保護カバー事件

投稿日: 2018/07/20 1:29:36

今日は平成29年(行ケ)第10195号 審決取消請求事件について検討します。本件は原告である旭産業株式会社が被告である有限会社フォーラムの保有する特許に対して請求した特許無効審判の審決の取消しを求めたものです。

1.手続の時系列の整理(特許第4787121号)

2.訂正後の特許請求の範囲(請求項1)

【請求項1】(本件発明1)

管体(5)の屈曲部の外径周面を覆う外径カバー体(1)と、管体(5)の屈曲部の内径周面を覆う内径カバー体(2a、2b)とを一体に連接して構成した、弾性素材からなる管体の屈曲部保護カバー(11)において、

前記内径カバー体(2a、2b)の内径部分を管体周面と交差する方向に分離離隔して、第1の内径カバー体(2a)と、第2の内径カバー体(2b)とを形成し、それぞれの対向する端部を係合接続自在に構成すると共に、

前記第1、第2の内径カバー体(2a、2b)のうち一方の内径カバー体(2a)は、

その端部を内方へ折曲して形成した一次折曲部(7)と、この一次折曲部(7)からの延長部分を中途で外方へ折返して、同一次折曲部(7)と対面させて形成した二次折曲部(8)と、この二次折曲部(8)と前記一次折曲部(7)との間に形成された略V字状溝部(11)と、前記二次折曲部(8)からの延長部分を内方へ折曲して形成した係合受歯(9)とを備え、

他方の内径カバー体(2b)は、その端部において、前記係合受歯(9)と係合自在に形成された係合歯(19)を備え、

一次折曲部(7)の側端縁を、内径カバー体(2a、2b)の側端縁と略テーパー状に対向させて幅方向において内方へ位置させると共に、二次折曲部(8)の側端縁を、一次折曲部(7)の側端縁と略テーパー状に対向させて幅方向においてさらに内方に位置させることで、前記第1の内径カバー体(2a)と前記第2の内径カバー体(2b)とを係合接続したときに形成される係合接続部分の厚みを、その中央部から側端縁部に向かって漸次的に薄くなるように構成することにより、その側端縁部を前記管体(5)の内径面に密着させた状態で管体(5)を内装するべく構成したことを特徴とする管体の屈曲部保護カバー。


3.審決の理由の要点

以下、審決の理由中、本件の争点に関連する部分の要点について摘示する。

(1)無効理由1(明確性要件違反について)

原告は、本件明細書は、「側端縁」という用語と「側端縁部」という用語の違いについて説明していないから、本件特許の請求項1中の「一次折曲部の側端縁を、内径カバー体の側端縁と略テーパー状に対向させて幅方向において内方へ位置させると共に、二次折曲部の側端縁を、一次折曲部の側端縁と略テーパー状に対向させて幅方向においてさらに内方に位置させることで、前記第1の内径カバー体と前記第2の内径カバー体とを係合接続したときに形成される係合接続部分の厚みを、その中央部から側端縁部に向かって漸次的に薄くなるように構成した」という事項(以下「事項C」という。)が、明確に理解できない旨主張する。

本件発明1の「一次折曲部の側端縁を、内径カバー体の側端縁と略テーパー状に対向させて幅方向において内方へ位置させると共に、二次折曲部の側端縁を、一次折曲部の側端縁と略テーパー状に対向させて幅方向においてさらに内方に位置させる」との構成によると、「側端縁」として、「一次折曲部の側端縁」、「内径カバー体の側端縁」及び「二次折曲部の側端縁」の三つの側端縁を明確に特定することができるから、「側端縁」とは、上記「一次折曲部」、「内径カバー体」及び「二次折曲部」の各側端縁を意味することが明らかである。また、「前記第1の内径カバー体と前記第2の内径カバー体とを係合接続したときに形成される係合接続部分の厚みを、その中央部から側端縁部に向かって漸次的に薄くなるように構成する」との構成において、「その中央部から側端縁部」が、「係合接続部分」の「中央部から側端縁部」であることは文言上明らかであるから、「側端縁部」とは、「前記第1の内径カバー体と前記第2の内径カバー体とを係合接続したときに形成される係合接続部分」における側端縁部を意味することが明らかであり、さらに、上記「係合接続部分」の厚みが、「その中央部から側端縁部に向かって漸次的に薄くなるように構成する」ことは、「一次折曲部の側端縁を、内径カバー体の側端縁と略テーパー状に対向させて幅方向において内方へ位置させると共に、二次折曲部の側端縁を、一次折曲部の側端縁と略テーパー状に対向させて幅方向においてさらに内方に位置させること」に起因した構成であることも技術的に明らかである。

よって、本件発明が明確性要件に違反するとはいえない。

(2)無効理由3(進歩性欠如について)

ア 登録実用新案第3079994号公報(甲1)に記載された発明(以下「甲1発明」という。)を主引用発明とした場合

(ア)甲1発明

「配管された管20の直角又は任意角度に屈曲している屈曲部分に装着される屈曲管カバー30において、

中央部が幅広な短冊状部材を半円形に折り曲げた状態で複数枚を連結してエルボ胴部31が形成され、

前記エルボ胴部31の前後面に正面形状が銀杏葉状の締付け板32が固着され、

前記エルボ胴部31の正面視で該エルボ胴部31の両端内側部から締付け板32に至る部分にシール材33が接着され、

配管された管の屈曲部分に装着された屈曲管カバー30は、シール材33が直管カバーと屈曲管カバーの接続部の隙間を閉塞する、

屈曲管カバー30。」

(イ)本件発明1と甲1発明との対比

【一致点】

「管体の屈曲部の外径周面を覆う外径カバー体と、管体の屈曲部の内径周面を覆う内径カバー体とを一体に連接して構成した、管体の屈曲部保護カバーにおいて、前記内径カバー体の内径部分を管体周面と交差する方向に分離離隔して、第1の内径カバー体、第2の内径カバー体とを形成した、管体の屈曲部保護カバー。」

【相違点】

(相違点1)

