硬い廃棄物に刃30が当たると同時にその部分の区分側板13a~13fをスプリングSに抗して押し開き、硬い廃棄物を下方に落下させる。なぎなた状の刃30は、ごみ袋やごみに対して余り攪拌せずに接線タッチで静粛に切込みを行うし、硬い物に対する衝撃も小さい。」(【0011】)
オ 図面1
カ 図面2
キ 図面3
(2)乙33発明の認定
前記(1)によると、乙33号証には、次の乙33発明が記載されているものと認められる。なお、ケーシング10は、上記イ及び図1ないし3から、支持柱Pによる四隅が支持される矩形枠体であるといえる。
矩形枠体からなるケーシング10と、
ケーシング10の下方部における両端板16、17に水平に回転可能に横架されたロータ20の周面上に周方向に1つ軸方向に順次90度ずつずらして一定間隔で複数組配列したなぎなた状破袋刃30と、
ケーシング10内に設けられた傾斜側板12、15は、テーパをなした処理空間を形成するとともに、ごみ袋を破袋刃30の回転軌跡Tに寄せる逆V端面の三角形リブ18、19が突設され、
ロータ20を回動する可逆転ギアードモータ41とを有し、
ロータ20を回動させることにより、傾斜側板12、15の相互に隣接した三角形リブ18、19の谷部の破袋刃30が通過する箇所で次々となぎなた状の破袋刃30の鋸歯によってごみ袋を切り裂く
破袋機。
(3)本件特許発明1と、乙33発明の対比
ア 乙33発明の「矩形枠体からなるケーシング10」、「ケーシング10の下方部における両端板16、17に水平に回転可能に横架されたロータ20の周面上に周方向に1つ軸方向に順次90度ずつずらして一定間隔で複数組配列したなぎなた状破袋刃30」は、それぞれ、本件特許発明1に係る発明の「矩形枠体からなる破袋室」(構成要件A)、「破袋室の一方の対向壁面間に水平に軸支された回転体の表面に、回転軸に直角な垂直板からなる複数の板状刃物を、該回転軸から放射方向に且つ該放射方向が軸方向に所要角度ずれるように凸設した可動側刃物」(構成要件B)に相当する。
イ 乙33発明の「ケーシング10内に設けられた傾斜側板12、15は、テーパをなした処理空間を形成するとともに、ごみ袋を破袋刃30の回転軌跡Tに寄せる逆V断面の三角形リブ18、19が突設され」と、破袋室の他方の平行な対向壁面より板厚みを水平に凸設配置された垂直板からなる複数の板状刃物を、前記回転体の軸方向に配列した固定側刃物」(構成要件C)とは、「破袋室の壁面より、板厚みを水平に凸設配置された固定側の突設物」という点で共通する。
ウ 乙33発明の「ロータ20を回動する可逆転ギアードモータ41とを有し」と、本件特許発明1の「回転体に対して正・逆転パターンの繰り返し駆動を行う駆動制御手段」(構成要件D)とは、「回転体に正逆転駆動を行う駆動制御手段」という点で共通する。
エ 乙33発明の「ロータ20を回動させることにより、傾斜側板12、15の相互に隣接した三角形リブ18、19の谷部の破袋刃30が通過する箇所で次々となぎなた状の破袋刃30の鋸歯によってごみ袋を切り裂く」と、本件特許発明1の「可動側と固定側の垂直板からなる複数の板状刃物が所定間隔で噛合するように、回転体の正・逆転パターンの繰り返し駆動に伴って固定側の垂直板からなる板状刃物間を可動側の垂直板からなる複数の板状刃物が通過し、所定間隔で噛合する可動側と固定側の垂直板からなる複数の板状刃物間で袋体を破袋する」(構成要件E、F)は、「可動側の垂直板と固定側の突設物が所定間隔で噛合するように、回転体の回転に伴って固定側の突設物間を可動側の垂直板からなる板状刃物が通過し、所定間隔で噛合する可動側の垂直板と固定側の突設物との間で袋体を破袋する」点で共通する。
(4)本件特許発明1と、乙33発明の一致点及び相違点
前記(3)によると、本件特許発明1と、乙33発明とは、次の点で一致し、次の点で相違する。
ア 一致点
矩形枠体からなる破袋室と、
