医薬品相互作用チェック装置事件

投稿日: 2019/09/01 0:58:30

今日は、平成30年(行ケ)第10131号 審決取消請求事件及び平成30年(行ケ)第10126号 審決取消請求事件について検討します。

事件番号が2つありますが、いずれも無効2017-800032号事件の審決取消訴訟です。平成30年(行ケ)第10131号 審決取消請求事件(以下、第1事件)は「特許第4537527号の請求項5、7、9に係る発明についての審判請求は、成り立たない。」との部分を取り消すことを求めるもので、平成30年(行ケ)第10126号 審決取消請求事件(以下、第2事件)は「特許第4537527号の請求項1ないし4、6、8に係る発明についての特許を無効とする。」との部分を取り消すことを求めるものです。つまり、第1事件の原告は特許無効審判の請求人で、第2事件の原告は特許無効審判の被請求人(特許権者)です。判決ではこの第1事件の原告(第2事件の被告)を「原告」とし、第1事件の被告(第2事件の原告)を「被告ら」としています。

 

1.検討結果

(1)本件発明は、要は、医薬品Aから見た医薬品Bに関する相互作用が発生する組み合わせについての情報と、医薬品Bから見た医薬品Aに関する相互作用が発生する組み合わせについての情報とを、それぞれ個別に相互作用マスタに格納し、新規処方データの各医薬品を自己医薬品及び相手医薬品とし、自己医薬品と相手医薬品の組み合わせが、相互作用マスタに格納した医薬品の組み合わせと合致するか否かを判断することにより、相互作用チェック処理を実行し、対象となる自己医薬品の名称と、相互作用チェック処理の対象となる相手医薬品の名称とをマトリックス形式の行又は列にそれぞれ表示し、この相互作用チェック処理の結果をマトリックス形式の該当する各セルに表示するものです。

(2)特許無効審判では、上述のとおり、請求項1~9のうち「請求項5、7、9に係る発明についての審判請求は、成り立たない。」、「請求項1~4、6、8に係る発明についての特許を無効とする。」と判断され、請求項5、7、9が無効ではないと判断されたことに対して不服である請求人が起こした審決取消訴訟(第1事件)と請求項1~4、6、8が無効と判断されたことに対して不服である被請求人(特許権者)が起こした審決取消訴訟(第2事件)の両方についてまとめて判決がされました。

(3)本判決では、「請求項1~4、6、8に係る発明についての特許を無効とする。」と判断した審決が取り消され、請求項1~9全ての発明が無効ではない、と判断されました。

(4)特許無効審判で審判官は本件発明1と無効理由4の証拠である引用発明3(特開平11-195078号公報)との相違点を「本件発明1では、「対象となる自己医薬品の名称と、相互作用チェック処理の対象となる相手医薬品の名称とをマトリックス形式の行又は列にそれぞれ表示し」、相互作用チェック処理の結果を、「前記マトリックス形式の該当する各セルに表示」しているのに対し、引用発明3では、マトリックス形式で表示していない点」であると認定しました。

(5)しかし、本件判決では、両者の相違点は、以下の2点であると認定しました。

① 相互作用をチェックするためのマスタが、本件発明1では、「一の医薬品から見た他の一の医薬品の場合と、前記他の一の医薬品から見た前記一の医薬品の場合の2通りの主従関係で、相互作用が発生する組み合わせを格納する」のに対し、引用発明3では、「一の医薬品から見た他の医薬品の一般名コード、薬効分類コード、BOXコードかの少なくともいずれかについて、相互作用が発生する組み合わせを格納し、また、他の一の医薬品から見た医薬品の一般名コード、薬効分類コード、BOXコードかの少なくともいずれかについて、相互作用が発生する組み合わせを格納する」点。

② 相互作用をチェックするための処理が、本件発明1では、自己医薬品と相手医薬品との組み合わせと相互作用マスタに登録した医薬品の組み合わせが合致するか否かを判断するのに対し、引用発明3では、「自己テーブル部」に「自己医薬品の一般名コードが存在するか」、「自己医薬品の属する薬効分類コードが存在するか」、「自己医薬品に付与されたBOXコードが存在するか」をそれぞれ検索して、いずれかのコードが存在していれば、処方医薬品相互作用チェックテーブルTの形態で一時記憶テーブル110に記憶し、一時記憶テーブル110に記憶したデータの「相手テーブル部」に、「相手医薬品の一般名コードが存在するか」、「相手医薬品の属する薬効分類コードが存在するか」、「相手医薬品に付与されたBOXコードが存在するか」をそれぞれ検索して、いずれかのコードが存在していれば、「自己医薬品」と「相手医薬品」とが相互作用を有する組み合わせが存在すると判断するものである点。

(6)上記相違点①は、本件発明1と引用発明3のマスタの役割に関するもので、本件発明1は「一の医薬品」と「他の一の医薬品」について統一されたコードが格納されるものであるのに対し、引用発明3は複数のコードのいずれかが格納されるものである、との認定に基づくものです。また、上記相違点②は、本件発明1と引用発明3の相互作用をチェックするための処理に関するもので、本件発明1が「組み合わせ」が合致するか否かを判断するのに対し、引用発明3は「自己テーブル部」と「相手テーブル部」に複数のコードのうちのいずれかが存在するか否か検索し、存在していれば組み合わせが存在すると判断するものです。

(7)このように判決では審決とは相違点の認定が全く異なりました。そうなると当然審決にはこれら2点の相違点に基づく進歩性に関する判断はされていないために容易想到というロジックは成立せず、審決取消となりました。本件特許の請求項1の記載内容で裁判所の判決で認定した内容が十分読み取れる記載であるのか否かは少し疑問が残りますが。

2.手続の時系列の整理(特許第4537527号)

① 本件の「被告ら」は株式会社システムヨシイと株式会社湯山製作所の2社ですが、特許出願時は株式会社システムヨシイだけでした。経過情報を見ると、出願審査請求前に株式会社湯山製作所を出願に加えています。

② 本件のケースの背景はわかりませんが、一般的には一方が単独で特許出願した発明の内容について、出願後に共同開発の範囲内ではないか?と議論になって共同出願人に加えるというケースがあります。

③ 本件特許出願からは複数の分割出願が存在します。第1世代は特願2009-295717(拒絶査定確定)、第2世代は特願2012-140141(特許第5253605号)、第3世代は特願2013-060419(特許第5623577号)です。

3.特許請求の範囲の記載

【請求項1】

一の医薬品から見た他の一の医薬品の場合と、前記他の一の医薬品から見た前記一の医薬品の場合の2通りの主従関係で、相互作用が発生する組み合わせを個別に格納する相互作用マスタを記憶する記憶手段(3)と、

入力された新規処方データの各医薬品を自己医薬品及び相手医薬品とし、自己医薬品と相手医薬品の組み合わせが、前記相互作用マスタに登録した医薬品の組み合わせと合致するか否かを判断することにより、相互作用チェック処理を実行する制御手段(4)と、

象となる自己医薬品の名称と、相互作用チェック処理の対象となる相手医薬品の名称とをマトリックス形式の行又は列にそれぞれ表示し、前記制御手段(4)による自己医薬品と相手医薬品の間の相互作用チェック処理の結果を、前記マトリックス形式の該当する各セルに表示する表示手段(1)と、

を備えたことを特徴とする医薬品相互作用チェック装置。

【請求項2】

前記記憶手段(3)に記憶する相互作用マスタは、相互作用が発生する組み合わせを、各医薬品の効能を定めた薬効コードの組み合わせとして格納することを特徴とする請求項1に記載の医薬品相互作用チェック装置。

【請求項3】

前記記憶手段(3)は、相互作用が発生する医薬品の各組み合わせに対して、作用・機序を含む詳細情報を関連付けた作用マスタをさらに記憶し、

前記制御手段(4)は、前記相互作用チェック処理の結果が表示された各セルが指定されると、前記記憶手段(3)に記憶した作用マスタに基づいて、相互作用についての詳細情報を前記表示手段(1)に表示させることを特徴とする請求項1又は2に記載の医薬品相互作用チェック装置。

【請求項4】

前記記憶手段(3)は、患者データを含む過去の処方データを蓄積した蓄積処方データをさらに記憶し、

前記相手医薬品は、蓄積処方データの各医薬品を含むことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の医薬品相互作用チェック装置。

【請求項5】

前記表示手段(1)は、自己医薬品の名称と相手医薬品の名称をマトリックス形式の行又は列にそれぞれ表示し、相手医薬品が新規処方データの各医薬品である場合と、相手医薬品が蓄積処方データの各医薬品である場合とで切替可能に表示することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の医薬品相互作用チェック装置。

【請求項6】

前記表示手段(1)に表示されたマトリックス形式の各セルに表示される相互作用チェックの結果には、識別可能な記号で表示される併用注意と併用禁忌を含むことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の医薬品相互作用チェック装置。

【請求項7】

前記表示手段(1)は、表示するマトリックス形式の画面中、新規処方データの各医薬品に加えて、新たに医薬品を追加表示可能とする薬品追加ボタンを備え、

前記制御手段(4)は、前記薬品追加ボタンが操作されることにより、前記表示手段(1)に表示したマトリックス形式の画面中、新規処方データの各医薬品の名称が表示された行又は列に、新たな医薬品の名称を追加し、追加表示した自己医薬品と、相手医薬品との相互作用を再チェックすることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の医薬品相互作用チェック装置。

【請求項8】

前記記憶手段(3)は、相互作用マスタに登録された相互作用が発生する医薬品の組み合わせのうち、相互作用チェック処理を除外した薬効コードの組合せについて格納する相互作用除外マスタを記憶し、

前記制御手段(4)は、前記相互作用マスタに基づいて相互作用チェック処理を実行した後、前記相互作用除外マスタを検索して該当する薬効コードの組み合わせを除外することを特徴とする請求項1から6のずれか1項に記載の医薬品相互作用チェック装置。

【請求項9】

前記記憶手段(3)は、相互作用が発生する医薬品の組み合わせについてのデータを薬効コードの組み合わせとして格納する相互作用共通マスタとは別に、各医療施設に応じて作成した相互作用個別マスタを記憶し、

前記制御手段(4)は、前記相互作用共通マスタに優先して、前記相互作用個別マスタに基づく相互作用チェック処理を実行することを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載の医薬品相互作用チェック装置。

4.審決の理由の要旨

(1)原告は、①無効理由1として、本件発明1、6及び7について、本件出願日前に市販されていた医療用添付文書情報サービス「EDIS」(以下「EDIS」という。)により公然実施された発明(以下「引用発明1」という。)に基づく新規性欠如、②無効理由2として、本件発明1~9について、引用発明1、甲4、9、13~20、22文献に記載された発明(周知技術を含む。)及び技術常識に基づく進歩性欠如、③無効理由3として、本件発明1~9について、甲7文献に記載された発明(以下「引用発明2」という。)、甲3、4、8、9、13~20、22文献に記載された発明(周知技術を含む。)及び技術常識に基づく進歩性欠如、④無効理由4として、本件発明1~9について、甲14文献に記載された発明(以下「引用発明3」という。)、甲3、6~10、18、19、22文献に記載された発明(周知技術を含む)及び技術常識に基づく進歩性欠如、⑤無効理由5として、本件発明1~9について、サポート要件違反を主張した。

審決の理由は、別紙審決書(写し)記載のとおりであり、要するに、①無効理由1につき、下記(2)アの相違点が存在するから、特許法29条1項2号に該当しない、②無効理由2、3につき、下記(2)ア、イの相違点に係る構成を当業者が容易に想到することができたとはいえないから、同条2項に該当しない、③無効理由4につき、本件発明1~4、6、8は下記(2)ウの相違点4-1、4-2、4-4、4-6に係る構成を当業者が容易に想到することができたといえるから同項に該当し、本件発明5、7、9は下記(2)ウのその余の相違点に係る構成を当業者が容易に想到することができたとはいえないから同項に該当しない、④無効理由5につき、同法36条6項1号に違反する点はないというものである。なお、文献中の図面の一部は、文献の番号に応じた別紙図面目録記載のとおりである。

甲3:「相互作用チェック機能を有する市販ソフト(システム)の紹介」

薬局第49巻第1号258~270頁(1998年1月5日発行)