「管体の屈曲部保護カバー」の素材について、本件発明1は、「弾性素材からなる」ものであるのに対し、甲1発明は、そのように特定されていない点。

(相違点2)

「第1、第2の内径カバー体」について、本件発明1は、「それぞれの対向する端部を係合接続自在に構成すると共に」、「前記第1、第2の内径カバー体のうち一方の内径カバー体は、その端部を内方へ折曲して形成した一次折曲部と、この一次折曲部からの延長部分を中途で外方へ折返して、同一次折曲部と対面させて形成した二次折曲部と、この二次折曲部と前記一次折曲部との間に形成された略V字状溝部と、前記二次折曲部からの延長部分を内方へ折曲して形成した係合受歯とを備え、他方の内径カバー体は、その端部において、前記係合受歯と係合自在に形成された係合歯を備え、一次折曲部の側端縁を、内径カバー体の側端縁と略テーパー状に対向させて幅方向において内方へ位置させると共に、二次折曲部の側端縁を、一次折曲部の側端縁と略テーパー状に対向させて幅方向においてさらに内方に位置させることで、前記第1の内径カバー体と前記第2の内径カバー体とを係合接続したときに形成される係合接続部分の厚みを、その中央部から側端縁部に向かって漸次的に薄くなるように構成することにより、その側端縁部を前記管体の内径面に密着させた状態で管体を内装するべく構成した」ものであるのに対し、甲1発明は、そのように特定されていない点。

(ウ)相違点の判断

a 相違点1について

管体の屈曲部保護カバーを「弾性素材」で構成することは、かかる技術分野の周知技術といえる。

そして、甲1発明は、「屈曲管カバー」の素材について特に特定されるものではないが、屈曲管カバーとして機能する素材が適宜選択され得ることは技術的に明らかであるから、上記周知技術をも参考とすると、甲1発明の屈曲管カバーを弾性素材で構成することは、当業者にとって格別困難なことではない。

b 相違点2について

(a)甲1には、締付け板(本件発明1の内径カバー体に相当する部材)の形状について、「正面形状が銀杏葉状」と記載されているものの、締付け板の形状が、その先端に至るまで漸次幅狭形状であるかどうかを特定することができず、甲1発明の「屈曲管カバー」に、甲1の図2に示される「直管カバー」と同様な「雌型及び雄型係合部」を形成しても、本件発明1のように二次折曲部の側端縁が、一次折曲部の側端縁と略テーパー状に対向させた構造になるとまで断ずることはできない。

また、甲1には、管の屈曲部分に対する屈曲カバーの取付け態様も何ら示されていないことから、相違点2に係る本件発明1の「前記第1の内径カバー体と前記第2の内径カバー体とを係合接続したときに形成される係合接続部分の厚みを、その中央部から側端縁部に向かって漸次的に薄くなるように構成することにより、その側端縁部を前記管体の内径面に密着させた状態で管体を内装するべく構成した」ということもできない。

したがって、甲1発明に甲1の図2等に記載された技術事項を適用したとしても、上記相違点2に係る本件発明1の構成に至るものではなく、当業者が容易になし得たものとはいえない。

(b)甲4~8には、本件発明1の二つの内径カバー体に相当する部材として、根元部分に比較して、先端にいくに従って、「その部分的な形状」が漸次幅狭となるものが図面で記載されているにとどまり、「その先端に至るまでの形状」が漸次幅狭となるものが記載されるものではない。

したがって、本件発明1の「第1の内径カバー体」及び「第2の内径カバー体」に相当する部材の形状として、根元部分に比較して、先端にいくに従って、「その部分的な形状」が漸次幅狭となるものが上記甲4~8に記載されるように周知技術であるとしても、この周知技術は、「その先端に至るまでの形状」が漸次幅狭となるものではないから、甲1発明に上記周知技術を適用しても、上記相違点2に係る本件発明1の構成に至るものではない。

(c)そして、本件明細書の記載によると、本件発明1は、「管体に装着する際に係合接続させる係合部が管体の屈曲部内径に干渉することを防止して、装着性を向上させた管体の屈曲部保護カバーを提供する」という課題を解決するために(段落【0011】)、少なくとも、相違点2に係る本件発明1の構成を採用し(段落【0012】)、このような構成によって「両内径カバー体の係合接続部分において、それぞれ端部に向かって可及的に漸次幅狭となるように形成した両内径カバー体を、両端部近傍が重合するように互いを係合させることで、係合接続部分における突出部分を可及的に小さくすると共に係合接続部分の側縁部における厚みを可及的に薄くして、管体へ装着した際に、内径カバー体が管体の屈曲部内径面に干渉することを防止して、管体への装着性を向上させて管体の屈曲部を効果的に保護することができる。」(段落【0016】)及び「一次折曲部から二次折曲部、二次折曲部から係合受歯へ向かう板幅を、漸次的に幅狭として一方の内径カバー体における側端縁部の厚みを可及的に薄くすることができ、管体への装着時に、両内径カバー体の接続部分が管体の屈曲部内径と干渉することを防止して、管体への装着性を向上させることができる。」(段落【0017】)という効果を奏するものであるところ、甲1、4~8には、そのような課題、解決手段及び効果について何ら記載も示唆もない。

(d)したがって、甲1発明に甲1の図2等に記載された技術事項を適用したとしても、あるいは、甲1発明に甲1、4~8に記載された技術事項(周知技術)を適用したとしても、上記相違点2に係る本件発明1の構成に至るものではない。また、本件発明1の効果も甲1発明及び甲1、4~8に記載された技術事項(周知技術)から当業者が予測しうる範囲のものということもできない。以上のとおりであるから、本件発明1は、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(エ)本件発明2の容易想到性

本件発明2は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに減縮したものであるから、本件発明1と同様に、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