破袋室の一方の対向壁面間に水平に軸支された回転体の表面に、回転軸に直角な垂直板からなる複数の板状刃物を、該回転軸から放射方向に且つ該放射方向が軸方向に所要角度ずれるように凸設した可動側刃物と、
破袋室の壁面より板厚みを水平に凸設配置された固定側の突設物と、
回転体に対して正逆転駆動を行う駆動制御手段と、
可動側の垂直板と固定側の突出物が所定間隔で噛合するように、回転体の回転に伴って固定側の突設物間を可動側の垂直板からなる板状刃物が通過し、所定間隔で噛合する可動側の垂直板と固定側の突設物との間で袋体を破袋する
破袋機。
イ 相違点1
「破袋室の壁面より板厚みを水平に凸設配置された固定側の突出物」に関して、本件特許発明1においては「破袋室の他方の平行な対向壁面より板厚みを水平に凸設配置された垂直板からなる複数の板状刃物を、前記回転体の軸方向に配列した固定側刃物」であるのに対し、乙33発明は、「ケーシング10内に設けられた傾斜側板12、15は、テーパを成した処理空間を形成するとともに、ごみ袋を破袋刃30の回転軌跡Tに寄せる逆V断面の三角形リブ18、19が突設される」ものである点。
ウ 相違点2
本件特許発明1に係る発明が、「回転体に対して正・逆転パターンの繰り返し駆動を行う駆動制御手段を有し、可動側と固定側の垂直板からなる複数の板状刃物が所定間隔で噛合するように、回転体の正・逆転パターンの繰り返し駆動に伴って固定側の垂直板からなる板状刃物間を可動側の垂直板からなる板状刃物が通過し、所定間隔で噛合する可動側と固定側の垂直板からなる複数の板状刃物間で袋体を破袋する」ものであるのに対し、乙33発明は、「ロータ20を回動する可逆転ギアードモータ41とを有し、ロータ20を回動させることにより、傾斜側板12、15の相互に隣接した三角形リブ18、19の谷部の破袋刃30が通過する箇所で、次々となぎなた状の破袋刃30の鋸歯によってごみ袋を切り裂く」ものである点。
エ 被告の主張について
被告は、乙33発明における三角形リブ18、19が、本件特許発明1の固定側刃物に相当することを主張するが、乙33文献の記載全体をみても、三角形リブ18、19が刃物として機能するものと解すべき記載はなく、被告の主張のように、相違点を構成しないものと解することはできない。
また、可逆転ギアードモータ41を備えることが、回転体の正・逆転パターンの繰り返し駆動を行う駆動制御手段に相当し、相違点を構成しないものと解することができないことは後述のとおりである。
(5)相違点の検討
ア 相違点1について
乙33文献の段落【0005】には、「更に、上記傾斜側板には、下縁部に横断面逆V形の三角形リブを上記破袋刃間に対応して突設させるとごみ袋は隣接リブ間のV状底に寄って破袋刃によって効率的に切られるように構成される。」との記載がある。
そうすると、ごみ袋は、隣接リブ間のV状底に寄せられた、すなわち三角形リブ間のV状底にごみ袋が保持された状態で、破袋刃が通過することによりごみ袋が切り裂かれることになるのであるから、乙33文献の記載から、三角形リブの先端に刃先部を設ける動機づけは見当たらないし、被告指摘の乙34文献記載の発明は、二軸破袋機に関する発明、乙35文献記載の発明は、工作機械等より排出される切粉を効率よく連続して裁断する切粉裁断装置に関する発明、乙36文献記載の発明は、生ゴミを発酵させる生ゴミ処理装置の攪拌爪配列構造に関するものであって、一軸破袋機の発明である本件特許発明1とは技術分野を異にし、これら文献の記載に固定側刃物を一軸破袋機に設けることについての開示や示唆は認められない。
したがって、相違点1に係る構成を、乙33発明から、又は乙34文献ないし乙36文献記載の発明と組み合わせることにより、容易に想到し得たものということはできない。
イ 相違点2について
乙33発明のロータ20は、可逆転ギアードモータ41により、正転・逆転のいずれの方向にも回転させることができるものである。