甲4:「大学病院における医薬品情報提供(2)-金沢大学医学部付属病院」

薬局第49巻第1号(1998)160~168頁

甲6:「薬物間相互作用に関する入院患者への服薬指導の問題点と解決策」

月刊薬事第38巻第3号(1997)441(861)~450(870)頁

甲7:「FINE DI Weekly」第10巻30号「EDIS」の広告頁(1997年8月7日発行)

甲8:1998年6月13日当時の株式会社シュペールのウェブサイト

甲9:「開局薬局での薬物間相互作用に関する服薬指導の問題点と解決策」

月刊薬事第38巻第3号(2月臨時増刊号)(1996)451(871)~463(883)頁

甲10:「刊行物提出書 (特許2000-089076 刊行物3)」

甲13:特開平9-99039号公報

甲14:特開平11-195078号公報

甲15:「月刊薬事」Vol.8、 No.2(1996)79(289)~86(296)頁

甲16:特開平4-260173号公報

甲17:「病院薬学」Vol.24No.5(1998)、584-589頁

甲18:特開平9-94287号公報

甲19:特開平11-282934号公報

甲20:特開平8-57021号公報

甲22:特開平11-308539号公報

(2)審決が認定した引用発明、本件発明と引用発明1~3との一致点及び相違点は、以下のとおりである(審決が認定する相違点1-1と相違点2-1、相違点1-2と相違点2-2、相違点1-3と相違点2-3、相違点1-4と相違点2-4は同じであるので、以下においては、これらを区別せずに相違点1-1~1-4と表記する。)。

ア 引用発明1について

(ア)引用発明1

「添付文書の情報をデータベース化した添付文書データベースを備え、

A薬品とB薬品との間で、それぞれ添付文書に相互作用の記載があるかどうかを検索して、双方向でのチェックを行い、

対象となる医薬品名とアルファベットを行に表示し、列にはアルファベットのみを表示したマトリックス表示において、相互作用チェック結果を該当するセルに表示する

相互作用チェックのシステム」

(イ)本件発明1と引用発明1の一致点

「相互作用が発生する医薬品の情報を格納する相互作用マスタを記憶する記憶手段と、

入力された各医薬品を自己医薬品及び相手医薬品とし、相互作用チェック処理を実行する制御手段と、

対象となる自己医薬品と、相互作用チェック処理の対象となる相手医薬品とをマトリックス形式の行又は列にそれぞれ表示し、前記制御手段による自己医薬品と相手医薬品の間の相互作用チェック処理の結果を、前記マトリックス形式の該当する各セルに表示する表示手段と、

を備えたことを特徴とする医薬品相互作用チェック装置」

(ウ)本件発明1と引用発明1の相違点

〔相違点1-1〕 本件発明1に係る「相互作用マスタ」は、「一の医薬品から見た他の一の医薬品の場合と、前記他の一の医薬品から見た前記一の医薬品の場合の2通りの主従関係で、相互作用が発生する組み合わせを個別に格納」しているのに対し、引用発明1では、本件発明1に係る「相互作用マスタ」に対応する構成である「添付文書データベース」内のデータ格納構成が明らかでない点。

〔相違点1-2〕 本件発明1では、入力された各医薬品が「新規処方データ」であるのに対し、引用発明1では、入力された各医薬品が「新規処方データ」であるのか否か明らかでない点。

〔相違点1-3〕 本件発明1では、「自己医薬品と相手医薬品の組み合わせが、前記相互作用マスタに登録した医薬品の組み合わせと合致するか否かを判断」しているのに対し、引用発明1では、A薬品とB薬品との間で、それぞれ添付文書に相互作用の記載があるかどうかを検索しているものの、それが本件発明1でいう「相互作用マスタ」と同様の構成を備えるものに対して実行されていない点。

〔相違点1-4〕 本件発明1では、マトリックス形式の行又は列のそれぞれに、医薬品の「名称」を表示しているのに対し、引用発明1では、医薬品の名称は、行にしか表示していない点。

イ 引用発明2について

(ア)引用発明2

「添付文書の情報をデータベース化した添付文書データベースを備え、

相互作用チェックシステムは、医薬品間でそれぞれ添付文書に相互作用の記載があるかどうかを検索して、対象となる医薬品名とアルファベットを行に表示し、列にはアルファベットのみを表示したマトリックス表示において、相互作用チェック結果を該当するセルに表示する

医療用医薬品添付文書情報サービスを提供する装置」

(イ)本件発明1と引用発明2の一致点

「相互作用が発生する医薬品の情報を格納する相互作用マスタを記憶する記憶手段と、

入力された各医薬品を自己医薬品及び相手医薬品とし、相互作用チェック処理を実行する制御手段と、

対象となる自己医薬品と、相互作用チェック処理の対象となる相手医薬品とをマトリックス形式の行又は列にそれぞれ表示し、前記制御手段による自己医薬品と相手医薬品の間の相互作用チェック処理の結果を、前記マトリックス形式の該当する各セルに表示する表示手段と、

を備えたことを特徴とする医薬品相互作用チェック装置」

(ウ)本件発明1と引用発明2の相違点

〔相違点3-1〕 本件発明1に係る「相互作用マスタ」は、「一の医薬品から見た他の一の医薬品の場合と、前記他の一の医薬品から見た前記一の医薬品の場合の2通りの主従関係で、相互作用が発生する組み合わせを個別に格納」しているのに対し、引用発明2では、相互作用マスタに対応する構成である添付文書データベース内のデータ格納構成が明らかでない点。

〔相違点3-2〕 本件発明1では、入力された各医薬品が「新規処方データ」であるのに対し、引用発明2では、入力された各医薬品が「新規処方データ」であるのか否か明らかでない点。

〔相違点3-3〕 本件発明1では、「自己医薬品と相手医薬品の組み合わせが、前記相互作用マスタに登録した医薬品の組み合わせと合致するか否かを判断」しているのに対し、引用発明2では、A薬品とB薬品との間で、それぞれ添付文書に相互作用の記載があるかどうかを検索しているものの、それが本件発明1でいう「相互作用マスタ」と同様の構成を備えるものに対して実行されていない点。

〔相違点3-4〕 本件発明1では、マトリックス形式の行又は列のそれぞれに、医薬品の「名称」を表示しているのに対し、引用発明2では、医薬品の名称は、行にしか表示していない点。

ウ 引用発明3について

(ア)引用発明3

「医薬品相互作用チェック装置であって、

医薬品相互作用チェック装置は医薬品相互作用チェック結果を表示するための表示装置10と、チェックする医薬品を入力するための入力装置11と、CPU及びメモリ等の処理部12と、あらかじめ用意された全ての医薬品に関するデータが作成記憶されているディスク13と出力装置16とから構成され、

自己医薬品テーブル102には、予め医薬品入力101の過程により入力された処方される医薬品(自己医薬品)の医薬品マスターコードが記憶され、相手医薬品テーブル103には、処方履歴を基に抽出した患者が服用している医薬品(相手医薬品)及び処方される医薬品の医薬品マスターコードが記憶され、

各医薬品に付される添付文書から抽出された医薬品に関する情報はコード化されており、

医薬品相互作用チェックマスタ104には、予め医薬品固有の情報が全て記憶され、医薬品相互作用チェックテーブル105には、医薬品間の相互作用の有無をチェックする情報が記憶されており、自己医薬品に対する自己テーブル部401と相手医薬品に対する相手テーブル部402(図4を参照)とを含み、

医薬品相互作用コメントファイル106には、医薬品の相互作用の結果をコメントとして提供するための文字情報がコメントコードと共に記憶され、

医薬品相互作用機序ファイル107には、医薬品相互作用の機序が文字情報として相互作用機序コードと共に記憶され、

検索前処理801では、

処方される医薬品として入力装置11に入力された自己医薬品の医薬品マスターコードを基に、一般名コード、薬効分類コード、BOXコードを医薬品相互作用チェックマスタ104から検索して自己医薬品のそれぞれのコードを確定し、

処方履歴等を基に抽出された相手医薬品の医薬品マスターコードを基に一般名コード、薬効分類コード、BOXコードを医薬品相互作用チェックマスタ104から検索して相手医薬品のそれぞれのコードを確定し、

相互作用チェックテーブルの検索処理802では、

医薬品相互作用チェックテーブル105から自己テーブル部401の検索が行われ、

検索前処理801で検索した自己医薬品の一般名コードが、医薬品相互作用チェックテーブル105の自己テーブル部401に存在するか否かの検索が行われ、同様にして、薬効分類コードとBOXコードについても検索が行われ、

それぞれの検索で存在したコードに関するデータは処方医薬品相互作用チェックテーブルTの形態で一時記憶テーブル110に記憶され、

一時記憶テーブル110に記憶したデータから相手テーブル部402の検索が行われ、

検索前処理801で検索した相手医薬品の一般名コードが前記一時記憶テーブル110の相手テーブル部402に存在しているかの検索が行われ、同様にして薬効分類コードとBOXコードについても検索が行われ、

それぞれの検索でコードが存在する場合には、処方する自己医薬品には患者が服用している医薬品あるいは処方する医薬品(相手医薬品)との間に相互作用を有する組み合わせが存在することになり、

検索後処理803では、

前記相互作用チェックテーブルの検索処理802で相互作用を有する医薬品の組み合わせが存在した場合のコメントテーブル部403の作成が行われ、

検索された医薬品相互作用チェック結果は、表示装置10に画面表示され、

表示欄には、入力された自己医薬品名と、患者の処方履歴に記載された調剤日と医療機関名、及び、相手医薬品名と、相互作用コメントファイルから抽出された相互作用コメントと、医薬品相互作用機序ファイルから抽出された相互作用機序が表示される

医薬品相互作用チェック装置」

(イ)本件発明1と引用発明3の一致点

「一の医薬品から見た他の一の医薬品の場合と、前記他の一の医薬品から見た前記一の医薬品の場合の2通りの主従関係で、相互作用が発生する組み合わせを個別に格納する相互作用マスタを記憶する記憶手段と、

入力された新規処方データの各医薬品を自己医薬品及び相手医薬品とし、自己医薬品と相手医薬品の組み合わせが、前記相互作用マスタに登録した医薬品の組み合わせと合致するか否かを判断することにより、相互作用チェック処理を実行する制御手段と、

前記制御手段による自己医薬品と相手医薬品の間の相互作用チェック処理の結果を、表示する表示手段と、

を備えたことを特徴とする医薬品相互作用チェック装置」

(ウ)相違点

本件発明1~9との相違点は次の相違点4-1であり、これに加え、本件発明3との相違点は次の相違点4-2、本件発明5との相違点は次の相違点4-3、本件発明6との相違点は次の相違点4-4、本件発明7との相違点は次の相違点4-5、本件発明8との相違点は次の相違点4-6、本件発明9との相違点は次の相違点4-7である。

〔相違点4-1〕 本件発明1では、「対象となる自己医薬品の名称と、相互作用チェック処理の対象となる相手医薬品の名称とをマトリックス形式の行又は列にそれぞれ表示し」、相互作用チェック処理の結果を、「前記マトリックス形式の該当する各セルに表示」しているのに対し、引用発明3では、マトリックス形式で表示していない点

〔相違点4-2〕 本件発明3では、「前記制御手段は、前記相互作用チェック処理の結果が表示された各セルが指定されると、前記記憶手段に記憶した作用マスタに基づいて、相互作用についての詳細情報を前記表示手段に表示させる」のに対し、引用発明3では、セルの指定なしに「検索された医薬品相互作用チェック結果」として「医薬品相互作用機序ファイルから抽出された相互作用機序が表示」している点。

〔相違点4-3〕 本件発明5では、「前記表示手段は、自己医薬品の名称と相手医薬品の名称をマトリックス形式の行又は列にそれぞれ表示し、相手医薬品が新規処方データの各医薬品である場合と、相手医薬品が蓄積処方データの各医薬品である場合とで切替可能に表示する」のに対し、引用発明3では、相互作用のある医薬品の組み合わせについてその相互作用機序を文章で表示している点。

〔相違点4-4〕 本件発明6では、「表示手段に表示されたマトリックス形式の各セルに表示される相互作用チェックの結果には、識別可能な記号で表示される併用注意と併用禁忌を含む」のに対し、引用発明3では、相互作用のある医薬品の組み合わせについてその相互作用機序を文章で表示している点。