イ 実願平2-107659号のマイクロフィルム(甲2)に記載された発明(以下「甲2発明」という。)を主引用発明とした場合

(ア)甲2発明

「配管の屈曲部を被覆する配管カバー用エルボ16において、

外側湾曲部18及び繋ぎ側部分24、26を有し、

前記外側湾曲部18は、配管カバー用エルボ16の周方向へ半円状に曲げられて、配管カバー用エルボ16の延び方向へ相互に結合されている複数枚の板金20から成り、

前記繋ぎ側部分24、26は、配管カバー用エルボ16の周方向における外側湾曲部18の端部に一端側を固定される板金から成り、

前記繋ぎ側部分24は、端部において3回折り返されて嵌入溝28が形成され、繋ぎ側部分24の端縁30は、嵌入溝28の奥の方へ折り返され、

前記繋ぎ側部分26の端部には、繋ぎ側部分26の長手方向に複数個のポケット状凸部32が形成され、

前記繋ぎ側部分26の端部を繋ぎ側部分24の嵌入溝28内へ嵌入する、

配管カバー用エルボ16。」

(イ)本件発明1と甲2発明との対比

【一致点】

「管体の屈曲部の外径周面を覆う外径カバー体と、管体の屈曲部の内径周面を覆う内径カバー体とを一体に連接して構成した、弾性素材からなる管体の屈曲部保護カバーにおいて、前記内径カバー体の内径部分を管体周面と交差する方向に分離離隔して、第1の内径カバー体と、第2の内径カバー体とを形成し、それぞれの対向する端部を係合接続自在に構成すると共に、前記第1、第2の内径カバー体のうち一方の内径カバー体は、その端部を内方へ折曲して形成した一次折曲部と、この一次折曲部からの延長部分を中途で外方へ折返して、同一次折曲部と対面させて形成した二次折曲部と、この二次折曲部と前記一次折曲部との間に形成された略V字状溝部と、前記二次折曲部からの延長部分を内方へ折曲して形成した係合受歯とを備え、他方の内径カバー体は、その端部において、前記係合受歯と係合自在に形成された係合歯を備えた、管体の屈曲部保護カバー。」

【相違点】

本件発明1は、「一次折曲部の側端縁を、内径カバー体の側端縁と略テーパー状に対向させて幅方向において内方へ位置させると共に、二次折曲部の側端縁を、一次折曲部の側端縁と略テーパー状に対向させて幅方向においてさらに内方に位置させることで、前記第1の内径カバー体と前記第2の内径カバー体とを係合接続したときに形成される係合接続部分の厚みを、その中央部から側端縁部に向かって漸次的に薄くなるように構成することにより、その側端縁部を前記管体の内径面に密着させた状態で管体を内装するべく構成した」ものであるのに対し、甲2発明は、そのように特定されていない点。

(ウ)相違点の判断

上記相違点に係る本件発明1の構成は、本件発明1と甲1発明との相違点2に係る構成と実質的に同様であり、このような構成が甲4~8に記載された技術事項(周知技術)を含めて検討しても容易想到でないことは既に述べたとおりである。

(エ)本件発明2、3の容易想到性について

本件発明2、3は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに減縮したものであるから、本件発明1と同様に、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

ウ 実願昭59-82532号のマイクロフィルム(甲3)に記載された発明(以下「甲3発明」という。)を主引用発明とした場合

(ア)甲3発明

「エルボの外側を断熱材で囲みこの断熱材の外側を覆う薄い金属板よりなり主体部10から細長く延びる1対の結合片部11、12を結合させるエルボジャケットカバーであって、

一方側の前記結合片部11にはこの結合片部11の先端部をわずかの所定長さだけ外方へ折曲げて折曲げない部分に近接するようにして端縁部を係合縁部21とした第1の折曲片部17と、この第1の折曲片部17に続いてこの第1の折曲片部17と共にこれより長い所定長さだけ外方へ折曲げて折曲げない部分に近接するようにした第2の折曲片部18と、この第2の折曲片部18に続いてこれより長い所定長さだけ前記第1及び第2の折曲片部17、18と共に内方へ折曲げて折曲げない部分に近接するようにして第1及び第2の折曲片部17、18との間に挿入部22を形成する第3の折曲片部19とを有しており、

他方側の前記結合片部12の先端付近には一部に切断して内方へ突出した突起部23が形成してあり、

この突起部23を形成した結合片部12の先端部を前記挿入部22へ挿入して突起部23を係合縁部21へ係合させるようにした、

エルボジャケットカバー。」

(イ)本件発明1と甲3発明との対比

【一致点】

「管体の屈曲部の外径周面を覆う外径カバー体と、管体の屈曲部の内径周面を覆う内径カバー体とを一体に連接して構成した、弾性素材からなる管体の屈曲部保護カバーにおいて、前記内径カバー体の内径部分を管体周面と交差する方向に分離離隔して、第1の内径カバー体と、第2の内径カバー体とを形成し、それぞれの対向する端部を係合接続自在に構成すると共に、前記第1、第2の内径カバー体のうち一方の内径カバー体は、その端部を内方へ折曲して形成した一次折曲部と、この一次折曲部からの延長部分を中途で外方へ折返して、同一次折曲部と対面させて形成した二次折曲部と、この二次折曲部と前記一次折曲部との間に形成された略V字状溝部と、前記二次折曲部からの延長部分を内方へ折曲して形成した係合受歯とを備え、他方の内径カバー体は、その端部において、前記係合受歯と係合自在に形成された係合歯を備えた、管体の屈曲部保護カバー。」

【相違点】

本件発明1は、「一次折曲部の側端縁を、内径カバー体の側端縁と略テーパー状に対向させて幅方向において内方へ位置させると共に、二次折曲部の側端縁を、一次折曲部の側端縁と略テーパー状に対向させて幅方向においてさらに内方に位置させることで、前記第1の内径カバー体と前記第2の内径カバー体とを係合接続したときに形成される係合接続部分の厚みを、その中央部から側端縁部に向かって漸次的に薄くなるように構成することにより、その側端縁部を前記管体の内径面に密着させた状態で管体を内装するべく構成した」ものであるのに対し、甲3発明は、そのように特定されていない点。

(ウ)相違点の判断

上記相違点に係る本件発明1の構成は、本件発明1と甲1発明との相違点2に係る構成と実質的に同様であり、このような構成が甲4~8に記載された技術事項(周知技術)を含めて検討しても容易想到でないことは既に述べたとおりである。