しかし、ロータ20をどのような態様で逆回転させるかについては乙33文献には一切記載がなく、また、技術常識にかんがみても、破袋機の回転体(ロータ)が正・逆転駆動され得るものであるとしても、ここから直ちに乙33発明のロータ20が、前記1(6)で検討した「正・逆転パターンの繰り返し駆動」を行うとまでは認められない。
(6)まとめ
したがって、本件特許発明1は、乙33発明それ自体、又は乙33発明と乙34文献ないし乙36文献に記載の発明を組み合わせることにより容易に想到できたものということはできず、進歩性を有するものである。
また、本件特許発明2、3は、本件特許発明1の構成を全て備えるものであるから、本件特許発明1が進歩性を有する以上、本件特許発明2、3もまた同様である。
したがって、本件特許発明1ないし3は、特許法29条2項に違反するとの無効理由を有さない。
5.5 原告の被った損害(争点5)について
-省略-
6.検討
(1)親出願と本件出願がともに早期審査請求をしていることから、本件被告の製品であるかは別として、原告は2008年頃に本件発明に似た装置の存在を知っていた可能性があります。
(2)本件訴訟が提起された正確な年月日はわかりませんが、事件番号からすると2012年中に起こされたものと思われます。そうすると特許1件、被告製品2件にも関わらず一審判決までに3年も掛かっていることになります。その原因が気になっていましたが、一審判決の最後の方を読んで何となく想像がつきました。
(3)本件発明1、2について被告製品1、2ともに抵触という裁判所の判断は妥当のように思います。一方、本件発明3については非抵触でした。この本件発明3では「退避」という文言が問題となりました。本件特許出願の場合にどのような意図でこの文言が用いられたのかわかりません。しかし、実際に明細書や特許請求の範囲を書く際、部材Aが部材Bを避けるために室Cから移動する、ということを表現するのに部材Aがどの程度移動すれば部材Bに対して「退避」した状態であるのか断定したくないことがあります。例えば実施例では部材Aが室Cの外まで移動する事例が記載されていますが、部材Aが室C内に一部留まっていても部材Bを避けることが可能である状況が想定される場合です。このような場合に部材Aがどの位置まで移動するとは書かず、逆に退避すると表現することで部材Aの位置に関わらず部材Bを避けていれば良いとする表現です。本件発明3とはちょっと違うのですが、特許の仕事を始めて最初の頃にそんなことで悩んだのを思い出しました。こういった表現で上手くいくケースもありますが、判決のように特許請求の範囲の文言を解釈するために明細書の詳細な説明を参酌する根拠になりやすくなります。こういう場合には定量的な表現の請求項も用意しておく方が良いと思います。また、それに対応して作用効果の記載も考え直す必要があります。
(4)本事件では被告が本件特許出願前に存在していた自社製品に関するCADデータを無効の根拠として提出しています。これに対して判決では「被告提出の図面に,第三者の検収,確認等を受けた痕跡のあるものも存しない」と述べています。これは当然被告が先使用権を主張している場合にも適用できる考え方です。したがって、先使用権を主張する場合にも社内の図面や書類に対して第三者の検収、確認等が必要ということになります。この「検収」という言葉が強すぎるように感じるのですが、どうでしょうか?一般的に先使用権の書類を準備している企業では公証役場の公証人に依頼して社内書類や図面等が存在していることを証明してもらうと思いますが、その際に作成される事実実験公正証書には単に当該書類や図面を確かに確認した、としてコピーが添付されているだけで済ませているように思います。しかし、「検収」と言われると、その装置の機構が理解できる能力を有する第三者が書類や図面に記載されている内容にしたがって製造すると当該装置が組み上がることまで保証しているようにも読めます。