〔相違点4-5〕 本件発明7では、「前記表示手段は、表示するマトリックス形式の画面中、新規処方データの各医薬品に加えて、新たに医薬品を追加表示可能とする薬品追加ボタンを備え、前記制御手段は、前記薬品追加ボタンが操作されることにより、前記表示手段に表示したマトリックス形式の画面中、新規処方データの各医薬品の名称が表示された行又は列に、新たな医薬品の名称を追加し、追加表示した自己医薬品と、相手医薬品との相互作用を再チェックする」のに対し、引用発明3では、相互作用のある医薬品の組み合わせについてその相互作用機序を文章で表示している点。

〔相違点4-6〕 本件発明8では、「前記記憶手段は、相互作用マスタに登録された相互作用が発生する医薬品の組み合わせのうち、相互作用チェック処理を除外した薬効コードの組み合わせについて格納する相互作用除外マスタを記憶し、前記制御手段は、前記相互作用マスタに基づいて相互作用チェック処理を実行した後、前記相互作用除外マスタを検索して該当する薬効コードの組み合わせを除外する」のに対し、引用発明3では、相互作用が発生する医薬品の組み合わせを除外する処理を行っていない点。

〔相違点4-7〕 本件発明9では、「前記記憶手段は、相互作用が発生する医薬品の組み合わせについてのデータを薬効コードの組み合わせとして格納する相互作用共通マスタとは別に、各医療施設に応じて作成した相互作用個別マスタを記憶し、前記制御手段は、前記相互作用共通マスタに優先して、前記相互作用個別マスタに基づく相互作用チェック処理を実行する」のに対し、引用発明3では、相互作用共通マスタとは別の各医療施設に応じて作成した相互作用個別マスタを備えていない点。

5.取消事由

(第2事件)

被告取消事由1:本件発明1に関する進歩性判断の誤り(無効理由4)

被告取消事由2:本件発明2に関する進歩性判断の誤り(無効理由4)

被告取消事由3:本件発明3に関する進歩性判断の誤り(無効理由4)

被告取消事由4:本件発明4に関する進歩性判断の誤り(無効理由4)

被告取消事由5:本件発明6に関する進歩性判断の誤り(無効理由4)

被告取消事由6:本件発明8に関する進歩性判断の誤り(無効理由4)

(第1事件)

原告取消事由1:本件発明5、7、9に関する引用発明1に基づく新規性、進歩性判断の誤り(無効理由1、2)

原告取消事由2:本件発明5、7、9に関する引用発明2に基づく進歩性判断の誤り(無効理由3)

原告取消事由3:本件発明5、7、9に関する引用発明3に基づく進歩性判断の誤り(無効理由4)

6.被告ら主張の取消事由

1 被告取消事由1(本件発明1に関する進歩性判断の誤り)について

(1)相違点の認定について

ア 本件発明1について

(ア)「相互作用マスタ」の構成

a 本件発明1の「相互作用マスタ」の「一の医薬品」は、商品名で特定される場合や一般名で特定される場合もあり、また、本件発明2のように薬効コードで特定される場合もあるため、ある程度の幅を許容する概念であるが、「一の医薬品」は、クレーム上「他の一の医薬品」を相手医薬品として「個別に」、すなわち、「1対1」の関係で格納される以上、自己医薬品と相手医薬品とは、同じ基準ないし粒度で特定されるものであることが必要である。

さらに、「2通りの主従関係」が成立するためには、その前提として、「一の医薬品」と「他の一の医薬品」の対応関係がデータ構造上維持されていることが必要になる。相互作用が発生する組み合わせが「1対1」であることが明記されているのだから、「個別に格納」とは、やはり、相互作用が発生する医薬品の「1対1」の組み合わせを格納するデータ格納構成を意味する。

以上によれば、本件発明1の「個別に格納」は、①一の医薬品と他の一の医薬品を「1対1」の組み合わせ、すなわち、同一の基準又は粒度で格納し(以下「同一粒度」という。)、かつ、②他の組み合わせと分離して格納すること(以下「分離格納」という。)を意味し、「1対多」となる場合を含まない

b 医薬品の添付文書の記載には統一されたフォーマットがあるわけではなく、相互作用を生じる可能性のある医薬品の特定方法として、医薬品の商品名、一般名(主成分)、効能など区々に分かれており、相互作用を生じる医薬品として、例えば、「降圧剤」等薬効に着目した記載や、化合物の名称のみを記載することは少なくない。そのため、相互作用の有無を判断するに当たっては、必然的に添付文書等の薬学的な解釈が求められ、「相互作用マスタ」には、相互作用に関する情報として、薬学的判断を経た相互作用の有無や内容に関する情報(以下、二重括弧で『相互作用情報』という。)が保有される。つまり、「相互作用マスタ」は、単なる添付文書情報ではなく、「一の医薬品」と「他の一の医薬品」との間で、薬学的判断を経た「相互作用が発生する組み合わせ」を、その『相互作用情報』と共に記録するものである。

例えば、医薬品Aが降圧剤との併用禁忌であって、降圧剤が、医薬品B、C及びDと3種類存在する場合、上記のテーブルには、自己医薬品に医薬品Aが記憶され、相互作用に「併用禁忌」と記載されたレコードが、医薬品B、医薬品C、医薬品Dとの間で「個別に」作成される。

c 原告の主張について

(a)原告は、被告らが主張する同一粒度及び分離格納について、審判手続で審理の俎上に上っておらず、審決取消訴訟において審理の対象とされるべきではないと主張するが、同一粒度及び分離格納は、本件発明1の「個別に格納」の解釈論に他ならず、審判手続において審理されている。

(b)原告は、本件発明1は、「個別に格納」という構成によってデータ格納方式まで特定していると解することはできず、リレーショナルデータベースの形式による格納方式もツリー構造での格納方式も取り得ると主張するが、本件発明1においては、相互作用が発生する組み合わせが単数対単数、つまり「1対1」である必要があるのであるから、「個別に格納」とは、相互作用が発生する医薬品の「1対1」の組み合わせを格納するデータ格納構成を意味するのであり、「相互作用マスタ」においてデータ格納構成が特定されておらず、ツリー構造の格納方式も採用し得ると解することはできない。

(c)原告は、平成21年12月25日付意見書(甲24)の記載を根拠に「個別に格納」とは、医薬品を区別する意味にすぎないと主張するが、原告が指摘する記載は、「2通りの主従関係」に関するものであり、「個別に格納」の解釈に影響を与えない。原告の指摘する平成22年1月20日付け拒絶理由通知書(甲34)の記載は、検索過程に関するものであるから「相互作用マスタ」の構成が問題とされたものではない。また、被告らは、拒絶理由通知書の認定を争っている。

(イ)「相互作用チェック処理」の構成

本件発明1の「相互作用チェック処理」は、「入力された新規処方データの各医薬品を自己医薬品及び相手医薬品とし、自己医薬品と相手医薬品の組み合わせが、前記相互作用マスタに登録した医薬品の組み合わせと合致するか否かを判断する」ものであるから、相互作用を確認する2つの医薬品をそれぞれ自己医薬品及び相手医薬品として、つまり、主従を入れ替えた2つの検索条件で、「相互作用マスタ」の検索を行うものである。前記(ア)のとおり、「相互作用マスタ」には、「一の医薬品」と「他の一の医薬品」に関する『相互作用情報』が「2通りの主従関係」で、「個別に格納」されているから、実際の検索は、「(自己医薬品=医薬品A かつ 相手医薬品=医薬品B)又は(「自己医薬品=医薬品Bかつ 相手医薬品=医薬品A」)」というひとつの検索条件で簡易、迅速に行うことができる。

イ 引用発明3について

(ア)「医薬品相互作用チェックテーブル105」の構成

a 「医薬品相互作用チェックテーブル105」には、添付文書から抽出された医薬品に関する情報をコード化した情報が保有される(甲14文献の【0008】)。

前記ア(ア)bのとおり、医薬品の添付文書には、その医薬品との関係で相互作用を生じる医薬品が包括的に記載されているから「医薬品相互作用チェックテーブル105」が保有するのは、自己医薬品に対し、相手医薬品が広い範囲で特定され、「1対多」の関係で構成された、相互作用の有無や内容を判断するための基礎情報(以下、二重括弧で『相互作用の基礎情報』という。)である。

b 甲14文献の【0017】【0019】及び【図4】によれば、引用発明3の「医薬品相互作用チェックテーブル105」の「自己テーブル部401」や「相手テーブル部402」は、『相互作用の基礎情報』としての添付文書の内容を、一般名コード(一般名すなわち薬効成分となる化合物のコード)、薬効分類コード(医薬品の効能効果を分類したコード)、BOXコード(発明者が独自に体系化し、コード化したものではあるが、内容は、添付文書に記載された医薬品の構造式・薬理作用・剤型等からなるもの)という観点から整理・コード化した情報を記録するためのフィールドによって構成されているといえる。

c さらに、「医薬品相互作用チェックテーブル105」に保有されるのは、添付文書の生の記載情報をコード化した情報であるから、適切なコード化が技術的に困難である事項及び添付文書にそもそも記載のない事項については、フィールドに記憶すべきデータが存在しない。

「医薬品相互作用チェックテーブル105」において、自己医薬品については、添付文書の記載によってこれらの全部が特定可能であるから、「自己テーブル部401」の一般名、薬効分類、BOXの全部の組み合わせによって特定される。これに対し、「相手テーブル部402」には、一般名、薬効分類、BOXの少なくともいずれかひとつに情報が記録された状態になるため、相手医薬品は、添付文書の記載態様により、一般名、薬効分類、BOXのいずれか又はそれらの組み合わせによって特定されることとなる。

以上から、「医薬品相互作用チェックテーブル105」は、個々の添付文書の記載態様に応じて、「自己テーブル部401」にある一の自己医薬品が記録されるのに対して、「相手テーブル部402」には、自己医薬品との間で相互作用が生じる可能性のある相手医薬品が包括的に記録される構造となっている

d なお、甲14文献の【図2】のとおり、「自己医薬品テーブル102」と「相手医薬品テーブル103」は、相互作用チェックを行う際に入力される医薬品を記憶するための構成であるのに対して、「医薬品相互作用チェックテーブル105」は、予め添付文書の情報をコード化して記憶するものであるから、両者は全く機能を異にしており、前2者と後1者を一体として取り扱う理由はない。

(イ)引用発明3の検索過程の構成

a 引用発明3の検索処理のうち、「検索前処理801」は、「医薬品相互作用チェックマスタ104」から一般名コード等を取得するプロセスであり、実際の検索処理は「相互作用チェックテーブルの検索処理802」において行われるところ、その処理過程を単純化すると、次のとおりである(別紙「被告ら主張の引用発明3の構成」参照)。

① 自己医薬品の一般名コード、薬効分類コード、BOXコードのそれぞれに基づき、「医薬品相互作用チェックテーブル105」の「自己テーブル部401」を検索し、自己医薬品に関する情報が記録されたレコードを抽出し、これを「一時記憶テーブル110」に書き出す。

② 相手医薬品の一般名コード、薬効分類コード、BOXコードのそれぞれに基づいて、「一時記憶テーブル110」内の「相手テーブル部402」を検索し、相手医薬品に関する情報が記録されたレコードを抽出する。

b 上記①の過程(以下「自己テーブル検索過程」という。)

相互作用を確認する自己医薬品と同一の一般名コード、薬効分類コード、BOXコードが「自己テーブル部401」に登録されたデータを「医薬品相互作用チェックテーブル105」から抽出する作業である。前記(ア)aのとおり、「医薬品相互作用チェックテーブル105」には、添付文書の内容をコード化した情報が格納されているから、自己テーブル検索過程で抽出されるのは自己医薬品に関する添付文書の内容であり、抽出結果が書き出された「一時記憶テーブル110」には、コード化された添付文書の内容が列挙されることとなる。

そして、「医薬品相互作用チェックテーブル105」には商品レベルでの医薬品情報は格納されておらず、一般名(薬効成分)で情報が格納されているため、一般名で特定されるある医薬品に、先発薬のほか、薬効成分を同じくするいわゆるジェネリック医薬品が存在する場合には、複数のデータが抽出されることになる。

また、相互作用が問題になる相手医薬品の薬効分類コードが複数ある場合にも、複数のレコードが作成されることになると考えられるから、この場合にも自己テーブル検索過程で複数のデータが抽出される。