(エ)本件発明2の容易想到性について

本件発明2は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに減縮したものであるから、本件発明1と同様に、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

4.裁判所の判断

1 認定事実

(1)本件発明の内容について

-省略-

(2)甲1発明及び甲1の記載事項について

甲1には、「管の表面を被覆した保温材を保護する保護カバー」に関し、以下の記載があり、以下のア、エ及び図4から、甲1には審決が認定した前記第2の3(2)ア(ア)の甲1発明が記載されているものと認められる。

ア 「【0001】【考案の属する技術分野】本考案は、冷媒あるいは温水を供給する管の表面を被覆した保温材を保護するための保護カバーに関している。」

イ 「【考案の実施の形態】図1は直管カバーの接続部を、図2は直管カバー接続部の横断面を、図3は直管カバー接続部の縦断面を、図4は屈曲管カバーを示している。

【0007】図1において、1は直管カバーであって、円筒形状に形成されていて軸方向の側端部に雌型係合部2及び雄型係合部3を設け、保温材の表面に装着するまでは各係合部2、3が開放されている。雌型係合部2は、軸方向に平行する側端部を三つ折りに折り曲げたものであり、又、雄型係合部3は、前記雌型係合部2と係合させるものであって、抜け止め突子4を設けたものである。」

ウ 「【0010】次に直管カバーの接続工程並びに接続された状態を説明する。まず直管カバー1(1a)を配管された管20に被覆した保温材21の外側に当接し、雌型係合部2に雄型係合部3をテープ11を剥がしたシール材10とともに差し込み係合して当該保温材21の外側に装着する。図2に示すように、直管カバー1は軸方向に平行して形成された接続部にシール材10が貼着されているので、当該シール材10によって雌型及び雄型係合部2、3の縦方向の隙間が閉塞される。」

エ 「【0013】図4に示す屈曲管カバーは、一般にエルボカバーと称されており配管された管の屈曲部分に装着するものである。屈曲管カバー30は、中央部が幅広な短冊状部材を半円形に折り曲げた状態で複数枚を連結してエルボ胴部31を形成し、該エルボ胴部31の前後面に正面形状が銀杏葉状の締付け板32を固着したものであって、エルボ胴部31の正面視で該エルボ胴部31の両端内側部から締付け板32に至る部分にシール材33を接着したものである。シール材33は直管カバー1に設けたものと同質のものであって、軟質のブチルゴム又はこれと同質資材によるものである。なお、34はシール材33に貼布したテープを示している。

【0014】屈曲管カバー30の装着状態は図示しないが、配管された管20の直管部分には先に説明した直管カバー1を装着し、直角又は任意角度に屈曲している屈曲部分に屈曲管カバー30を装着する。配管された管の屈曲部分に装着された屈曲管カバー30は、シール材33が直管カバーと屈曲管カバーの接続部の隙間を閉塞する。」


(3)甲2発明について

甲2には、「配管カバー用エルボ」に関し、以下の記載があり、それによると、甲2には審決が認定した第2の3(2)イ(ア)の甲2発明が記載されているものと認められる。

ア 「〔産業上の利用分野〕この考案は、給湯管等の配管の屈曲部を被覆するエルボに係り、繋ぎ作業を改善できる配管カバー用エルボに関するものである。」(明細書1頁18行~2頁1行)

イ 「第1図は繋ぎ合わせ前の配管カバー用エルボ16の斜視図である。外側湾曲部18は、配管カバー用エルボ16の周方向へ半円状に曲げられて、配管カバー用エルボ16の延び方向へ相互に結合されている複数枚の板金20から成り、板金20は、一方の隣接側において突条膨出部22を有し、突条膨出部22はリブとして機能する。繋ぎ側部分24、26は、配管カバー用エルボ16の周方向における外側湾曲部18の端部に一端側を固定される板金から成り、それら板金は繋ぎ合わせ前の状態ではほぼ真っ直に延びている。

第2図は繋ぎ側部分24、26の端部の詳細図である。繋ぎ側部分24は、端部において3回折り返されて、嵌入溝28を形成する。繋ぎ側部分24の端縁30は、嵌入溝28の奥の方へ折り返されている。繋ぎ側部分24の折り返しは、所定の弾力性を保持しているので、嵌入溝28は弾力的に拡開自在である。繋ぎ側部分26は、パンチ工具等により予めポケット状凸部32を端部に加工されるもので、繋ぎ側部分26の長手方向、すなわち配管カバー用エルボ16の周方向へ複数個、形成される。ポケット状凸部32は、繋ぎ側部分26の先端方向へ徐々に傾斜し、繋ぎ側部分26の基端方向へ段部を形成している。

第3図は繋ぎ側部分24、26を相互に繋ぎ合わせた状態を示している。(中略)最初に第1図の状態の配管カバー用エルボ16を配管10の屈曲部に外角側から被せる。次に、繋ぎ側部分24、26を湾曲させつつ、接近させ、繋ぎ側部分26の端部を繋ぎ側部分24の嵌入溝28内へ嵌入する。(中略)繋ぎ側部分26が嵌入溝28から抜け出ようとする変位に対しては、ポケット状凸部32の段部が端縁30に当接し、抜けが阻止される。」(明細書5頁12行~7頁8行)

(4)甲3発明について

甲3には、「エルボジヤケツトカバー」に関し、以下の記載があり、それによると、甲3には審決が認定した第2の3(2)ウ(ア)の甲3発明が記載されているものと認められる。