さらに、自己テーブル検索過程では、一般名コード、薬効分類コード、BOXコードの「それぞれ」の検索結果が全て抽出されるため、入力された自己医薬品と同一の一般名、同一の薬効又は同一のBOXコードを有する医薬品の添付文書情報が全て抽出される。

したがって、自己テーブル検索過程では、自己医薬品及びそのジェネリック医薬品又は同一薬効若しくは同一BOXコードを有する医薬品に関する添付文書のデータが網羅的に抽出され、「一時記憶テーブル110」に書き出される。

c 上記②の過程(以下「相手テーブル検索過程」という。)

相手医薬品の一般名コード、薬効分類コード、BOXコードのそれぞれに基づいて「一時記憶テーブル110」の「相手テーブル部402」を検索し、相手医薬品に関連する情報の絞り込みが行われる。

相手テーブル検索過程においても、自己テーブル検索過程と同様、一般名コード、薬効分類コード、BOXコードのそれぞれについて検索が行われる。そのため、相手テーブル検索過程を経て得られたデータは、入力された相手医薬品又はそのジェネリック医薬品若しくは同一薬効、同一BOXコードの医薬品等に関するデータとなる。

d このように、引用発明3における検索過程において、相手医薬品を自己医薬品とする双方向の検索過程、すなわち、「相手テーブル部402」で絞り込まれた相手医薬品を自己医薬品として「一時記憶テーブル110」を構築し、「自己テーブル部401」から抽出された情報に基づき再検索する過程は一切開示されておらず、また、その示唆もない。

e 以上によれば、引用発明3における検索過程は、以下のとおり特定することができる。

ⅰ. 入力された新規処方データの各医薬品の一方を自己医薬品とし、

ⅱ. 自己医薬品、そのジェネリック医薬品、自己医薬品と同一薬効コード又はBOXコードを有する医薬品を自己医薬品群とし、

ⅲ. 相手医薬品、そのジェネリック医薬品、相手医薬品と同一薬効コード又はBOXコードを有する医薬品を相手医薬品群とし、

ⅳ. 自己医薬品群のいずれかの医薬品と、相手医薬品群のいずれかの医薬品との組み合わせが、医薬品相互作用チェックテーブル105に登録されているか否かを判断する

ⅴ. 相互作用の検索過程

f 審決は引用発明3の検索過程が本件発明1の「相互作用チェック処理」に該当するとしたが、甲14文献には、引用発明3で記載された検索を、医薬品の主従を入れ替えて繰り返すという記載も示唆もない。本件特許の出願時において、医薬品の相互作用の確認を目的とするシステムを提供する当業者の間に、「医薬品相互作用チェックを行うとの観点からすると、医薬品の主従を入れ替えてチェックを繰り返すことは当然のことである」との技術常識はなく、現に、そのような検索機能を実装したシステムは存在していない。2つの医薬品がある場合に、薬剤師が双方の添付文書を確認することの重要性は、本件特許の出願時においてようやく一部の専門家の間で認識され始めた状況であったし、ましてや、双方向からの添付文書の確認をシステムによって実現することが技術常識と呼びうる環境にはおよそなかった。審決の認定は、典型的な後知恵である。

ウ 本件発明1と引用発明3の対比

(ア)引用発明3の「医薬品相互作用チェックテーブル105」は、自己医薬品を一般名、薬効分類、BOXの全部の組み合わせによって特定するものである一方、相手医薬品は、一般名、薬効分類、BOXのいずれかによって特定されるため、一般名、薬効分類、BOXの組み合わせで特定される自己医薬品に対し、相互作用を生じる可能性のある医薬品を包括的に記録するものである。したがって、「医薬品相互作用チェックテーブル105」は、「1対1」ではなく「1対多」、「多対多」の相互作用情報を格納するものであるから、本件発明1の「個別に格納」の構成を有するものではない。

また、引用発明3の「医薬品相互作用チェックテーブル105」は、特定の自己医薬品(「一の医薬品」)から見た特定の相手医薬品(「他の一の医薬品」)の組み合わせを観念することはできない。このように、「一の医薬品から見た他の一の医薬品」の組み合わせを観念できないから、「前記他の一の医薬品から見た前記一の医薬品」という組み合わせも観念することはできず、「2通りの主従関係」が成立することは、「医薬品相互作用チェックテーブル105」のデータ構造上論理的にあり得ない。

よって、引用発明3の「医薬品相互作用チェックテーブル105」は本件発明1の「相互作用マスタ」に相当するものではない。

(イ)本件発明1と引用発明3の検索過程は次の点で相違する。

a 相違点1

引用発明3の検索過程は、「入力された新規処方の一方を自己医薬品と(する)」ものであるのに対し、本件発明1は、「入力された新規処方データの各医薬品を自己医薬品及び相手医薬品と(する)」ものであるから、この点において両者は相違する。

b 相違点2

本件発明1は、「自己医薬品と相手医薬品の組み合わせ」を検索するものであるのに対し、引用発明3は、「自己医薬品群のいずれかの医薬品と、相手医薬品群のいずれかの医薬品との組み合わせ」を検索するものであるから、この点において両者は相違する。なお、「自己医薬品」や「相手医薬品」は、一定の幅を持ちうる概念であり、その限りで一般名や薬効分類で抽象化することが不可能ではないが、本件発明1が入力された新規処方データの各医薬品の主従を入れ替えて検索を行うものであることを考えると、「自己医薬品と相手医薬品の組み合わせ」を検索する上では、両者の抽象化の基準を同一にし、抽象化された限りでは1対1の対応関係が維持されていなければならない。引用発明3においては、自己医薬品群にも相手医薬品群にも、自己テーブル検索過程で抽出された複数のデータが含まれるから、多対多の関係が生じることとなる。そのため、引用発明3は、「自己医薬品と相手医薬品の組み合わせ」について検索を行うものとはいえない。

c 相違点3

本件発明1は、「前記相互作用マスタに登録した医薬品の組み合わせと合致するか否かを判断する」ものであるところ、上述のとおり、引用発明3の「医薬品相互作用チェックテーブル105」は、添付文書情報をコード化したものであって、同一の基準で抽象化された医薬品の組み合わせが登録されているわけではなく、検索の過程においても、一般名コード、薬効分類コード、BOXコードのそれぞれについての検索が、自己医薬品及び相手医薬品について順次行われており、「相互作用マスタに登録した医薬品の組み合わせと合致するか否かを判断」する過程は存在しない。したがって、引用発明3の検索過程は、「前記相互作用マスタに登録した医薬品の組み合わせと合致するか否かを判断する」ものとはいえない。

エ 小括

以上のとおり、審決は本件発明1と引用発明3の相違点を看過したものであり、この誤りは、本件発明1の進歩性を否定した審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、審決の上記部分は取り消されるべきである。

(2)容易想到性の判断について

ア 審決は、引用発明3に甲6~10文献により認定された技術事項を適用することにより、相違点4-1に係る構成に容易に想到することができると判断したが、誤りである。

イ 技術事項の認定

審決は、甲6~10文献から、「薬物間の相互作用をマトリックス形式で表示する」技術事項(以下「技術事項甲6-10」という。)を、また、特に甲7~10文献から次の技術事項(以下「技術事項甲7-10」という。)を認定できるとする。

m.相互作用をチェックするシステムにおいて、

n.医薬品の対象となる自己医薬品の名称と、相互作用チェック処理の対象となる相手医薬品の名称とをマトリックス形式の行又は列にそれぞれ表示し、

o.自己医薬品と相手医薬品の間の相互作用チェック処理の結果を、前記マトリックス形式の該当する各セルに表示する

しかし、甲6~10文献には、相互作用チェックとは無関係な発明や、双方向の相互作用のチェックを行うもの、あるいは、一方向の「相互作用の確認」を行うものが含まれており、その技術思想はそれぞれ異なり、ひとくくりに技術事項を読み取ることはできない。

ウ 相違点4-1の容易想到性

(ア)甲6~10文献で用いられる「相互作用チェック」の意味内容はそれぞれ異なり、これらから、「相互作用のチェックの結果をユーザに提供する」という共通の課題を認定したり、「各薬品間の関係を一覧表示でき、ユーザの視認性を高める」との共通の一般的効果を認定したりすることはできない。また、引用発明3の「医薬品相互作用チェックテーブル105」には、「併用注意」、「併用禁忌」といった情報が記憶されるフィールドは存在せず、そもそもマトリックス表示する意味がない。

(イ)相互作用チェックの結果をどのように表示するかは、相互作用の確認結果としてどのような情報を提供するかを前提問題とするものであるところ、引用発明3においては、本件発明に見られるような詳細かつ適切な情報を提供するという技術思想は開示されていない。相互作用の確認結果は、文字情報のみで表示する構成も考えうるところであり、それが特に見にくいというわけでもない(甲14文献の【図7】【図8】)。

そもそも、引用発明3のように、一方向からの「相互作用の確認」を行う場合には、マトリックス表示を行う必要がなく、むしろ、マトリックス表示は有害である。

すなわち、一方向からの相互作用チェックの結果をマトリックス表示した場合、その表示内容は、常に対角線を軸として線対称となるから、相互作用情報を一次元で表示する場合と比較して、なんら付加的な情報を提供しないばかりか、むしろ、データ量が増えたり、表示のためにより多くの画面上の面積が必要になったりするとのデメリットのみが残る。そのため、一方向からの相互作用チェックを行う発明に接した当業者には、マトリックス表示を選択する動機付けが生じることがないのである。

マトリックス表示が意味を持つのは、相互作用確認結果の表示一般ではなく、「相互作用マスタ」による双方向の相互作用確認の結果を表示する場合に限定されるのであるから、引用発明3とマトリックス表示を開示した副引例を組み合わせることに容易性はなく、この点を看過した審決には、容易性判断の誤りがあるものというべきである。

(ウ)引用発明3における相互作用情報の検索に際しては、自己医薬品が、一般名コード、薬効分類コード、BOXコードのそれぞれについて、自己テーブル部と相手テーブル部が、一時ファイルを通じて順次検索されるため、自己医薬品群と相手医薬品群という「多対多」の検索結果が抽出される。つまり、引用発明3の検索結果は、1対1の対応関係を維持したものではなく、特定の自己医薬品と相手医薬品との組み合わせに関係する可能性のある添付文書情報が、当該自己医薬品や相手医薬品に関するものに限らず、自己医薬品「群」を「主」として片端から羅列される、というものである。このような状態を表示するには、添付文書情報を単純に縦1列に列挙するか、あるいは、添付文書情報ごとに相手医薬品の候補となり得る医薬品を列挙したツリー構造のような表示方法が適切であり、医薬品を縦横に並べたマトリックス表示を生成することはできない。さらに、仮に、この検索を双方向で行った場合には、「多対多」の組み合わせが2つ生じることとなるから、その表示手段としてマトリックス表示を用いることなど不可能になるし、何らかの工夫をして無理やりマトリックス表示をしたとしても、利用に耐えるものとはならない。したがって、引用発明3にマトリックス表示を組み合わせることには阻害事由がある。

エ 小括

以上のとおり、審決の相違点4-1の容易想到性の判断には誤りがあるから、審決のうち本件発明1を無効とした部分は取り消されるべきである。

(3)結論

よって、審決のうち本件発明1を無効とした部分は取り消されるべきである。

2 被告取消事由2(本件発明2に関する進歩性判断の誤り)について

-省略-

3 被告取消事由3(本件発明3に関する進歩性判断の誤り)について

-省略-

4 被告取消事由4(本件発明4に関する進歩性判断の誤り)について

-省略-

5 被告取消事由5(本件発明6に関する進歩性判断の誤り)について

-省略-

6 被告取消事由6(本件発明8に関する進歩性判断の誤り)について

7.裁判所の判断

1 本件発明について

-省略-

2 被告取消事由1(本件発明1に関する進歩性判断の誤り)について

(1)引用発明3の認定について

ア 甲14文献には次の記載がある。

(ア)【発明の属する技術分野】 本発明は、医療機関において処方情報の監査処理をコンピュータ上で行う処方鑑査システムに係り、医師あるいは薬剤師が行う処方箋の発行や処方鑑査業務を効率的に行えるようにした医薬品相互作用チェック方法及びその装置に関する。(【0001】)

(イ)本発明は上記問題に着目してなされたもので、各医薬品に付される添付文書から抽出された医薬品に関する情報をコード化することによりデータの処理時間を短縮し、容易に医薬品相互作用のチェックを行うことができる医薬品相互作用チェック方法及びその装置を提供することを目的としている。(【0008】)

(ウ)図1は、本発明の装置の一形態を示す構成図である。本発明に係る装置は図1に示すように、医薬品相互作用チェック結果を表示するための表示装置10と、チェックする医薬品を入力するための入力装置11と、CPU及びメモリ等の処理部12と、あらかじめ用意された全ての医薬品に関するデータが作成記憶されているディスク13(記憶手段としてはこの他に、CD-ROM14、フロッピーディスク15を使用することもできる。)と、医薬品に関するデータ、あるいはチェックした医薬品の相互作用に関するデータ等をプリントアウトするための出力装置16とから構成されている。

図2は、医薬品相互作用チェック処理に使用される各機能ごとのデータの構成、すなわちファイル構成を示しており、それぞれがメモリ上では区分されてファイルとして記憶されている。自己医薬品テーブル102には、予め医薬品入力101の過程により入力された処方される医薬品(自己医薬品)の医薬品マスターコード(後述する)が記憶され、相手医薬品テーブル103には、処方履歴を基に抽出した患者が服用している医薬品(相手医薬品)及び処方される医薬品の医薬品マスターコード、調剤日、医療機関名が記憶される。医薬品相互作用チェックマスタ104には、予め医薬品固有の情報が全て記憶され、医薬品相互作用チェックテーブル105には、医薬品間の相互作用の有無をチェックする情報が記憶されており、自己医薬品に対する自己テーブル部401と相手医薬品に対する相手テーブル部402(図4を参照)とを含む。また、医薬品相互作用コメントファイル106には、医薬品の相互作用の結果をコメントとして提供するための文字情報がコメントコードと共に記憶され、医薬品相互作用機序ファイル107には、医薬品相互作用の機序が文字情報として相互作用機序コードと共に記憶されている。

そして、前記のファイルに基づく医薬品相互作用チェック108の過程では、上記入力データ及び記憶データを基に自己医薬品及び相手医薬品の一般名コード、薬効分類コード、BOXコード(いずれも後述する)を医薬品相互作用チェックマスタ104から取得して、処方医薬品相互作用チェックマスタSの形態で一時記憶テーブル110に記憶され(図3を参照)、自己医薬品の前記各コードに対して相互作用を有する全ての医薬品(相手医薬品、相手飲食物等)と相互作用コメント等が処方医薬品相互作用チェックテーブルTの形態で一時記憶テーブル110に記憶される(図4を参照)。図3に示すように、処方医薬品相互作用チェックマスタSの形態は、入力された処方医薬品の医薬品マスターコードに対応する医薬品名称、一般名コード、薬効分類コード、BOXコードが記憶される構成となる。また、図4に示すように、処方医薬品相互作用チェックテーブルTの形態では、自己テーブル部401に入力された処方医薬品の一般名コード、薬効分類コード、BOXコードが記憶され、相手テーブル部402に前記自己テーブル部のそれぞれのコードと相互作用を持つ医薬品の一般名コード、薬効分類コード、BOXコードが記憶される。そして、コメントテーブル部403には、それぞれの相互作用に対するコメントと重篤区分に対応するレベルコードと相互作用の機序コードが記憶される。(【0016】~【0018】)

(エ)次に、医薬品相互作用のチェック方法の実施の一形態を図6に添って詳しく説明する。検索前処理801では、ステップ810において、前述したように処方される医薬品として入力装置11に入力された自己医薬品の医薬品マスターコードを基に、一般名コード、薬効分類コード、BOXコードを医薬品相互作用チェックマスタ104から検索して(ステップ811)、処方薬品相互作用チェックマスタSの形態(図3を参照)で自己医薬品のそれぞれのコードを確定する。また、ステップ812において、処方履歴等を基に抽出された相手医薬品の医薬品マスターコードを基に一般名コード、薬効分類コード、BOXコードを医薬品相互作用チェックマスタ104から検索して(ステップ813)、処方医薬品相互作用チェックマスタSの形態で相手医薬品のそれぞれのコードを確定する。

相互作用チェックテーブルの検索処理802では、ステップ820において、医薬品相互作用チェックテーブル105から自己テーブル部401の検索が行われる。まず、検索前処理801で検索した自己医薬品の一般名コードが、医薬品相互作用チェックテーブル105の自己テーブル部401に存在するか否かの検索が行われる(ステップ821)。同様にして、薬効分類コードとBOXコードについても検索が行われ(ステップ822、823)、それぞれの検索で存在したコードに関するデータは処方医薬品相互作用チェックテーブルTの形態で一時記憶テーブル110に記憶される。また、ステップ824において、前記ステップ820で検索して一時記憶テーブル110に記憶したデータから相手テーブル部402の検索が行われる。まず、検索前処理801で検索した相手医薬品の一般名コードが前記一時記憶テーブル110の相手テーブル部402に存在しているかの検索が行われる(ステップ825)。同様にして薬効分類コードとBOXコードについても検索が行われ(ステップ826、827)、それぞれの検索でコードが存在する場合には、処方する自己医薬品には患者が服用している医薬品あるいは処方する医薬品(相手医薬品)との間に相互作用を有する組み合わせが存在することになる。

検索後処理803では、ステップ830において、前記相互作用チェックテーブルの検索処理802で相互作用を有する医薬品の組み合わせが存在した場合のコメントテーブル部403の作成が行われる。まず、相互作用を有する医薬品の組み合わせから相互作用コメントが確定され(ステップ830)、相互作用の重篤レベルに対応する重篤区分が確定する(ステップ832)。そして、同様に医薬品の組み合わせに対する相互作用機序が確定される(ステップ831)。

以上のように検索された医薬品相互作用チェック結果は、図7に示すような形態で表示装置10に画面表示される。表示欄901には、入力された自己医薬品名が、検索されたコードを基に医薬品相互作用チェックマスタから抽出され、表示される。また、表示欄902には、患者の処方履歴に記載された調剤日と医療機関名、及び、前記自己医薬品名に対して検索されたコードを基に相手医薬品名が、医薬品相互作用チェックマスタから抽出され、表示される。更に、表示欄903には、検索された相互作用コメントコードを基に相互作用コメントが相互作用コメントファイルから抽出されて表示され、表示欄904には、検索された機序コードを基に相互作用機序が医薬品相互作用機序ファイルから抽出され、表示される。そして、前記画面表示は、検索した相互作用コメントの重篤レベルコードに対応して、重篤のコメントの場合には色付けにより強調して表示するようにしている。尚、上記の表示画面及び検索過程におけるデータは、必要に応じて接続された出力装置16からプリントアウトすることができる。(【0021】~【0024】)

(オ)処方医薬品相互作用チェックテーブルの形態を示す図である。(【図4】)

イ 以上によれば、引用発明3については、前記第2の3(2)ウ(ア)記載のとおり認定することができる(この点については当事者間に争いがない。)

(2)相違点の認定について

ア 本件発明1について

(ア)技術常識

後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の出願時の技術常識を認めることができる。

a 医薬品は、一般に、販売名(商品名)ないし一般名により特定される。厚生労働省が定める「薬価基準収載用医薬品コード」は、12桁からなるコードであり、下図のとおり、12桁すべてによって商品名までが特定される。このうち、先頭の4桁は薬効分類番号であるが、薬効分類のみからは、医薬品の有効成分を特定することができない。これに対し、先頭の7桁を特定すれば、薬効、有効成分及び投与経路が特定できる。

b 一般に、製薬会社が作成する添付文書には、医薬品毎に作用発現の仕組み(作用機序)が記載され、相手方医薬品との関係が、「併用禁忌」、「併用注意」に分けて明記されている。

もっとも、医薬品の添付文書の記載には統一されたフォーマットがあるわけではなく、相互作用を生じる可能性のある医薬品の特定方法として、商品名による場合もあれば、一般名(主成分)や効能による場合もある。

例えば、医薬品の添付文書の相互作用の項目には、医薬品の一般名ではなく「降圧剤」等薬効に着目した記載や、化合物の名称のみを記載することは少なくないし、飲食物や飲酒などの情報も記載されることがある(乙8~10、13)。

(イ)「相互作用マスタ」について

a 「一の医薬品」と「他の一の医薬品」

特許請求の範囲には、「一の医薬品」と「他の一の医薬品」における「医薬品」が、販売名(商品名)、一般名、薬効分類等のいずれのレベルの概念を意味するのかについて明示的な特定はない。

(a)しかし、「一の医薬品」と「他の一の医薬品」は、いずれも「医薬品」という同一の文言が用いられていることからすれば、これらは医薬品について同一のレベルの概念であると解するのが自然である。

(b)また、本件発明1の特許請求の範囲には、①入力された新規処方データの各医薬品を自己医薬品及び相手医薬品とすること、②自己医薬品と相手医薬品の組み合わせが、前記相互作用マスタに登録した医薬品の組み合わせと合致するか否かを判断することにより、相互作用チェック処理を実行することが記載されている。このように、入力された新規処方データの「各医薬品」に当たる医薬品を「自己医薬品」にも「相手医薬品」にもすることとされ、その組み合わせが「相互作用マスタに登録した医薬品」の組み合わせと合致するかを判断するのであるから、「相互作用マスタに登録した医薬品」、すなわち、「一の医薬品」と「他の一の医薬品」は、同一のレベルの概念であることを要することが理解できる。

(c)さらに、「相互作用マスタ」に登録された医薬品の組み合わせとの合致の有無を判断する「新規処方データの各医薬品」は、医師の交付する処方せんのデータを示すものと解されるところ、医師の交付する処方せんには販売名(商品名)か一般名が記載されるものである。そして、本件発明の医薬品相互作用チェック装置は医療施設での処方箋監査業務や処方設計業務に使用されるものであるから、「新規処方データの各医薬品」は、医薬品の有効成分すらも特定できない薬効分類を基準とするものであるとは考えられない。したがって、相互作用チェック処理において「新規処方データの各医薬品」の組み合わせとの合致を判断する対象たる「相互作用マスタ」に格納される「一の医薬品」及び「他の一の医薬品」は、薬効分類などの上位レベルの概念でないことは明らかである。

他方、本件発明2は、本件発明1の「相互作用マスタ」の構成について、「相互作用が発生する組み合わせを、各医薬品の効能を定めた薬効コードの組み合わせ」とするものに限定するものであるところ、この「薬効コード」は例えば「薬価基準収載用医薬品コード」の先頭7桁とするものでよいとされ(【0026】)、これにより薬効、有効成分及び投与経路は特定されているから(上記(ア))、「医薬品」については、薬効、有効成分及び投与経路を特定するコードである場合を含むものといえる。

(d)以上によれば、本件発明1の「相互作用マスタ」における「一の医薬品」及び「他の一の医薬品」は、同一のレベルの概念によるものに統一され、そのレベルは、薬効分類のような上位レベルの概念は含まず、販売名(商品名)か一般名かこれを特定するコードや、薬効、有効成分及び投与経路を特定することができるコードのレベルであると解するのが相当である

b 「2通りの主従関係で」「個別に格納」

本件発明1の「相互作用マスタ」について、特許請求の範囲には、「2通りの主従関係で」、相互作用が発生する組み合わせを「個別に格納」すると記載されている。

「個別」とは、「個々別々。」(乙4)ないし「一つ一つ。それぞれを別々に扱うこと」(乙5)を意味し、「2通りの主従関係で」とは、一方の医薬品を主、他方の医薬品を従とするほか、他方の医薬品を主、一方の医薬品を従とすることを意味すると解される。

また、特許請求の範囲には「一の医薬品」、「他の一の医薬品」と記載され、「医薬品」について「一の」と特定されているのであるから、「相互作用マスタ」に「相互作用が発生する組み合わせ」が格納される「医薬品」同士の関係は、「1対1」であり、「1対多」や「多対1」で対応するものではないと解される。

そうすると、①A薬品から見たB薬品に関する相互作用が発生する組み合わせについての情報と、②B薬品から見たA薬品に関する相互作用が発生する組み合わせについての情報とが、データとして個々別々、すなわち、A薬品から見たB薬品に関する相互作用の有無等の情報が、他の相互作用の有無等の情報とは別に1つのデータとして格納され、また、B薬品から見たA薬品に関する相互作用の有無等の情報が他の相互作用の有無等の情報とは別に1つのデータとして格納されるものと解される。