ア 「2 実用新案登録請求の範囲

エルボの外側を断熱材で囲みこの断熱材の外側を覆う薄い金属板よりなり主体部から細長く延びる1対の結合片部を結合させるエルボジヤケツトカバーであつて、一方側の前記結合片部にはこの結合片部の先端部をわずかの所定長さだけ外方へ折曲げて折曲げない部分に近接するようにして端縁部を係合縁部とした第1の折曲片部と、この第1の折曲片部に続いてこの第1の折曲片部と共にこれより長い所定長さだけ外方へ折曲げて折曲げない部分に近接するようにした第2の折曲片部と、この第2の折曲片部に続いてこれより長い所定長さだけ前記第1及び第2の折曲片部と共に内方へ折曲げて折曲げない部分に近接するようにして第1及び第2の折曲片部との間に挿入部を形成する第3の折曲片部とを有しており、他方側の前記結合片部の先端付近には一部に切断して内方へ突出した突起部が形成してあり、この突起部を形成した結合片部の先端部を前記挿入部へ挿入して突起部を係合縁部へ係合させるようにしたエルボジヤケツトカバー。」(明細書1頁4行~2頁4行)

イ 「この考案はエルボの部分を断熱材で囲みその外周を覆つて保護する薄い金属板よりなるエルボジヤケツトカバーに関するものである。」(明細書2頁7~9行)

ウ 「図面の簡単な説明 第1図はこの考案の一実施例を一部断面として示す側面図、第2図はその背面部図、第3図は結合状態を一部断面として示す要部の側面図(中略)である。

10はエルボジヤケツトカバーの主体部、11、12は結合片部、17は第1の折曲片部、18は第2の折曲片部、19は第3の折曲片部、21は係合縁部、22は挿入部、23は突起部。」(明細書7頁6行~8頁3行)

(5)実公昭46-21562公報(甲4)の記載事項について

甲4には、「保温を要する鉄管等の屈曲部分の保温材保護金具」に関し、以下の記載がある。

ア 「第3図は金具の斜視図」(1欄15行~16行)

イ 「本考案は鉄管等で保温を要するもの、殊にその屈曲部の保温材を保護するための保護金具に関するものである。」(1欄19行~21行)

ウ 「1は保温を要する鉄管で略90°に屈曲した個所をもち、鉄管全体に保温材2が巻付けられている。3、3は鉄管の直線部分の保護金具で保温材2の外側に巻付けて固定してある。4は屈曲部分の保護金具で、中央部が端部に比し若干幅広く形成された短冊状の部材5、6、7、8、9を夫々側面U字状に彎曲させて組合わせさらに銀杏葉状に形成した巻付部材10、10を前記部材5……9の端部上下に結合して組立てるものである。」(1欄32行~2欄2行)

エ 「而してこれを予め保温材2を巻いた鉄管1の屈曲部に嵌め込み、屈曲している管の内側に巻付部材10、10を引き出し保温材2と保護金具4の間に隙間が生じないように密着させて巻付部材10、10の端部を嚙み合わせて結合部20を形成して固着するのである。」(2欄28行~33行)

(6)実公昭48-19180号公報(甲5)の記載事項について

甲5には、「保温を要する鉄管等の屈曲部分の保温材保護金具」に関し、以下の記載がある。

ア 「第3図は本考案金具の斜視図」(1欄15行~16行)

イ 「本考案は主として屋外に放置される鉄管等で保温を要するもの、殊にその屈曲部の保温材を風雨から守るための保護金具の改良に関するものである。」(1欄19行~22行)

ウ 「11は保温すべき鉄管等で略90°に屈曲した部分があり、これに保温材12が巻きつけられている。13、13は直線部分の保護金具で保温材12に巻装固定してある。14は屈曲部分の保護金具で断面U字状で長手方向の開放部を円心側にして平面扇形に形成した屈曲部材15の円心側端側に銀杏葉状の締付部材16、16を溶着してある17は結合部である。而して屈曲部の保温材12上に保護金具14を嵌め込み、屈曲せる円心側に締付部材16、16を出し保温材12と金具の間に隙間が生じないように密着させて締付部材16、16の端部を嚙み合わせ結合部17を形成て固定する。」(2欄13行~25行)

(7)特開昭61-36596号公報(甲6)の記載事項について

甲6には、「保温材の保護カバー」に関し、以下の記載がある。

ア 「本件発明は冷暖房などの空調設備の配管に使用する保温材保護カバーの製造方法に関するものである。」(1ページ左欄下6行~4行」

イ 「カバー本体1は5枚の短冊状部材2、3、4、5、6と2枚の巻付部材7、7からなっている。前記短冊状部材2・・・6は何れも中央部が端部に対して若干幅広く形成されており、各部材の側縁どうしを接続すると全体で90°屈曲したカバー本体1が形成される。・・・次に仮止めした結合部に銀杏葉状の巻付部材7を重合し、・・・巻付部材7、7とカバー本体1を結合する。」(2頁右上欄16行~同頁右下欄3行)

ウ 「(B)は巻付部材の斜視図」(2頁右下欄下から1行)

(8)特開昭62-242197号公報(甲7)の記載事項について

甲7には、「保温材の保護カバー」に関し、以下の記載がある。

ア 「本発明は冷暖房などの空調設備の配管に使用する保温材の保護カバーの製造方法に関している。」(1頁左欄下から3行~2行)

イ 「カバー本体1は5枚の短冊部材2、3、4、5、6と2枚の巻付部材7、7からなっており、短冊部材2・・・6は中央部が端部に比してやや幅広く形成されており、又、巻付部材7、7は銀杏葉状に形成されている。第1図を参照して短冊部材2・・・6は各部材を断面U字状に折り曲げると共に各部材を接合し、全体の形状を「蝦」の腹部に似せた形状に仕上げる。また巻付部材7、7はカバー本体1が正面扇形に形成されるので、扇の要に相当する部分に重合して接着する。」2頁右上欄1行~11行)

ウ 「Bは巻付部材の斜視図」(3頁左欄下から6行)

(9)特開2002-372188号公報(甲8)の記載事項について

甲8には、「湯管の外被保温筒におけるエルボカバー」に関し、以下の記載がある。

ア 「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、湯管の放熱を防ぐための外被保温筒のL型屈曲部(エルボ)を覆うために装着するエルボカバーの構造に関する。」