また、「一の医薬品から見た他の一の医薬品の」「相互作用が発生する組み合わせ」は「個別に格納」されるのであるから、①A薬品から見たB薬品の相互作用の有無等の情報と、②A薬品から見たC薬品の相互作用の有無等の情報のデータとは、個々別々に格納されると解される。

c 以上によれば、本件発明1の「相互作用マスタ」の「一の医薬品」及び「他の一の医薬品」は、両者とも、販売名(商品名)か一般名かこれを特定するコードや、薬効、有効成分及び投与経路を特定することができるコードのレベルの概念で統一して格納され、①A薬品から見たB薬品の相互作用が発生する組み合わせについての情報と、②B薬品から見たA薬品の相互作用が発生する組み合わせについての情報とは、データとして個々別々のものとして格納され、また、①A薬品から見たB薬品に関する相互作用が発生する組み合わせについての情報と、③A薬品から見たC薬品の相互作用が発生する組み合わせについての情報とも、データとして個々別々のものとして格納されると解するのが相当である

イ 引用発明3について

(ア)「医薬品相互作用チェックテーブル105」について

「医薬品相互作用チェックテーブル105」に記憶される「医薬品間の相互作用の有無をチェックする情報」は、「各医薬品に付される添付文書から抽出された医薬品に関する情報」である。これによれば、「自己テーブル部401」の「自己医薬品」の添付文書から抽出された情報により、当該「自己医薬品」と相互作用が発生する医薬品の情報が「相手テーブル部402」の「相手医薬品」の情報として格納され、一方で、この「相手医薬品」として格納された医薬品においても、同様に当該医薬品を「自己医薬品」とした添付文書から抽出された相互作用が発生する医薬品の情報を「相手医薬品」の情報として、「医薬品相互作用チェックテーブル105」に格納されることは明らかである。

そして、前記ア(ア)のとおり、医薬品の添付文書の相互作用の項目には、相互作用が発生する医薬品名だけでなく、「降圧剤」のような上位の薬効分類での記載がされることも通常であるから、「A薬品」の「添付文書の情報」は、「A薬品」に対して「相互作用」が発生する医薬品の情報として、医薬品名ではなく、薬効分類のみの記載も含むものと解される。

引用発明3では、相手テーブル部を相手医薬品の一般名コード、薬効分類コード及びBOXコードのそれぞれで検索し、いずれかが存在する場合に相互作用があると判断するものである。相手テーブル部に相手医薬品の一般名コードが必ず存在するのであれば、薬効分類コード、BOXコードでは検索する必要はないから、引用発明3の相手テーブル部の一般名コード、薬効分類コード、BOXコードの各欄には、必ずしもすべてにコードが格納されているとは限らないものと認められる

(イ)検索処理について

引用発明3は、「医薬品相互作用チェックテーブル105」において、①「自己テーブル部」に「自己医薬品の一般名コードが存在するか」、「自己医薬品の属する薬効分類コードが存在するか」、「自己医薬品に付与されたBOXコードが存在するか」をそれぞれ検索して、いずれかのコードが存在していれば、処方医薬品相互作用チェックテーブルTの形態で一時記憶テーブル110に記憶し、②一時記憶テーブル110に記憶したデータの「相手テーブル部」に、「相手医薬品の一般名コードが存在するか」、「相手医薬品の属する薬効分類コードが存在するか」、「相手医薬品に付与されたBOXコードが存在するか」をそれぞれ検索して、いずれかのコードが存在していれば、「自己医薬品」と「相手医薬品」とが相互作用を有する組み合わせが存在すると判断するものである。

ウ 以上によれば、本件発明1と引用発明3の一致点及び相違点は次のとおりであると認められる。

(ア)対比

a 前記ア(イ)のとおり、本件発明1の「相互作用マスタ」は、「一の医薬品」及び「他の一の医薬品」が販売名(商品名)か一般名かこれを特定するコードや、薬効、有効成分及び投与経路を特定することができるコードのレベルの概念で統一して格納され、①A薬品から見たB薬品の相互作用が発生する組み合わせについての情報と、②B薬品から見たA薬品の相互作用が発生する組み合わせについての情報とは、データとして個々別々のものとして格納され、また、①A薬品から見たB薬品に関する相互作用が発生する組み合わせについての情報と、③A薬品から見たC薬品の相互作用が発生する組み合わせについての情報とも、データとして個々別々のものとして格納されるものである。これに対し、前記イ(ア)のとおり、引用発明3の相手テーブル部の一般名コード、薬効分類コード、BOXコードの各欄には、必ずしもすべてにコードが格納されているとは限らない。

したがって、引用発明3の「医薬品相互作用チェックテーブル105」と、本件発明1の「相互作用マスタ」とは、「一の医薬品から見た他の医薬品の相互作用が発生する組み合わせを個別に格納する相互作用をチェックするためのマスタ」である点で共通するが、本件発明1が「一の医薬品から見た他の一の医薬品の場合と、前記他の一の医薬品から見た前記一の医薬品の場合の2通りの主従関係で、相互作用が発生する組み合わせを格納する」のに対し、引用発明3では、「一の医薬品から見た他の医薬品の一般名コード、薬効分類コード、BOXコードかの少なくともいずれかについて、相互作用が発生する組み合わせを格納し、また、他の一の医薬品から見た医薬品の一般名コード、薬効分類コード、BOXコードかの少なくともいずれかについて、相互作用が発生する組み合わせを格納する」点で相違する

本件発明1は「自己医薬品と相手医薬品との組み合わせ」と、「相互作用マスタに登録した医薬品の組み合わせ」についての合致の有無を判断するものであるのに対し、前記第2の3ウ(ア)及び上記イ(イ)によれば、引用発明3は、①医薬品相互作用チェックテーブル105において、「自己テーブル部」に、「自己医薬品」に係る「一般名コード」、「薬効分類コード」、「BOXコード」が存在するかをそれぞれ検索し、②いずれかのコードが存在していれば、処方医薬品相互作用チェックテーブルTの形態で「一時記憶テーブル110」に記憶し、③「一時記憶テーブル110」に記憶したデータの「相手テーブル部」に、「相手医薬品」に係る「一般名コード」、「薬効分類コード」、「BOXコード」が存在するかをそれぞれ検索し、④いずれかのコードが存在していれば、「自己医薬品」と「相手医薬品」とが相互作用を有する組み合わせが存在すると判断するものである。

そうすると、引用発明3の「検索処理」と本件発明1の「相互作用チェック処理」とは、いずれも、「入力された新規処方データの各医薬品を自己医薬品及び相手医薬品とし、自己医薬品と相手医薬品の組み合わせについて、相互作用をチェックするためのマスタに基づいて相互作用をチェックするための処理」を実行する点で共通するものの、引用発明3の「検索処理」は、自己医薬品と相手医薬品と間で、一般名コード、薬効分類コード、BOXコードのいずれかの組み合わせが存在すれば相互作用を有する組み合わせであると判断するものであり、自己医薬品と相手医薬品との組み合わせと相互作用マスタに登録した医薬品の組み合わせとの、医薬品の組み合わせ同士の合致を判断しているとはいえないから、本件発明1の「自己医薬品と相手医薬品との組み合わせと相互作用マスタに登録した医薬品の組み合わせが合致するか否かを判断することにより、相互作用チェック処理を実行する」「相互作用チェック処理」とは相違する。

(イ)一致点及び相違点

以上によれば、本件発明1と引用発明3は、次の一致点において一致し、前記第2の3(2)ウ(ウ)記載の相違点4-1のほか次の相違点において相違することが認められる。

a 一致点

「一の医薬品から見た他の医薬品の相互作用が発生する組み合わせを個別に格納する相互作用をチェックするためのマスタを記憶する記憶手段と、

入力された新規処方データの各医薬品を自己医薬品及び相手医薬品とし、自己医薬品と相手医薬品の組み合わせについて、上記マスタに基づいて相互作用をチェックするための処理を実行する制御手段と、

前記制御手段による自己医薬品と相手医薬品の間の相互作用をチェックするための処理の結果を、表示する表示手段と、

を備えたことを特徴とする医薬品相互作用チェック装置」

b 相違点

〔相違点4-8〕

相互作用をチェックするためのマスタが、本件発明1では、「一の医薬品から見た他の一の医薬品の場合と、前記他の一の医薬品から見た前記一の医薬品の場合の2通りの主従関係で、相互作用が発生する組み合わせを格納する」のに対し、引用発明3では、「一の医薬品から見た他の医薬品の一般名コード、薬効分類コード、BOXコードかの少なくともいずれかについて、相互作用が発生する組み合わせを格納し、また、他の一の医薬品から見た医薬品の一般名コード、薬効分類コード、BOXコードかの少なくともいずれかについて、相互作用が発生する組み合わせを格納する」点

〔相違点4-9〕

相互作用をチェックするための処理が、本件発明1では、自己医薬品と相手医薬品との組み合わせと相互作用マスタに登録した医薬品の組み合わせが合致するか否かを判断するのに対し、引用発明3では、「自己テーブル部」に「自己医薬品の一般名コードが存在するか」、「自己医薬品の属する薬効分類コードが存在するか」、「自己医薬品に付与されたBOXコードが存在するか」をそれぞれ検索して、いずれかのコードが存在していれば、処方医薬品相互作用チェックテーブルTの形態で一時記憶テーブル110に記憶し、一時記憶テーブル110に記憶したデータの「相手テーブル部」に、「相手医薬品の一般名コードが存在するか」、「相手医薬品の属する薬効分類コードが存在するか」、「相手医薬品に付与されたBOXコードが存在するか」をそれぞれ検索して、いずれかのコードが存在していれば、「自己医薬品」と「相手医薬品」とが相互作用を有する組み合わせが存在すると判断するものである点

エ 以上のとおりであるから、審決は、本件発明1と引用発明3の相違点の認定に際し、相違点4-8、4-9を看過したものであり、相違点の認定の誤りがあるというべきである

(3)相違点4-8、4-9に関する容易想到性について

ア 相互作用をチェックするための処理について、引用発明3においては、自己医薬品について、一般名コード、薬効分類コード、BOXコードのそれぞれについて検索を行い、相手医薬品についても、一般名コード、薬効分類コード、BOXコードのそれぞれについて検索を行うため、6回の検索が必要であり、一時記憶テーブルを必要とするのに対し、本件発明1においては、医薬品と医薬品の組み合わせ同士の合致を判断するため、1回の検索(双方向の検索をそれぞれ別の検索と考えても2回の検索)により行うことができる。

また、得られる検索結果について、本件発明1においては、処方された医薬品の組み合わせと相互作用をチェックするためのマスタに登録された医薬品の組み合わせとが合致したものを検索結果とするのに対し、引用発明3においては、医薬品相互作用チェックテーブル105に登録された自己医薬品と相手医薬品の一般名コードが一致するものだけではなく、自己医薬品と薬効分類コードやBOXコードの一致する他の医薬品の相互作用チェックテーブルも一時記憶テーブルに記憶し、相手医薬品の一般名コード、薬効分類コード、BOXコードが存在するかを検索するため、薬効分類コード、BOXコードのいずれかのみの一致するものも検索結果とし、本件発明1よりも多くの検索結果を得るものと解され、両発明において得られる検索結果は異なる。

このように、引用発明3は、添付文書の相互作用の項目に記載された医薬品の情報をそのままコード化してデータベースを構築し、相互作用をチェックするための処理において、データベースの各項目(一般名、薬効、BOX)それぞれについて検索を行うことにより漏れのない相互作用チェックを行うのに対し、本件発明1は、添付文書の相互作用の項目に記載された医薬品の情報に基づいて医薬品と医薬品との組み合わせについてデータベースを構築し、相互作用チェック処理においては、医薬品と医薬品との組み合わせのみで単純に検索するため、1回の検索(双方向の検索をそれぞれ別の検索と考えても2回の検索)で相互作用チェックできるというものであるから、両発明はその技術思想を異にするものである。

イ そして、相違点4-8、4-9に係る構成を開示する他の証拠も示されていないから、本件発明1の相違点4-8、4-9に係る構成を、当業者が容易に想到し得たとはいえない。