イ 「【0006】【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため、本発明は、カラー鉄板製の各背甲片1のうち両端背甲片1aについてはその両側端部にのみ切込み舌片2aを、その両端背甲片1a、1aに挟まれた複数の背甲片1bには対向両側の一端部に切込み舌片2a、他端部に舌片差込部2bを設ける。そして、前記各背甲片1を求芯方向に湾曲させて段重ねする際に、前記切込み舌片2aを舌片差込部2bに差込んで各要部位の仮止め4をした上、両外側からアゴ板3を鋲着5して湯管の外被保温筒におけるエルボカバーを構成する。」

ウ 「【0012】図5は組立完成斜視図であり、これを湯管の外被保温筒におけるL型屈曲部へ被せ、アゴ板3を下側へ折曲げて装着するものとする。」

2 取消事由1(明確性要件についての判断の誤り)

(1)原告は、「側端縁」という用語と「側端縁部」という用語の意味の違いを一義的に理解できないなどと主張する。

しかし、側端縁について、本件特許の請求項1の記載からすると、「一次折曲部の側端縁」及び「二次折曲部の側端縁」が、一次折曲部及び二次折曲部のそれぞれの側端の縁、すなわち各部の幅方向における「縁」を意味することは明らかである。また、「内径カバー体の側端縁」は、同様に内径カバー体の側端の縁を意味することは明らかであるが、本件特許の請求項1の「一次折曲部の側端縁を、内径カバー体の側端縁と略テーパー形状に対向させ幅方向において内方へ位置させる」との記載からすると、ここでいう「内径カバー体の側端縁」とは、内径カバー体の幅方向における「縁」すべてを指すのではなく、そのうち、一次折曲部、二次折曲部及び係合歯部の側端縁を含まない範囲の「縁」(特に、一次折曲部の側端縁と対向する箇所における側端縁)を意味するものであると理解できる。

そして、「側端縁部」について、本件特許の請求項1の「前記第1の内径カバー体と前記第2の内径カバー体とを係合接続したときに形成される係合接続部分の厚みを、その中央部から側端縁部に向かって漸次的に薄くなるように構成することにより、その側端縁部を前記管体の内径面に密着させた状態で管体を内装するべく構成した」という記載からすると、第1の内径カバー体と第2の内径カバー体とを係合接続したときに形成される係合接続部分の中央部に対する側端の縁、すなわち、係合接続部分の幅方向における「縁」の意味であると解される。

以上のとおり、本件特許の請求項1には「側端縁」及び「側端縁部」という二つの用語が併存しているものの、その二つの用語の意味ひいては事項Cの内容は上記のように当業者において容易に理解できるものといえ、本件発明が明確性要件に違反するとはいえない。

(2)ア 原告は、本件明細書において、「側端縁部」は、二次元的な広がりを持つ部位を指す用語として使用されているものと理解できるが、それを前提とすると、事項Cは不明確である旨主張する。

しかし、本件特許において、「一次折曲部」や「二次折曲部」が二次元的な広がりを持つ部位を指しているからといって、それのみで「側端縁部」も同様に二次元的な広がりを持つ部位を指すと解されるとはいえない。本件明細書の段落【0017】には「請求項1に係る本発明では、前記一次折曲部から前記二次折曲部を経て前記係合受歯先端に至る前記一方の内径カバー体の端部は、漸次幅狭となるように構成したことを特徴としたため、一次折曲部から二次折曲部、二次折曲部から係合受歯へ向かう板幅を、漸次的に幅狭として一方の内径カバー体における側端縁部の厚みを可及的に薄くすることができ、管体への装着時に、両内径カバー体の接続部分が管体の屈曲部内径と干渉することを防止して、管体への装着性を向上させることができる。」と記載されていて、この記載から「側端縁部」が一定の厚みを有するとまではいえるが、それは必ずしも「側端縁部」が、「一次折曲部」や「二次折曲部」と同様な意味で二次元的な広がりを持つ部位であることを意味するものではない。そして、他に「側端縁部」が二次元的な広がりを持つ部位を指していることをうかがわせるような記載は本件明細書中には見当たらない。

したがって、「側端縁部」が二次元的な広がりを持つ部位を指すことを前提として本件発明が不明確であるとする原告の主張は採用することができない。

イ 原告は、「側端縁部」が「側端縁」と同様に特定の部材の縁の意味であると解すると、本件明細書の段落【0017】の「一方の内径カバー体における側端縁部の厚みを可及的に薄くすることができ」が一方の内径カバー体に使用された部材の厚さを薄くするという意味となり、なぜ、「管体への装着時に、両内径カバー体の接続部分が管体の屈曲部内径と干渉することを防止して、管体への装着性を向上させることができる。」との本件発明の作用効果につながるのか理解できなくなるから本件発明は不明確であると主張する。

しかし、前記のとおり、「側端縁部」とは、第1の内径カバー体と第2の内径カバー体とを係合接続したときに形成される係合接続部分の幅方向における「縁」と解されるのであり、その「縁」の厚みが薄くなることは、「管体への装着時に、両内径カバー体の接続部分が管体の屈曲部内径と干渉することを防止して、管体への装着性を向上させることができる。」との本件発明の作用効果を奏することになるから、原告の主張を採用することはできない。

3 取消事由2(進歩性判断の誤り)

(1)甲1発明を主引用発明とする進歩性の欠如について

ア 本件発明1と甲1発明との対比

本件発明1と甲1発明とを対比すると、前記第2の3(2)アの一致点及び相違点が認められ、審決の一致点及び相違点の認定に誤りはない。

本件発明1は、「①一次折曲部の側端縁を、内径カバー体の側端縁と略テーパー状に対向させて幅方向において内方へ位置させると共に、二次折曲部の側端縁を、一次折曲部の側端縁と略テーパー状に対向させて幅方向においてさらに内方に位置させることで、②前記第1の内径カバー体と前記第2の内径カバー体とを係合接続したときに形成される係合接続部分の厚みを、その中央部から側端縁部に向かって漸次的に薄くなるように構成することにより、③その側端縁部を前記管体の内径面に密着させた状態で管体を内装するべく構成した」という事項(以下「事項D」という。)によって特定された発明であって、かつ事項Dは本件発明1と甲1発明との相違点2(なお、後述するように、事項Dは、本件発明1と甲2、3発明との相違点でもある。)に含まれるものである。