(4)原告の主張について

ア 本件発明1について

(ア)原告は、被告らによる「個別に格納」が、①同一粒度、かつ、②分離格納を意味するとの主張について、審判手続において現実に争われたものではないから、本件訴訟において審理の対象とされるべきでないと主張する。しかし、上記被告らの主張は、審判手続において審理判断された公知事実との対比における相違点の認定の誤りに関する主張であって、これは、審決取消訴訟の審理の対象にほかならないから、原告の主張は失当である。

(イ)原告は、本件発明1の「個別に格納」とは、①A薬品からみたB薬品に関する相互作用情報と、②B薬品からみたA薬品に関する相互作用情報を個別に格納することであり、①A薬品からみたB薬品に関する相互作用情報と、③A薬品からみたC薬品に関する相互作用情報とを個別に格納することは意味しないと主張するが、この点に関する判断は前記(2)ア(イ)に説示したとおりである。

(ウ)原告は、本件発明の技術的特徴はマトリックス形式による表示にあり、本件発明の目的は、ある2つの医薬品間の相互作用チェックの結果を、2通りの主従関係を区別して表示することにあるから、本件発明においては、ある2つの医薬品同士の相互作用が主従を区別して定義されていれば足り、その定義が同じレベルの概念(基準ないし粒度)同士の組み合わせでされていることは必要ではないと主張する。しかし、「各医薬品を自己医薬品及び相手医薬品とし」て「相互作用マスタに登録した医薬品の組み合わせと合致するか否かを判断する」という「相互作用チェック処理」における検索処理を前提にすれば、「2通りの主従関係で」「個別に格納」といえるためには、医薬品が同一のレベルの概念で統一される必要があることは前記(2)ア(イ)に説示したとおりである。

また、原告は、仮に異なるレベルの概念同士の組み合わせで相互作用が定義されていたとしても、それぞれの概念に当てはまる具体的な医薬品が定義されていれば、結果として、具体的な医薬品同士の相互作用として主従を区別して表示することができると主張するが、結果として同一の検索結果が得られるからといって、データの格納の構成が同一であるとはいえないことは明らかである。

さらに、原告は、本件発明1はデータ格納方式を特定するものではなく、ツリー構造での格納方式も含まれると主張する。しかし、本件発明1がデータの格納の構成について特定するものであることは、前記(2)ア(イ)に説示したとおりである。

(エ)原告は、本件発明2が薬効コード同士の組み合わせで相互作用が発生する組み合わせを定義する態様であることから、各コードに該当する具体的な医薬品の数に応じて、「1対1」の場合もあれば、「1対多」の場合もあれば、「多対多」の場合もあれば、「多対1」の場合もありうるのであり、本件発明が「1対1」であるということもできないと主張する。しかし、「相互作用が発生する組み合わせを各医薬品の効能を定めた薬効コード同士の組み合わせとして格納」する本件発明2についても、同一のレベルの概念で統一して、個々別々に格納されているといえるのは、前記(2)ア(イ)a(c)に説示したところから明らかである。

(オ)原告は、本件特許の出願経過からも、同様の理解ができると主張するが、原告の指摘する意見書の記載は、本件発明の「個別に格納」が同一のレベルの概念で統一して、個々別々に格納することを意味することと矛盾するものではなく、原告の主張は採用できない。

イ 本件発明1と引用発明3の対比について

(ア)原告は、引用発明3の「医薬品相互作用チェックテーブル105」の各コードの組み合わせに着目すれば、一般名コード同士、薬効分類コード同士といった同じ概念同士のコードの組み合わせを含むことが当然に予定されているから、引用発明3も本件発明と同じく、同じ概念のコード同士で相互作用が発生する組み合わせを記憶する構成を含んでいるものであって、相違はないと主張する。しかし、本件発明1の「相互作用マスタ」において、医薬品は同一のレベルの概念で統一して、その組み合わせが個々別々に格納されているといえる必要があるところ、引用発明3の「医薬品相互作用チェックテーブル105」においては、相手テーブル部の一般名コード、薬効分類コード、BOXコードの各欄には、必ずしもすべてにコードが格納されているとは限らないことは前記(2)イ(ア)のとおりである。

(イ)原告は、「相互作用マスタ」に記憶される情報と「相互作用チェックテーブル105」に記憶される情報は、いずれも相互作用が発生する医薬の分類に関するコード同士の組み合わせであり、違いはないと主張する。しかし、本件発明1において「相互作用マスタ」におけるデータの格納の構成が発明特定事項とされていることは前記(2)ア(イ)のとおりであり、引用発明3の「医薬品相互作用チェックテーブル105」がこれと同じ構成を有するといえないことは明らかであって、この点は、「医薬品相互作用チェックマスタ104」において医薬品とコードの紐づけがされていることによって左右されるものではない。

(ウ)原告は、引用発明3は、処方された医薬品を自己医薬品及び相手医薬品とすることから、その検索過程は本件発明1と異ならないと主張するが、前記(2)ウ(ア)に説示した点に照らせば、処方された医薬品を自己医薬品及び相手医薬品とすることは上記相違点の認定に関する判断を左右するものではない。原告の主張するその余の点も、以上に説示したところに照らし、上記相違点の認定に関する判断を左右するものではない。

(5)小括

以上のとおり、審決の相違点の認定の誤りは、本件発明1の進歩性を否定した審決の結論に影響を及ぼすものであることが明らかであるから、被告取消事由1は理由がある。

3 被告取消事由2~6(本件発明2~4、6、8に関する進歩性判断の誤り)について

本件発明2~4、6、8は、いずれも本件発明1を間接又は直接に引用するものであり、相違点の認定の誤りについて上記2に述べたところが妥当する。

そうすると、本件発明2~4、6、8における追加の構成に係る相違点の有無や容易想到性について判断するまでもなく、本件発明2~4、6、8の相違点の認定には誤りがあり、その誤りは、これらの発明を無効とした審決の判断の結論に影響を及ぼすものといえる。

したがって、被告取消事由2~6はいずれも理由がある。

4 原告取消事由1(本件発明5、7、9に関する引用発明1に基づく新規性、進歩性判断の誤り)について

(1)引用発明1の認定について

ア 甲3、7、8文献の記載

(ア)甲3文献

甲3文献には、「現在市販されている相互作用チェックのためのシステムについて、院外の薬局などを対象としたものをいくつか紹介する(表1)。ここでは、各システムについて紹介することを目的とし、内容は各社から頂いた回答をほぼそのままの表現で記載した。」(259頁右欄14~19行)と記載され、表1には、福神株式会社の「医療用添付文書情報サービス『EDIS』」について、「A薬品とB薬品との間で相互作用がある場合、双方向でのチェックが可能か?」に対して、「可能」とある。

(イ)甲7文献

甲7文献からは、福神株式会社のインターネット医療用医薬品添付文書情報サービス「EDIS(エディス:Ethical Drug Information Service)For WWW」の、「相互作用チェックシステム」という画面には、「相互作用検索・マトリックス表示」と記載され、マトリックス表示された画面が見て取れ、当該画面において、対象となる医薬品名とアルファベットを行に表示し、列にはアルファベットのみを表示したマトリックス表示において、相互作用チェック結果を該当するセルに表示することが見て取れる。

「情報サービスの概要(インターネット版)」のページにおいては、医療用添付文書情報サービス(EDIS)は、「添付文書の情報をデータベース化」した「添付文書データベース」を備え、医療用添付文書情報サービス(EDIS)が備える相互作用チェックシステムは、「医薬品間でそれぞれ添付文書に相互作用の記載があるかどうかを検索して、マトリックスで表示します。併用禁忌は赤色で、併用注意は黄色で表示されます。 検索項目 商品名、一般名、薬効名など」と記載されている。

(ウ)甲8文献

甲8文献によれば、EDISによる相互作用検索・マトリックス表示の画面において、対象となる医薬品名とアルファベットを行に表示し、列にはアルファベットのみを表示したマトリックス表示において、相互作用チェック結果を該当するセルに表示すること、「チェック開始」ボタン、「画面クリア」ボタンが表示され、相互作用検索マトリックスの行には、アルファベットに対応させて、医薬品名を入力可能な「テキストボックス」があることが見て取れる。また、チェック結果を、併用禁忌のセルを赤色とし、記号◎で表し、併用注意のセルを黄色とし、記号○で表すことが記載されている。

イ これによれば、本件出願日前に公然実施されていたEDISの構成として、前記第2の3(2)ア(ア)記載の引用発明1を認めることができる。

ウ さらに、甲8文献の別紙6-2からは、EDISの相互作用検索・マトリックス表示の画面において、「テキストボックス」に医薬品名を入力して「チェック開始」ボタンをクリックすると、相互作用チェックが行われ、「画面クリア」ボタンをクリックすると、入力された「テキストボックス」がクリアされ、相互作用チェック結果もクリアされると理解できる。

また、「テキストボックス」に医薬品名を入力して「チェック開始」ボタンをクリックして相互作用チェック結果が表示されている状態で、さらに、空欄の「テキストボックス」に医薬品名を入力して「チェックボタン」をクリックすると、新たに追加して入力された医薬品を含めた相互作用チェック結果が表示されると理解できる。

これによれば、引用発明1のほか、前記第5の1(1)記載の原告主張引用発明1を認めることができる。

(2)相違点の認定について

ア 本件発明1の「相互作用マスタ」の意義は前記2(2)アに説示したとおりであり、本件発明1と引用発明1の一致点は前記第2の3(2)ア(イ)記載の一致点のとおりであり、以下のとおり、相違点は同(ウ)記載の相違点(相違点1-1~1-4)のとおりであると認められる。

(ア)相違点1-1

甲7文献、乙6、7の記載によれば、引用発明1の「添付文書の情報をデータデース化した添付文書データベース」は添付文書の相互作用の項目に記載された情報を全文検索できるように構成したものである。そして、添付文書には、医薬品に対して、相互作用が発生する医薬品等が記載されているが、添付文書の相互作用の項目には、1つの医薬品に対して、降圧剤のような上位の薬効分類での記載、また、1つの医薬品に対して相互作用が発生する複数の医薬品が記載されることが通常であることは、前記2(2)ア(ア)のとおりである。

そうすると、A薬品の「添付文書の情報」は、A薬品に対して相互作用が発生する医薬品の情報として、B薬品のみならず、他の医薬品や薬効分類の情報も含むことになる。引用発明1の「添付文書データベース」は、このような「添付文書の情報」を全文検索可能にデータベース化したものであるため、A薬品に対するB薬品の相互作用のデータは、A薬品に対する他の医薬品や薬効の相互作用のデータとは、個々別々のデータということができない。

したがって、引用発明1の「添付文書データベース」は、本件発明1の「相互作用マスタ」の構成を有するとはいえない。

(イ)相違点1-2

甲3、7、8文献のいずれにも、入力画面における医薬品名が新規処方データであることは記載されていない。また、甲8文献の別紙6-1、6-2においては、新規処方データとはいえない「グレープフルーツジュース」が入力されている。

そうすると、引用発明1において、入力され、チェック対象となる医薬品は任意のものであり、「新規処方データ」とは特定されていない。

(ウ)相違点1-3

上記(ア)のとおり、引用発明1の「添付文書データベース」は、添付文書の相互作用の項目に記載された情報を全文検索できるように構成したものである。

引用発明1で行われる医薬品Aと医薬品Bとの相互作用のチェック処理においては、まず、医薬品Aの添付文書を特定し、次に、医薬品Aの添付文書の相互作用の項目を医薬品Bで全文検索を行い、医薬品Bが存在していれば、医薬品Aと医薬品Bの組み合わせが相互作用を有すると判断していると解される。

したがって、引用発明1の検索処理が、本件発明1の「相互作用マスタ」と同様の構成を備えるものに対して実行されてはいない。

(エ)相違点1-4

甲7文献及び甲8文献別紙6-1、6-2によれば、列には、アルファベットのみが表示され、医薬品の名称は表示されていない。

イ 以上のとおりであるから、審決が相違点1-1~1-4を認定したことに誤りはない。

ウ なお、上記(1)のとおり、甲3、7、8文献からは、引用発明1のみならず原告主張引用発明1を認定することができるが、原告主張引用発明1は、引用発明1に「さらに、相互作用チェック結果の表示画面には、医薬品名を入力可能な『テキストボックス』及び『チェック開始』ボタンが配置され、『テキストボックス』に医薬品名を追加入力し、『チェック開始』ボタンを押下することでテキストボックス入力された医薬品名が、チェック対象として設定され、チェック結果を表示すべきチェック対象としてマトリックスに表示され、相互作用チェックが行われる」との構成(以下、「引用発明1付加構成」という。)を付加したものである。そして、原告主張引用発明1は、引用発明1の構成をすべて備えるものであり、本件発明1と引用発明1とを対比したときの一致点、相違点と、本件発明1と原告主張引用発明1とを対比したときの一致点、相違点とは、同じものとなる。このように、上記の引用発明1付加構成は、本件発明1との一致点、相違点の認定には関係しない構成である。