この点について、原告は、下線部②の構成は、下線部①の構成を採用することで必然的に達成される上、下線部③の構成は、管体の内径面の大きさによっては達成されないこともある不確定な構成であるから、進歩性判断に当たっては、下線部①の構成が容易想到であるかを検討すれば足り、下線部②、③の構成は捨象されるべきであると主張する。

しかし、以下に示すように、下線部③の構成については、下線部①の構成とは別にこれを進歩性判断の中で検討する必要があるものである。

すなわち、下線部①の構成を採用したとしても、一次折曲部の側端縁と内径カバー体の側端縁との間で対向する部分の略テーパー状とされる度合い(幅方向に狭まっていく度合い)が十分なものでなければ、内径カバー体の側端縁に対向する一次折曲部の側端縁が十分に内方に位置せず、そのために、係合接続部分の側端縁部の極めて近くまで、内径カバー体と一次折曲部による重なり合いが生じることとなる。また、二次折曲部の側端縁と一次折曲部の側端縁との間で対向する部分の略テーパー状とされる度合いが十分なものでなければ、一次折曲部の側端縁に対向する二次折曲部の側端縁が十分に内方に位置せず、そのために、一次折曲部の側端縁の極めて近くまで一次折曲部と二次折曲部による重なり合いが生じることとなる。このような場合には、係合接続部分の中央部から離れた部分が管体へ近接する方向に突出し、管体の内径面の大きさに関係なく、側端縁部が管体の内径面に密着しなくなって、下線部③の構成が達成されなくなることが想定できる。したがって、本件発明1は、下線部①の構成を採用して、一次折曲部の側端縁と内径カバー体の側端縁との対向する部分及び二次折曲部の側端縁と一次折曲部の側端縁との対向する部分が、略テーパー状とされていれば、その略テーパー状とされる度合いがいかなるものであっても許容されるというものではなく、少なくとも下線部③の構成が達成される程度の度合いで内径カバー体と一次折曲部の各側端縁、一次折曲部と二次折曲部の側端縁がそれぞれ略テーパー状となること、換言すれば、内径カバー体のうち二次折曲部の先端となる部分までが、そのような略テーパー状となる程度において漸次幅狭形状であることをも要求しているものであって、それを達成しないものを排除していると解される。

よって、下線部①の構成についてのみ進歩性を判断すべきであるとの原告の上記主張を採用することはできない。

イ 相違点2の容易想到性について

(ア)原告は、甲1の図4に甲1の図2を組み合わせるか、又は甲1の図4と図2を組み合わせた発明に甲4~8のいずれかを組み合わせることで本件発明1の構成に至り、組み合わせる動機付けもあるなどと主張する。

(イ)a 甲1発明について、甲1の図4を見ても、本件発明の内径カバー体に相当する甲1発明の締付け板32が二次折曲部の先端となると部分にいくに従って漸次幅狭となっているのかについては明らかではなく、締付け板32の一方の先端部を折り返して雌係合部を形成したとしても、そもそも下線部①の構成が得られるとは認められない。

また、原告が主張するように締付け板32が「漸次幅狭形状」で下線部①の略テーパー状が形成されることが甲1から認められるとしても、下線部③の構成を達成できる程度に略テーパー状が形成される程に締付け板32が二次折曲部の先端となる部分まで幅狭となっているかどうかは甲1からは全く不明であり、甲1の図4に甲1の図2を組み合わせても下線部③の構成が得られるとは認められない。

b 甲4~8についても、少なくとも甲4、5、8においては、それぞれの図面や記載を見ても、本件発明の内径カバー体に各々相当する部材が、「漸次幅狭形状」となっているとまでは認められないのであり、同部材の先端部を折り返して雌係合部を形成したとしても、そもそも下線部①の構成が得られるとは認められない。

また、仮に原告が主張するように甲4~8の各々について上記内径カバー体に相当する部材が、「漸次幅狭形状」となっていることが認められるとしても、上記甲1の場合と同様、下線部③の構成を達成できる程度の略テーパー状が形成されるように同部材が二次折曲部の先端となる部分まで漸次幅狭となっていることまでは甲4~8から何ら読み取れないから、甲1の図4と図2を組み合わせた発明に甲4~8を組み合わせても下線部③の構成が得られるものではない。

c 以上のとおりであるから、その余の点について判断するまでもなく、本件発明1は甲1発明から容易想到なものとはいえない。

エ 本件発明2、3の容易想到性について

本件発明2、3は、請求項1を引用するものであり、本件発明1の全ての発明特定事項を含むものであるから、本件発明1について甲1発明から容易想到といえない以上、本件発明2、3についても、本件発明1と同様に容易想到とはいえない。

(2)甲2発明を主引用発明とする進歩性欠如について

ア 本件発明1と甲2発明との対比

本件発明1と甲2発明とを対比すると、前記第2の3(2)イ(なお、相違点は事項Dと同一である。)が認められ、審決の一致点及び相違点の認定に誤りはない。

イ 相違点の容易想到性について

甲2発明において、本件発明の内径カバー体に相当する部材が「漸次幅狭形状」でないことは、甲2の記載から明らかであるから、下線部①の構成が得られない。また、上記(1)で検討したのと同様に、仮に甲4~8において本件発明の内径カバー体に相当する部材が各々「漸次幅狭形状」となっていることが認められるとしても、下線部③の構成を達成できる程度の略テーパー状が形成されるように同部材が二次折曲部の先端となる部分まで漸次幅狭となっていることまでは読み取れないのであるから、甲2発明に甲4~8を組み合わせたとしても、相違点に係る下線部③の構成が得られるものではない。

したがって、その余の点について判断するまでもなく、本件発明1は甲2発明から容易想到であるとはいえない。

ウ 本件発明2、3の容易想到性について

本件発明2、3は、請求項1を引用するものであり、本件発明1の全ての発明特定事項を含むものであるから、本件発明1について甲2発明から容易想到といえない以上、本件発明2、3についても、本件発明1と同様に容易想到とはいえない。