以上のとおり、審決の引用発明1の認定に誤りはないし、また、本件発明1の新規性、進歩性の判断において、原告主張引用発明1を対象とする必要もないから、この点は、審決の結論に影響を及ぼすものではない。

(3)容易想到性の判断について

ア 相違点1-1、1-3について

(ア)文献の記載

a 甲14文献には、「医薬品相互作用チェックの為のファイルもしくはデータベース等の作り方において、従来の方法は大きく二つの形態に分けられる。第一の方法は、相互作用を有する医薬品の関係を個々の医薬品に対し設定する方法であり、それは川合等による「処方支援(相互作用チェック)システム」(月刊薬事Vol.38、No.2(1996)79-86頁)に記載されている。第二の方法は、相互作用を有する医薬品の関係を文字情報(テキストデータ)で構築する方法であり、特開平8-275988号公報あるいは特開平9-99039号公報に開示されている。」との記載がある(【0003】)。

b 甲15文献は、甲14文献における「第一の方法」を示すものであり、甲15文献には次のとおりの記載がある。

「北大病院での処方オーダリングシステムの概略

当院はホスト・コンピュータとして2台のACOSシステム3600/8(主記憶容量32MB)を配置している(図1)。処方オーダによる処方作成は、薬剤基本・検索・コメント・DIなどの各テーブル、患者データファイルなどを用いる。・・・・

相互作用チェック機能

相互作用のチェックは、処方を発行する直前の画面上で必ず行われる。相互作用をチェックしたい組み合わせについては、併用禁忌である各薬剤の基本テーブルに、対象薬剤のコードなどを登録することでお互いにチェックが可能となる。

本システムでのチェック機能は、すでに処方発行(あるいは予約登録)されている薬剤のうち、服用期間が重複するものについて、院内・院外、入院・外来、自科・他科などの処方せんの種類を問わず、処方開始日より30日前のものから投薬終了日までチェックをかけるように設定した(図2)。・・・

(1)相互作用のチェック対象と代替薬の提示

相互作用に関してはチェックをかけるべき組み合わせは多々報告されている。しかし、登録品目数が多くなるほど、処方監査に費やされる応答時間が延長すること等により、成書や添付文書等に記載されているすべての相互作用例を登録することは現段階では現実的ではない。したがって当院では、処方オーダに登録されている医薬品(一部、注射薬を含む)のうち、添付文書上に「~との併用を避ける。」あるいは「~との同時服用を避ける。」などのように明確に記載されているものを採択した。・・・

(2)基本テーブルの設定

相互作用をチェックする源となるテーブルとして、既存の薬剤基本テーブル中に「相互作用欄」を新たに設けた(図3中央)。この欄は「監査区分」・「パターン」・「コード」・「コメントコード」の4つの欄を1セットとして構成する。薬剤基本テーブル中には「相互作用欄」が5セット分あり、最大5種類まで対象薬(群)を登録することが可能である。その他に「成分」、「同効類似」、「相互禁忌」の欄を今回、新たに1個ずつ設けた。

「監査区分欄」ではチェックをかけたものを「エラー」(「併用禁忌」と明記されている場合)として処方の変更を促すのか、「警告」(「同時服用を避ける。」のように併用禁忌に準ずると判断される場合)として確認を促すのかの2段階のうちのどちらかを選択できる。

「パターン」欄はどの項目を対象にして相互作用をチェックするかを設定するもので、対象項目には①「(薬品)コード」欄、②「成分」欄、③「同効類似」欄、④「相互禁忌」欄、⑤「薬効」欄の5種類がある(図3の①~⑤)。

「コード」欄には対象項目のコードが最大6桁まで登録できる。対象項目を「(薬品)コード」(図3の①)とした場合では数字6桁であり、「薬効」欄(図3の⑤)では日本標準商品分類番号の下4桁を用いている(バクシダール錠では876241のうち、6241)。また、対象が「成分」、「同効類似」、「相互禁忌」の場合では、英文字あるいは数字を最大6桁まで新規に登録することで利用可能となる。なお、6桁目まで登録しない場合にはコードの最後に「*」を追加することにした。

「コメントコード」欄には、処方チェック時に画面上に表示させるコメントのコード3桁を登録する。

これらを登録すると、たとえば図中「U,1,221091,033」では、対象薬剤の薬剤基本テーブル中の「(薬品)コード」欄(図3の①)をチェックし、「221091」と登録されている薬剤(商品名:ナパノール)が処方されていた場合には「エラー」(U)とし、コメントテーブルに登録されている「033」のコメントを画面表示する。また、「G,3,AL*,081」では、「同効類似」の欄(図3の③)をチェックし、「AL」と登録されている薬剤(アルミニウムを含有する制酸剤)が併用されていれば「警告」(G)とし、「081」のコメントを画面表示する。

相互作用の登録欄は5セット分であり、チェック対象が一成分で数品目ある薬剤や、グループである場合には医薬品コードを登録していくと不足が生じる。その対策として、今回の機能追加に伴い新規に設定した「成分」、「同効類似」、「相互禁忌」の各欄を対象項目とすることにより、対象薬剤が5品目を超える場合にも対処した。たとえば、対象薬からチェックがかかるようにバクシダール錠では「成分」欄(図3の②)に略号の「NFLX」を登録した。・・・

相互作用チェック機能の実際

例として「バクシダール錠」と「ナパノール錠」、「マーロックス」を処方すると、処方登録時に、「バクシダール錠」に「ナパノール(相):スパラ、他の抗生物質へ」、「ナパノール錠」には「バクシダール(相):ポンタール等へ変更」、「マーロックス」には「ニューキノロン(相):セルベックス等へ」のコメントが各々、画面表示される(図4)。・・・

相互作用の詳細を知りたい場合は、当該薬剤の用量入力の所で「H」(Helpの頭文字)を入力することにより、DI情報を画面上で参照できる(図5)。ここでは併用禁忌の対象薬、その理由、代替薬などの情報をさらに詳しく知ることができるようにDIテーブルへ登録している。・・・」

以上によれば、甲15には、薬剤基本テーブルに、相互作用を有する対象薬剤のコードを5セットまで登録でき、処方された薬剤に関して、基本テーブルに登録された相互作用の対象薬剤のコードと、処方された他の薬剤のコードとが一致すれば、相互作用があると判断することにより、相互作用チェックを行うことが記載されている。

(イ)容易想到性

以上のとおり、甲14、15文献には、一の薬剤の薬剤基本テーブルに、相互作用を有する対象薬剤のコードを複数セット登録することは記載されているが、前記2(2)ア(イ)に認定した、本件発明1の「相互作用マスタ」における「個別に格納」の構成をとることは記載されていない。

したがって、甲14、15文献に、相違点1-1、1-3に係る構成が開示されているということはできない。

加えて、引用発明1の「添付文書データベース」を、文字情報(テキストデータ)でない他のデータ構造に変更すると、引用発明1の、商品名や一般名の両方でチェックすることができ、名称に限らず、相互作用欄に記載されている言葉で検索できるという、相互作用を有する医薬品の関係を文字情報(テキストデータ)で構築したことによる特徴を失うことになるから、引用発明1において、このような変更を行う動機付けもない。

このように、甲14、15文献は、相違点1-1、1-3に係る構成を開示するものではないし、引用発明1の添付文書データベースを他のデータ構造に変更する動機付けもない。

よって、引用発明1において、相違点1-1、1-3に係る構成を当業者が容易に想到し得たとはいえず、相違点1-1、1-3に係る構成の容易想到性についての審決の判断に誤りはない。

(ウ)原告の主張について

原告は、引用発明1において、一の医薬品(薬品A)から見た他の一の医薬品(薬品B)の相互作用情報と、他の一の医薬品(薬品B)から見た一の医薬品(薬品A)の相互作用情報とが、別々に格納されているのであるから、引用発明1にリレーショナルデータベースの格納方式を採用すれば本件発明1の構成に至ると主張する。

しかし、医薬品の添付文書の相互作用の項目には、医薬品名だけでなく、「降圧剤」のような上位の薬効分類での記載、飲食物や飲酒などの情報、1つの医薬品に対して相互作用が発生する複数の医薬品が記載されることが通常であり(前記2(2)ア(ア))、これらの相互作用をデータベースに格納する際にリレーショナルデータベース形式を採用したとしてもデータベースへの格納の形式は一意に定まるものではなく、リレーショナルデータベース形式に変更することが、「一の医薬品」と「他の一の医薬品」との相互作用が発生する組み合わせを個々別々に格納することに直ちには結びつかない。

そして、引用発明1の「添付文書データベース」についてリレーショナルデータベースの格納方式を採用すると、商品名や一般名の両方でチェックすることができ、名称に限らず、相互作用欄に記載されている言葉で検索できるという、添付文書データベースを文字情報(テキストデータ)で構築したことによる特徴を失うことになるから、引用発明1において、このような変更を行う動機付けがないことは、上記(イ)に説示したとおりである。

イ 本件発明5、7、9について

本件発明5、7、9は本件発明1を間接又は直接に引用するものであるから、相違点1-1、1-3の構成を有しているところ、これらの構成について当業者が容易に想到することができたといえないのは上記アに説示したとおりである。

そうすると、本件発明5、7、9における追加の構成の容易想到性について判断するまでもなく、本件発明5、7、9について、引用発明1及び原告の主張するその他の文献(甲3、14、15、18、19、22文献、甲46~50)に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(4)小括

以上のとおりであるから、本件発明5、7、9について、新規性及び進歩性を欠如するとはいえないとした審決の判断に誤りはなく、原告取消事由1は理由がない。

5 原告取消事由2(本件発明5、7、9に関する引用発明2に基づく進歩性判断の誤り)について

(1)引用発明2の認定について

前記4(1)ア(イ)の甲7文献の記載によれば、前記第2の3(2)イ(ア)記載の引用発明2を認めることができる。

(2)相違点の認定について

ア 前記4(1)及び上記(1)によれば、本件発明1と引用発明2の一致点は、前記第2の3(2)イ(イ)のとおりであり、相違点は同(ウ)のとおりであると認められる。

イ 原告の主張について

原告は、相違点3-1~3-4は存在しないと主張するが、本件発明1と引用発明2の対比においても前記4(2)に説示したところが妥当するから、原告の主張は採用できない。

(3)容易想到性の判断について

甲13文献の薬品相互作用テーブルは、各医薬品に対し、添付文書に記載されている併用薬品を全て登録したものであるから、本件発明の「一の医薬品から見た他の一の医薬品の場合と、前記他の一の医薬品から見た前記一の医薬品の場合の2通りの主従関係で、相互作用が発生する組み合わせを個別に格納する相互作用マスタ」の構成を開示するものではない。

そうすると、引用発明2と甲13文献記載の発明を組み合わせることにより、当業者が相違点3-1、3-3に係る構成に容易に想到することができたということはできないから、審決の容易想到性の判断に誤りはない。

(4)小括

以上のとおりであるから、本件発明5、7、9について、進歩性を欠如するとはいえないとした審決の判断に誤りはなく、原告取消事由2は理由がない。

6 原告取消事由3(本件発明5、7、9に関する引用発明3に基づく進歩性判断の誤り)について

本件発明5、7、9は、いずれも本件発明1を間接又は直接に引用するものであり、相違点の認定及び相違点4-8、4-9の容易想到性について前記2に述べたところが妥当する。

そうすると、本件発明5、7、9における追加の構成に係る相違点の有無や容易想到性について判断するまでもなく、本件発明5、7、9は引用発明3、甲3、6~10、18、19、22文献、甲46~50に基づいて容易に想到できたものであるとはいえない。

したがって、本件発明5、7、9について、引用発明3に基づいて進歩性を欠如するとはいえないとした審決の判断は結論において誤りはなく、原告取消事由3は理由がない。