(3)甲3発明を主引用発明とする進歩性欠如について

ア 本件発明1と甲3発明との対比

本件発明1と甲3発明とを対比すると、前記第2の3(2)ウ(イ)の一致点と相違点(なお、相違点は事項Dと同一である。)が認められ、審決の一致点及び相違点の認定に誤りはない。

イ 相違点の容易想到性について

甲3発明において、本件発明の内径カバー体に相当する部材が「漸次幅狭形状」でないことは、甲3の記載から明らかであるから、下線部①の構成が得られない。また、上記(1)で検討したのと同様に、仮に甲4~8において本件発明の内径カバー体に相当する部材が各々「漸次幅狭形状」となっていることが認められるとしても、下線部③の構成を達成できる程度の略テーパー状が形成されるように同部材が二次折曲部の先端となる部分まで漸次幅狭となっていることまでは読み取れないから、甲3発明に甲4~8を組み合わせたとしても、相違点に係る下線部③の構成が得られるものではない。

したがって、その余の点について判断するまでもなく、本件発明1は甲3発明から容易想到であるとはいえない。

ウ 本件発明2、3の容易想到性について

本件発明2、3は、請求項1を引用するものであり、本件発明1の全ての発明特定事項を含むものであるから、本件発明1について甲3発明から容易想到といえない以上、本件発明2、3についても、本件発明1と同様に容易想到とはいえない。

(4)なお、原告は、審決が「その先端に至るまで漸次幅狭形状である」という本件発明の特許請求の範囲に何ら記載のない事項を追加して本件発明を限定的に解釈し、進歩性判断を行っており違法である旨も主張する。

しかし、その説示内容に照らすと、審決は、甲1、4~8において本件発明の内径カバー体に相当する部材について、その先端部を折り返して雌係合部を形成したとしても、本件発明1と甲1~3発明との各相違点に係る事項Dに係る構成が得られないことを表すために上記表現を用いたものと認められ、「その先端に至るまで漸次幅狭形状」についても、折り曲げた際に係合受歯になる部分まで漸次幅狭であることが必要であるとする趣旨ではなく、一次折曲部の側端縁と略テーパー状に対向することを要する二次折曲部の先端までの範囲は漸次幅狭であることを要することを明らかにする趣旨の記載であると理解することができる。

したがって、審決が本件発明の特許請求の範囲に何ら記載のない事項を追加して本件発明を限定的に解釈して進歩性判断をしたとはいえない。

(5)また、被告は、平成30年6月7日付け原告第4準備書面に基づく原告の主張が、時期に後れた攻撃防御方法であると主張するが、原告の上記主張が訴訟の完結を遅延させるものとはいえないから、時機に後れた攻撃防御方法には当たらないというべきである。

5.検討

(1)本件発明は、配管の屈曲部を挟み込むようにして覆う保護カバーの接合部に関するものであって、カバーの一方の端部は端を3回折り曲げて形成した係合受歯を有し、他方の端部はその係合受歯と係合する係合歯を有するもので、この一方の端部は折り曲げられる部分より先端側ほど幅が狭くなっている、というものです。これにより幅方向で見ると折り曲げによる重なりが多い中央部分ほど厚く、端の方ほど薄くなるので、配管の屈曲部を挟み込むように係合する際に屈曲部の内側に干渉しにくくなるというものです。

(2)本件は特許無効審判が請求不成立との審決だったので、請求人が原告となって審決の取消し訴訟を起こしたものです。原告は明確性違反と進歩性要件違反を理由として挙げました。

(3)しかし、進歩性違反に関して挙げた証拠を見ると、いずれも係合受歯が形成される端部の折り曲げ部分が幅方向で見た場合に中央部から端まで同じような厚みであって、本件発明のように端になるほど薄くなる構造ではありませんでした。これでは無効にするのは困難だと思います。

(4)また、明確性違反についても、確かに特許請求の範囲の記載は冗長で同じ構成の説明が重複し、明細書中でも側端縁がどの部分を指しているのか明記はされていませんが、図面や効果から推測できる範囲であるので無効と判断するには弱い主張だと思われます。

(5)このように事件の内容自体は取り立てて珍しいものではありません。私が気になったのは請求項1でたびたび出てくる「内方」、「外方」という文言です。これも明細書中では定義が明記されていないようですが、請求項1や明細書中の色々な表現を考慮すると「内方」とはカバーの管体と向き合う側を意味していると思われます。

(6)この前提で請求項1の係合受歯側の端部の構成を見ていくと、まず、「その端部を内方へ折曲して形成した一次折曲部」とあり、図6(b)を見ると管体側に曲げることを「内方へ折曲」と表現していると思われます。次に「この一次折曲部からの延長部分を中途で外方へ折返して、同一次折曲部と対面させて形成した二次折曲部」については図6(b)を見ると同じく管体側に折り曲げています。そうすると「外方」も「内方」と同じ方向に折り曲げることを意味することになってしまいます。

(7)これではおかしいので、図6(b)のように既に全体を折り曲げ終わった状態ではなく、単なる板状部材に対して折り曲げ加工するに当たって予め曲げる位置と方向を決める状況を想定してみます。そうすると、「その端部を内方へ折曲して形成した一次折曲部」は先ほどと同じく管体側に折り曲げることですが、「この一次折曲部からの延長部分を中途で外方へ折返して、同一次折曲部と対面させて形成した二次折曲部」は管体とは反対側に折り曲げることになります。このように折り曲げる前の状態で考えると「外方」についても納得できます。

(8)しかし、そうすると今度は「前記二次折曲部からの延長部分を内方へ折曲して形成した係合受歯」の折り曲げ方向がおかしくなります。この部分は折り曲げていない状態の板で考えると管体とは反対側に折り曲げていることになり、「外方」に折り曲げていることになります。そうすると「内方」、「外方」の解釈はそもそも管体を基準とした向きではないということなのでしょうか?どうにもよくわかりません。